【ものづくり白書2026】製造業がいま向き合うべき「7つのリスク」(総論)

【ものづくり白書2026】製造業がいま向き合うべき「7つのリスク」

SUMMARY 記事のまとめ

「人手が足りない」「仕入れが不安定」「設備が古い」。製造業の経営者なら、誰もが感じている悩みです。実はこれ、2026年5月に政府が出した「ものづくり白書」が指摘する課題とほぼ同じ。この記事では、白書が示す製造業の課題を、現場の言葉で「7つのリスク」に整理しました。むずかしい話は抜きで、自社の弱点を点検する地図として使えます。

この記事の要点(3行)

① いまの製造業の悩みは、大きく「7つのリスク」に整理できる。
② 7つは別々ではなく、つながって大きな損害に育つ。
③ 備え方はシンプルで「まず減らす、それでも残る分は保険で移す」の2段構え。

「うちのことだ」と思う悩み、ありませんか

熟練の職人が辞めたら、あの加工は誰がやるのか。仕入れ先が1社止まったら、明日の生産はどうなるのか。古くなった機械が、ある日突然動かなくなったら――。製造業の経営をしていれば、こうした不安は日常的につきまといます。

2026年5月に政府が公表した「ものづくり白書」を読むと、まさにこの現場の不安と同じことが、日本の製造業全体の課題として書かれています。つまり、あなたが感じている悩みは、あなたの会社だけの問題ではなく、業界全体が向き合っているリスクなのです。

この記事では、その白書の中身を、経営者が実際に手を打てる「7つのリスク」という形に整理しました。自社のどこが弱いのかを点検する地図として、気軽に読み進めてください。

2026年の製造業は「忙しいのに、不安」

POINT

業績そのものは底堅い。でも足元では、人手不足・仕入れの不安定・海外情勢など、生産を止めかねない火種が積み重なっています。「忙しいのに不安」が、いまの製造業の正直な姿です。

白書によれば、製造業の業績は全体として底堅く推移しています。仕事はある。現場は動いている。けれども、その足元では2025年に、生産にブレーキをかける出来事がいくつも起きました。たとえば米国の関税、海外の輸出規制、半導体など部品の入りにくさです。

そして国内で最も深刻なのが、人手不足です。下の数字が、その厳しさを物語っています。

82.9%
「人材育成に課題あり」と
答えた製造業の事業所
7
白書から整理した
経営リスクの数
2段構え
備えの基本
「減らす」+「移す」

8割を超える事業所が「人を育てられない」と答えている。これは、目の前の受注をこなせても、5年先・10年先の現場が成り立たないかもしれない、という危険信号です。業績の数字が良く見えても、その裏でリスクは静かに積み上がっています。だからこそ、「忙しい今」のうちに手を打つことが大切です。

製造業がいま向き合うべき「7つのリスク」

POINT

白書の課題を現場目線でまとめると、7つのリスクになります。どれも「うちにも当てはまる」と感じるはずです。本シリーズで1つずつ、対策まで詳しく解説します。

それでは、製造業がいま向き合うべき7つのリスクを見ていきましょう。むずかしく考えず、「うちはどれが当てはまるかな」という目で眺めてみてください。

1

仕入れが止まるリスク(サプライチェーン)

仕入れ先が1社止まっただけで、生産がストップする。海外情勢や部品不足は、自社の努力だけでは防げません。「止まったとき、どうするか」を先に決めておけるかがカギです。

第2回で詳しく
2

人が足りない・技術が引き継げないリスク

8割超の事業所が人材育成に悩んでいます。熟練の職人が辞めれば、その技術ごと失われる。採用だけでなく「技を残す仕組み」が問われます。

第3回で詳しく
3

設備が古くなる・壊れるリスク

設備は競争力の源。でも持っているだけで、火災・故障・災害の心配がついて回ります。「投資するか」と「守れているか」は、セットで考える必要があります。

第4回で詳しく
4

DX・AIで増える新しいリスク

機械化やAI活用は心強い味方。一方で、サイバー攻撃や、ロボット・製品による事故という新しい心配ごとも生まれます。便利さの裏側にも目を向けておきたいところです。

第5回で詳しく
5

地震・水害で工場が止まるリスク(BCP)

工場も設備も在庫も、一つの場所に集まりがち。だからこそ災害の被害が大きくなります。「もし被災したら、いつ・どう再開するか」の計画があるかどうかで差がつきます。

第6回で詳しく
6

現場のケガ・事故のリスク(労災)

機械や設備の多い製造現場は、事故が起きやすい場所。2026年4月には安全のルール(改正労働安全衛生法)も変わりました。働く人を守ることが、会社を守ることに直結します。

第7回で詳しく
7

海外取引ならではのリスク

海外に拠点を持つ、海外へ製品を売る、海外から代金を回収する。グローバル展開には、国内とは違う固有のリスクがついてきます。技術の流出や模倣品も近年の心配ごとです。

第8回で詳しく

ここで一番大事なことをお伝えします。この7つはバラバラではなく、つながっているという点です。たとえば「人手が足りない」と「DXが進まない」、その結果「競争力が落ちる」――というように、一つの問題が次の問題を呼ぶ。だから、一つずつバラバラに対応するのではなく、会社全体を見渡して備えることが効いてきます。

むずかしく考えなくていい。備え方は2段構え

POINT

7つもあると身構えてしまいますが、やることはシンプル。「① まず自社で減らす → ② それでも残る分を保険で移す」。この順番を押さえるだけです。

「7つも、どこから手をつければ…」と感じたかもしれません。でも、安心してください。世界共通のリスク管理の考え方(ISO 31000)では、備え方を4つに分けて整理します。むずかしい言葉ですが、中身は単純です。

備え方 かんたんに言うと 製造業での例
やめる
(回避)
危険すぎる活動は、そもそもやらない 採算が合わず危険も大きい事業から撤退する
減らす
(低減)
起きにくくする・被害を小さくする 設備の点検、安全教育、仕入れ先の分散、BCP作り
受け入れる
(保有)
小さなリスクは、あえて自社で持つ 影響の小さいものは保険をかけず自社で対応
移す
(移転)
万一の損害を、保険で肩代わりしてもらう 火災・機械・賠償・サイバーなどの保険

4つありますが、製造業の経営でまず押さえるべきは「減らす」と「移す」の2つです。日々の点検や安全管理でリスクの芽を小さくし(減らす)、それでも防ぎきれない万一の損害は保険でカバーする(移す)。この2段構えが基本です。

よくあるのが「備え=とりあえず保険に入る」という発想。でも順番が逆です。まず自社でできる対策をやり切り、それでも残るリスクだけを保険で移す。この順番を意識するだけで、ムダな保険料を払わず、本当に必要な備えに集中できます。

まとめ:7つのリスクと向き合うために

ものづくり白書2026を入り口に、製造業の経営者がいま向き合うべき7つのリスクと、その備え方を整理しました。要点を振り返ります。

  • 現場の不安は、白書が示す製造業全体の課題と同じ
  • 業績が良く見えても、足元でリスクは積み上がっている
  • 向き合うべきリスクは、大きく7つに整理できる
  • 7つは別々ではなく、つながって大きな損害に育つ
  • 備えは「まず減らす、残りは保険で移す」の2段構え

株式会社キールは、ISO 31000 基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。製造業をはじめとする中小企業の経営者さまに、自社に潜むリスクの「見える化」と、ムダのない最適な備えのご提案を、初回無料で承っています。

本シリーズでは、今回ご紹介した7つのリスクを、次回から1つずつ詳しく掘り下げます。気になるテーマからお読みください。リスクは正しく知り、上手に付き合うことで、御社の事業を次へ進める力に変えられます。

もっと詳しく ― 「ものづくり白書」とは

最後に、白書そのものについて少しだけ補足します(読み飛ばしていただいても大丈夫です)。「ものづくり白書」は、正式には「ものづくり基盤技術の振興施策」といい、ものづくり基盤技術振興基本法にもとづいて、政府が毎年、国会に提出する公式の年次報告書です。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省が共同で作成しています。

2026年版(令和7年度)は2026年5月に公表され、全273ページにわたって、製造業の業績、人材、研究開発、競争力強化の施策などを幅広く分析しています。いわば政府がまとめた「日本の製造業の健康診断書」。誰でも無料で読めるので、自社に関係する章だけでも目を通すと、経営判断の参考になります。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 「ものづくり白書」は、どこで読めますか?中小企業の経営にどう役立てればよいですか?

ものづくり白書(ものづくり基盤技術の振興施策)は、経済産業省などのウェブサイトで無料で読めます。全273ページと大部なので、中小企業の経営者の方は、まず自社に関係する章(人材、設備投資、仕入れなど)から目を通すのがおすすめです。白書は業界全体の動きや国の方針を示しているので、自社の経営判断の「外の景色を確認する地図」として使えます。本シリーズでは、その中から経営リスクに直結するポイントを抜き出して解説します。

Q2. 当社は小さな製造業ですが、白書で語られるような立派なリスク管理は自社にも必要ですか?

はい、むしろ規模が小さい会社こそ効果が大きいです。大企業と違い、中小企業では一度の大きな損害(工場火災、主要設備の故障、キーパーソンの離脱など)が、会社の存続そのものを揺るがしかねません。だからこそ「限られたお金と人を、どのリスクに優先して使うか」の判断が、経営を左右します。今回ご紹介した考え方は会社の規模を問わず使えるので、専門の担当者がいなくても、経営者ご自身の判断の物差しとして取り入れられます。

Q3. 7つのリスクのうち、まず何から手をつけるべきでしょうか?

会社によって違いますが、基本は「起きたときの被害が大きく、起きる可能性も高いもの」からです。たとえば、輸出入をする会社なら仕入れ(第2回)、現場作業が多い会社なら労災(第7回)、設備に頼る会社なら設備(第4回)が優先候補です。まずは「これが止まったら困る」というものを書き出し、それぞれにどんな危険があるかを並べてみる。そこから始めるのがおすすめです。進め方は各回で詳しく解説します。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キール(KEEL Co.,LTD)を設立。専門的なリスクコンサルティングを通じて、中小企業の経営の推進力となるリスク管理を提供している。