SUMMARY 記事のまとめ
米国関税措置、半導体供給制約、地政学リスク——2025年、製造業を取り巻く対外環境は急速に不確実性を増しています。本記事は「ものづくり白書2026」解説シリーズ第2回として、サプライチェーン寸断が中小製造業に与える影響を整理し、ISO31000の「低減」と「移転」の両面から、外航貨物・取引信用・事業中断への備えをわかりやすく解説します。
なぜ今、サプライチェーンリスクが最重要課題なのか
POINT
2025年は米国関税措置・輸出管理規制・半導体供給制約など、製造業の生産を下押しする事象が相次ぎました。白書は、対外環境の不確実性への対応を製造業の重要課題として位置づけています。
ものづくり白書2026は、2025年に生産を下押しする複数の事象が発生したことを指摘しています。米国の関税措置、諸外国による輸出管理規制、半導体等の部素材の供給制約——これらはいずれも、自社の努力だけではコントロールできない「外部環境」の変化です。
白書はこうした状況を「不確実性を増す対外環境」と表現し、製造業が向き合うべき重要な経営課題として一章を割いています。かつてサプライチェーンの問題は大企業の話と思われがちでしたが、いまや部品を輸入し、製品を輸出する中小製造業にとっても、避けて通れないリスクとなっています。
記憶に新しいところでは、2021年のスエズ運河座礁事故が世界の物流を麻痺させ、近年の紅海情勢の緊迫化による航路変更(喜望峰回りへの迂回)は、輸送の遅延と運賃高騰を招きました。海の向こうの出来事が、自社の生産ラインを止める。それが現代のサプライチェーンリスクの本質です。
サプライチェーン寸断が中小製造業に与える3つの影響
POINT
サプライチェーンの寸断は、「調達の停止」「納期遅延」「取引先の連鎖的な経営悪化」という3つの形で、中小製造業の経営を直撃します。特定の取引先や地域への依存度が高いほど影響は深刻です。
サプライチェーンが寸断されたとき、中小製造業が受ける影響は大きく3つに整理できます。
サプライチェーン観点で
行う製造事業者
見通す期間として
最も多い回答
「取引企業の動向把握」
が最も高い割合
白書によれば、経済安全保障の観点からリスク分析を行う製造事業者の約7割が「自社の事業に関わるサプライチェーン」を分析対象としています。これは、サプライチェーンこそが対外環境リスクの最大の論点であることを、製造業自身が認識している証左といえます。
特に危ういのは、1社依存・特定地域依存の構造です。「長年付き合っている信頼できる取引先だから」という理由で調達先を1社に絞っていると、その1社が止まった瞬間に自社も止まります。
白書が示す「サプライチェーン強靱化」の方向性
POINT
白書は強靱化の好事例として、調達部門の強化と、サプライヤーとの情報共有・可視化による関係構築を挙げています。「取引先の動向を把握する」ことが、寸断を未然に防ぐ第一歩です。
では、サプライチェーンの寸断にどう備えればよいのでしょうか。白書は、サプライチェーンの強靱化を進める企業の好事例を紹介しています。そこに共通するのは、次のような取組です。
これらはISO31000でいう「低減」——リスクの発生確率や影響度を下げる取組です。調達先を分散し、在庫戦略を見直し、取引先の状況を可視化する。こうした自社努力が、サプライチェーンリスクへの備えの土台となります。
「低減」だけでは防ぎきれないリスクへの備え
POINT
調達先の分散などの「低減」策を尽くしても、輸送中の事故や取引先の突然の倒産など、自社でコントロールできないリスクは残ります。それらには「移転」(保険)という選択肢で備えます。
調達先の分散や取引先の可視化を進めても、自社の努力だけでは防ぎきれないリスクは残ります。海上輸送中の事故、取引先の突然の倒産、操業を止めざるを得ない事態——これらは発生確率を下げられても、ゼロにはできません。こうした残存リスクに対しては、ISO31000の「移転」、つまり保険という選択肢が有効です。
| 残るリスク | どんな事態か | 備えの選択肢(移転) |
|---|---|---|
| 輸送中の 貨物リスク |
海上・航空輸送中の事故、荷役中の落下破損、コンテナ内の結露・盗難など、輸送途上での貨物の損害 | 外航貨物保険/輸送中の貨物の損害に備える |
| 取引先の 信用リスク |
取引先の倒産・支払不能により、売掛金が回収できなくなる連鎖的な経営悪化 | 取引信用保険/売掛金の回収不能に備える |
| 事業中断 リスク |
サプライチェーンの寸断や災害で操業が止まり、その間の売上・利益を失う | 企業費用・利益総合保険/事業中断による損失に備える |
特に貿易に関わる中小製造業では、輸送中のリスクを誰が負担するかが見落とされがちです。貿易条件(インコタームズ)によって、輸送中の事故の損害を自社が負うのか取引先が負うのかが変わります。「相手が保険を手配してくれているから大丈夫」と思っていても、その保険の補償範囲が狭く、肝心の事故が対象外だった、というケースは少なくありません。
大切なのは、まず「回避・低減」で自社の調達体制を強くし、それでも残るリスクを「移転」で備える、という順序です。保険はあくまで最後のセーフティネットであり、その前にやるべき自社努力があります。
まとめ:対外環境の不確実性は、事前の設計でコントロールできる
本記事では、ものづくり白書2026を起点に、サプライチェーン寸断と対外環境の不確実性、そしてその備えについて整理しました。最後に重要なポイントを振り返ります。
- 2025年は米国関税・輸出管理規制・半導体供給制約など、対外環境の不確実性が顕在化した
- サプライチェーン寸断は調達停止・納期遅延・取引先の連鎖悪化の3つの形で経営を直撃する
- 白書は強靱化の鍵として取引先の可視化と関係構築を挙げている
- 調達先の分散などの「低減」を尽くした上で、残るリスクを保険で「移転」する
- 貿易ではインコタームズによる危険負担の境界を正しく把握することが備えの前提
株式会社キールは、ISO31000基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。横浜港・川崎港を擁する神奈川エリアの製造業・商社の皆さまに、貿易取引のリスク可視化から、外航貨物・取引信用・事業中断への最適な備えのご提案まで、初回無料にて承っております。
「自社の貿易条件や、現在の保険の補償範囲に穴がないか診断してほしい」「サプライチェーンの寸断に、どこまで備えればよいかわからない」といったご相談をお気軽にお寄せください。対外環境という大きな向かい風に対し、御社の事業を支える備えを一緒に設計いたします。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 当社は部品を輸入していますが、輸送中の事故は海外の仕入先が保険をかけてくれていると聞いています。自社でも備える必要はありますか?
貿易実務で最もトラブルが多い盲点です。仕入先が保険を手配する条件(CIF条件など)であっても、その保険の補償範囲が自社にとって十分かは別問題です。古い保険条件の中には、発生確率の高い「荷役中の落下破損」や「コンテナ内の結露によるサビ・カビ」が対象外になっている狭いプランも存在します。また、輸入港で荷物を降ろして自社倉庫まで運ぶ国内輸送区間が、海外の保険の対象外で無保険状態になっているケースもあります。契約書を鵜呑みにせず、自社視点で補償内容を確認することをおすすめします。詳しくは外航貨物保険シリーズでも解説しています。
Q2. サプライチェーンの強靱化といっても、調達先を増やすとコストが上がります。中小企業はどう考えればよいですか?
調達先の分散にはコストが伴うため、すべてを分散する必要はありません。重要なのは「止まったら事業が成り立たない部材は何か」を見極め、その重要部材に絞って代替調達先を確保することです。これはISO31000でいうリスクの優先順位付けの考え方です。すべてのリスクに均等に備えるのではなく、影響が大きく発生確率も高いものから対策する。コストと安全のバランスを取りながら、自社にとっての「止められない調達」を守ることが、限られた経営資源を持つ中小企業にとって現実的なアプローチです。
Q3. 取引先が倒産して売掛金が回収できなくなるリスクには、どう備えればよいですか?
まずは取引先の信用状況を定期的に把握すること(与信管理)が基本の「低減」策です。その上で、自社でコントロールできない取引先の突然の倒産による売掛金の回収不能には、取引信用保険という「移転」の選択肢があります。これは取引先の倒産等により売掛金が回収できなくなった場合に備える保険です。特に特定の取引先への売上依存度が高い企業や、新規取引先との取引を拡大する局面では、検討する価値があります。自社の取引構造に応じて、与信管理と保険を組み合わせるのが効果的です。
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