なぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか|離職率データが示す効果

なぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか──離職率データが示す効果|株式会社キール
シリーズ「中小企業の健康経営」 Vol.1 / 全5回

なぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか──離職率データが示す効果

公開日:2026年7月31日 / 株式会社キール
この記事の結論
  • 国の検討会資料によると、健康経営優良法人に認定された中小企業の離職率は9.0〜10.1%。同規模企業の平均13.6%を大きく下回ります。
  • 一方で、認定を受けた中小企業は全国でまだ約2.3万社=中小企業全体の0.69%。取り組めば差がつく段階です。
  • 健康経営は「福利厚生」ではなく、採用難・離職・休業といった人材リスクへの備え。ISO31000でいう「リスクの低減」に位置づくのが本質です。
  • 認定中小企業への補助金の採択加点を拡大する方針も国から示されており、取り組む実利は増えつつあります。

「求人を出しても人が来ない」「ようやく育った社員が辞めてしまう」──。私たちが神奈川県央の経営者の方々からいちばん多く伺うのは、保険の話ではなく、人の話です。人材の確保と定着は、いまや多くの中小企業にとって最大の経営課題になりました。

この連載では、その課題への一つの答えとして「健康経営」を、5回に分けて実務目線で解説します。初回のテーマは、そもそもなぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか。結論を先に言えば、「国のデータが効果を示し始めており、かつ、取り組んでいる会社がまだ少ないから」です。

1. 認定企業の離職率は9.0%──平均を4ポイント以上下回る

2026年7月、経済産業省の健康経営推進検討会で、注目すべきデータが示されました。健康経営優良法人(中小規模法人部門)の申請書記載結果を集計したところ、認定を受けた中小企業の離職率は、上位認定(ブライト500・ネクストブライト1000)で9.0%、通常認定・小規模特例認定で10.1%。従業員30〜99人の企業の平均13.6%(2024年度雇用動向調査)を大きく下回っていたのです。

出典:経済産業省 第6回健康経営推進検討会 資料2(2026年7月14日)。健康経営優良法人2026申請書の記載結果を基にした集計。
区分離職率
上位認定(ブライト500/ネクストブライト1000)9.0%
通常認定/小規模特例認定10.1%
従業員30〜99人の企業の平均13.6%

ここで一つ、お伝えしておくべきことがあります。この数字は「健康経営をやれば必ず離職率が下がる」という因果関係の証明ではありません。もともと従業員を大切にする会社が認定を取っている、という側面もあるでしょう。ただ、見方を変えればこうも言えます。「従業員を大切にする会社である」ことが、認定という形で外から見えるようになった──。採用市場で求職者が会社を選ぶとき、この「見える化」の意味は小さくありません。

2. それでも認定は、中小企業全体の0.69%

効果を示すデータが出てきた一方で、認定を受けた中小企業は全国で23,077社(2026年5月時点)。日本の中小企業約336万社のうち、わずか0.69%です。大企業では36%が認定を受けているのと比べると、中小企業の世界ではまだ「やっている会社が目立つ」段階にあります。

ただし、その差は急速に埋まりつつあります。当社が過去5年の認定企業一覧を集計したところ、中小規模法人部門の認定数は2022年の12,254社から2026年の23,077社へ、5年で約1.9倍。私たちの地元・神奈川県では287社から629社へと約2.2倍に増えました。業種別では建設業(5,562社)と製造業(5,238社)が全国の認定の半分近くを占めます。

POINT「みんなまだやっていない」と「みんなやり始めている」が同時に成り立つのが今です。先に取れば差別化になり、遅れれば「取っていないこと」が目立つ側に回ります。

3. 健康経営は福利厚生ではなく、「人材リスク」への備え

私たちは保険代理店であると同時に、ISO31000(リスクマネジメントの国際規格)に基づくリスクコンサルティングを行う会社です。その立場から言うと、健康経営は「余裕のある会社がやる福利厚生」ではありません。人に関するリスク──採用難、離職、長期休業、労災、メンタル不調──を低減する、経営の打ち手です。

ISO31000の考え方では、リスクへの対応には「低減」「回避」「移転」「保有」があります。従業員の健康悪化や離職という人材リスクに対して、健診の徹底・相談窓口・働き方の整備といった健康経営の施策は、リスクそのものを小さくする「低減」にあたります。保険はどうかといえば、それでも残るリスクを引き受ける「移転」であり、あくまで低減の後に来る二次的な手段です。順序を間違えないことが肝心です。

そして、この「低減」の到達点を国が制度として見える化したものが、健康経営優良法人認定です。だからこそ認定は、単なる名誉ではなく、人材リスク対策の進捗を外部に証明する仕組みとして機能します。

4. 「認定の実利」も増えていく

もう一つ、実務的な追い風があります。国は、認定を受けた中小企業に対して、ものづくり補助金等の採択における加点措置を実施しており、検討会資料では加点対象となる補助金の種類を拡大していく方針が示されました。金融機関や自治体による金利優遇・入札加点なども各地で広がっています。

採用への効果、取引先への信頼、補助金の加点──。健康経営は「コスト」ではなく、回収の道筋があるリスク低減投資になりつつあります。しかも、次回以降で詳しく解説しますが、中小規模法人部門の認定は、その多くを公的な無料制度で組み立てられます

連載「中小企業の健康経営」(全5回)
  1. Vol.1 なぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか(本記事)
  2. Vol.2 健康経営優良法人2027はどう変わるのか──素案と2026との差異(8/3公開予定)
  3. Vol.3 健康経営に活用できる公的支援制度(8/4公開予定)
  4. Vol.4 データで見る5年間──神奈川2.2倍、建設業が全国最多(8/6公開予定)
  5. Vol.5 2027認定への逆算スケジュール(8/7公開予定)
自社の現在地を知るところから始めませんか

キールは、ISO31000に基づき人材リスクの上流から伴走する、神奈川県央のリスクコンサルティング会社です。健康経営への取り組み方、認定取得の進め方について、貴社の状況に合わせてご提案します。

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よくある質問

従業員数人の会社でも、健康経営に取り組む意味はありますか?

あります。むしろ少人数の会社ほど、一人の離職や長期休業が経営に与える影響は大きく、人材リスクへの備えの価値は高くなります。認定制度にも小規模事業者向けの特例が設けられています。

健康経営を始めるのに、多額の費用がかかるのではないですか?

中小規模法人部門の認定要件の多くは、地域産業保健センターや保険者のサービスなど、公的な無料制度で満たすことができます。主な実費は健診費用と認定申請料程度です。詳しくは連載の中で解説します。

認定を取れば、必ず離職率が下がりますか?

本文で示した離職率の差は、因果関係を証明するものではありません。ただ、健診・相談窓口・働き方の整備といった施策そのものが離職の要因に働きかけるものであることに加え、「従業員を大切にする会社」であることが採用市場で見える化される効果があります。

まず何から始めればよいですか?

最初の一歩は、加入している保険者(協会けんぽ等)の健康宣言事業への参加と、自社の現状把握です。現状把握の具体的な方法は、この連載と、近日公開予定の無料セルフチェックツールでご案内します。

真下 恭徳(ました やすのり)/株式会社キール 代表取締役
AIG損害保険 横浜ICAにて法人リスクコンサルティング(ISO31000)に従事。健康経営アドバイザー。「向かい風を、推進力へ。」を掲げ、神奈川県央の中小企業を、リスクの上流から支える。

出典:経済産業省 第6回健康経営推進検討会 資料2(2026年7月14日)/健康経営優良法人 認定法人一覧2022〜2026(中小規模法人部門・キール集計)/2024年度雇用動向調査。認定数の企業割合・離職率は検討会資料の集計(日本総研)によります。健康経営優良法人2027の認定要件は素案段階であり、確定情報は公式の公表をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものです。