SUMMARY 記事のまとめ
ものづくり白書2026は、経済安全保障に関するリスク分析の重要性を強調しています。本記事は解説シリーズ最終回(第8回)として、海外展開に伴う固有のリスク——海外拠点の操業、海外で販売した製品の賠償、貿易代金の回収、そして近年相談が増える技術流出・模倣品リスク——を整理し、その備えを解説します。
製造業のグローバル化と新たなリスク
POINT
白書は、経済安全保障を経営に関わるリスクとして認識し対応することの重要性を指摘しています。海外展開は「攻め」の戦略である一方、国内取引にはない固有のリスクを伴います。
ものづくり白書2026は、不確実性を増す対外環境の中で、経済安全保障を重要なテーマとして取り上げています。米国の関税措置をはじめとする国際情勢の急激な変化の中、製造業には、経済安全保障を経営リスクとして認識し、戦略的に対応していくことが求められています。
サプライチェーン観点で
行う製造事業者
見通す期間の最多回答
両方向で意識される
リスクの範囲
ここで、本シリーズ第2回で扱った「サプライチェーン編」との違いを整理しておきます。第2回が国内を含む物流・調達・取引信用といった実務的なリスクを扱ったのに対し、本記事(第8回)は海外拠点・海外販売・経済安全保障といった戦略的なリスクに焦点を当てます。海外に出ること、そして海外と関わることに固有のリスクです。
海外展開に伴う固有のリスク
POINT
海外展開には、海外拠点の操業リスク、海外で販売した製品の賠償(海外PL)、輸出代金の回収リスク、そして為替・関税・地政学リスクといった、国内取引にはない固有のリスクが伴います。
中小製造業が海外に展開する際、国内取引にはなかった固有のリスクに直面します。
現地の自然災害、政情不安、ストライキ、インフラ障害などによる海外工場・拠点の操業停止や資産の損害。
海外で販売した製品が現地で事故を起こし、賠償を求められるリスク。特に米国は賠償額が高額になりやすい傾向があります。
海外取引先の倒産や、相手国の事情による送金停止などで、輸出代金が回収できなくなるリスク。
為替変動による採算悪化、関税措置による競争力低下、紛争・経済制裁による取引の停止。
これらは、自社の努力だけではコントロールしきれない外部要因が多く、だからこそ事前のリスク分析と備えが重要になります。
見落とされがちな「技術流出・模倣品」のリスク
POINT
海外展開では、自社の技術・ノウハウの流出や、模倣品・知的財産侵害のリスクが高まります。白書も、海外流出を防ぐべき技術についての取組に言及しており、近年の製造業からの相談も増えています。
海外展開に伴うリスクのうち、近年特に相談が増えているのが技術流出・模倣品のリスクです。白書も経済安全保障の文脈で、我が国が優位性を持つ技術について、海外流出を防ぐべき技術の範囲に関する情報交換などの取組に言及しています。これは、技術の流出が国レベルでも重要課題と認識されていることを示しています。
中小製造業にとって、技術流出・模倣品のリスクは具体的に次のような形で現れます。
技術流出・模倣品への備えは、まず「低減」が中心です。海外展開の前に、自社の重要な技術・ノウハウを営業秘密として管理し、現地で必要な特許・商標・意匠の権利を取得しておく。契約書で技術の利用範囲や秘密保持を明確にする。こうした事前の知的財産戦略が、流出・模倣を防ぐ最大の防壁です。これらは保険で対応しきれない領域が大きいため、専門家(弁理士・弁護士等)と連携した体制づくりが欠かせません。その上で、知財をめぐる紛争に伴う費用や賠償の一部については、関連する保険でリスクを軽減できる場合があります。自社の技術と海外展開の実態に応じて、知財戦略と保険を組み合わせて検討することが大切です。
経済安全保障リスク分析の進め方と備え
POINT
白書は、情報収集→リスク分析→対応策の実施→見直しというサイクルでリスク管理を進めることを示しています。残るリスクには、海外PL・海外資産・貿易保険(取引信用)といった「移転」で備えます。
白書によれば、経済安全保障に関するリスク分析を行う製造事業者の約7割が、自社のサプライチェーンの観点から分析を行い、その見通し期間は2〜5年程度が最も多くなっています。白書は、こうしたリスク管理を、情報収集→リスク分析→対応策の検討・実施→結果を踏まえた見直し、というサイクルで進めることを示しています。
こうした自社の取組(低減)を進めた上で、残るリスクには保険による「移転」で備えます。
| 残るリスク | どんな事態か | 備えの選択肢(移転) |
|---|---|---|
| 海外拠点の損害 | 海外工場・拠点の災害・操業停止による資産・利益の損害 | 海外資産・海外企業財産包括保険/海外拠点の損害に備える |
| 海外PL | 海外で販売した製品の事故による賠償請求 | 海外PL保険(生産物賠償)/海外での製品賠償に備える |
| 代金回収 | 海外取引先の倒産・送金停止による代金回収不能 | 貿易保険・取引信用保険/輸出代金の回収不能に備える |
海外展開は、適切なリスク分析と備えがあれば、過度に恐れる必要はありません。「攻め」の海外戦略を、しっかりとした「守り」で支えることが、持続的な成長への道です。
まとめ:海外に出るリスク、出ないリスク
本記事では、ものづくり白書2026を起点に、海外展開・経済安全保障リスクと、その備えについて整理しました。本シリーズの最終回として、最後に重要なポイントを振り返ります。
- 白書は経済安全保障を製造業の重要な経営リスクと位置づけている
- 海外展開には海外拠点・海外PL・代金回収・為替関税の固有リスクがある
- 近年相談が増える技術流出・模倣品は、知財戦略(低減)が備えの中心
- リスク管理は情報収集→分析→対応→見直しのサイクルで進める
- 残るリスクは海外資産・海外PL・貿易保険(移転)で備える
株式会社キールは、ISO31000基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。横浜港・川崎港を擁する神奈川エリアの製造業の皆さまに、海外展開に伴うリスクの可視化から、海外PL・海外資産・貿易保険を含む最適な備えのご提案まで、初回無料にて承っております。
「海外展開を考えているが、リスクが整理できていない」「技術流出や模倣品が心配」「海外で売った製品の賠償リスクが不安」といったご相談をお気軽にお寄せください。本シリーズはこれで最終回となりますが、御社の挑戦を「向かい風」から守る伴走者として、いつでもご相談をお待ちしております。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 海外に製品を輸出していますが、国内向けのPL保険だけで備えは足りていますか?
国内向けのPL保険(生産物賠償責任保険)では、海外で発生した製品事故の賠償は補償対象外となっていることが一般的です。海外で販売・使用される製品については、別途、海外PL保険(輸出製品に対応した生産物賠償責任保険)が必要です。特に米国は、製造物責任に関する賠償額が高額になりやすく、訴訟リスクも高い傾向があります。直接輸出していなくても、自社製品が取引先を通じて海外に渡っている場合もリスクの対象となり得ます。自社製品がどの国に、どのような形で流通しているかを確認し、その実態に合った補償を設計することが重要です。輸出先の国や製品の種類によって必要な補償が変わるため、専門家への相談をおすすめします。
Q2. 海外の生産委託先に技術が流出しないか不安です。保険で備えられますか?
技術流出のリスクは、保険で対応できる範囲が限られており、まずは事前の「低減」策が決定的に重要です。具体的には、海外展開の前に、自社の重要な技術・ノウハウを営業秘密として社内で適切に管理すること、現地で必要な特許・商標・意匠などの知的財産権を取得しておくこと、そして委託先との契約書で技術の利用範囲・秘密保持義務・違反時の措置を明確に定めることです。これらの知的財産戦略は、弁理士や弁護士といった専門家と連携して進めるのが効果的です。その上で、知財をめぐる紛争に伴う一部の費用などについては関連する保険で軽減できる場合もあります。技術流出は事後の回復が難しいため、「出す前に守りを固める」ことが何より大切です。当社では、こうした知財リスクを含めた総合的なリスクの棚卸しをお手伝いしています。
Q3. 海外取引先からの代金回収が不安です。どんな備えがありますか?
海外取引の代金回収リスクには、大きく2つのアプローチがあります。まず「低減」として、取引先の信用調査(与信管理)を行い、取引条件(前払い・信用状の活用など)を工夫することが基本です。その上で、自社でコントロールできないリスク——取引先の倒産や、相手国の戦争・為替取引制限・送金停止といった非常事態による回収不能——には、貿易保険や取引信用保険という「移転」の選択肢があります。貿易保険は、特に相手国の政治的・経済的事情による回収不能(非常危険)にも対応できる点が特徴です。輸出の規模や相手国、取引先の信用状況に応じて、与信管理と保険を組み合わせることで、安心して海外取引を拡大できます。自社の取引実態に合った設計をご提案します。
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