SUMMARY 記事のまとめ
ものづくり白書2026は、AI・DXの推進を製造業の成長基盤として位置づけています。しかしその裏側には、サイバー攻撃・製品事故・ロボット事故といった「新しいリスク」が潜みます。本記事は解説シリーズ第5回として、DX・AI導入で生まれる賠償・サイバーリスクと、その備えを解説します。
白書が描く製造業のAI・DXの未来
POINT
白書は「製造AX拠点」構想やAIロボティクス戦略を、製造業の将来の成長基盤として位置づけています。一方で、中小製造業のDXは人材不足を背景に大企業ほど進んでいないのが実態です。
ものづくり白書2026は、AI・DXを製造業の競争力を左右する重要テーマとして大きく取り上げています。経済産業省は、製造現場のデータを収集・統合・活用する「製造AX拠点」構想や、AIロボティクス戦略を、将来の成長基盤として推進しています。
「製造」にデジタル活用
にデジタル活用
主要工程でのDX活用
ただし白書は、中小製造業のDXが大企業ほど進んでいない実態も示しています。従業員50人以下の企業では、「製造」工程でデジタル技術を活用しているのは31.5%、「企画・開発・設計」では15.2%にとどまります。その大きな要因がDXを推進する人材の不足です。だからこそ、これからDXに踏み出す中小製造業が増えていきますが、その際に見落とされがちなのが「新しいリスク」です。
DX・AI導入が生む「新しいリスク」
POINT
DX・AI導入は、サイバー攻撃・データ漏えい、AIや製品の不具合による生産物賠償、協働ロボットによる労働災害や第三者事故という、従来にない新しいリスクを生み出します。
デジタル技術やAIを導入し、現場をネットワークにつなぐことは、効率化という大きなメリットをもたらす一方で、これまでになかったリスクの入口にもなります。
工場のシステムがランサムウェアに感染し生産停止。顧客情報や設計データの漏えい。取引先を経由した攻撃の踏み台にされるリスクも。
AIを組み込んだ製品や、自動化された工程で作った製品に不具合が生じ、出荷先で事故が発生。生産物賠償(PL)責任を問われるリスク。
人と同じ空間で動く協働ロボットが、作業員に接触してケガをさせる労働災害。見学者など第三者を巻き込む事故のリスク。
基幹システムやネットワークの障害で、デジタル化された生産ライン全体が止まる。デジタル依存度が高いほど影響は大きい。
特に深刻なのがサイバー攻撃です。製造業は「自社は狙われない」と考えがちですが、サプライチェーンを通じて大企業を狙う「踏み台」として、中小製造業が標的になるケースが増えています。一度の攻撃で生産が長期間止まれば、事業の存続にかかわります。
新しいリスクへの備え
POINT
新リスクへの備えは、セキュリティ体制の整備(低減)と、サイバー保険・生産物賠償責任保険(PL)・施設賠償といった保険(移転)を組み合わせます。DXは「推進」と「防御」をセットで進めることが重要です。
これらの新しいリスクにも、ISO31000の「低減」と「移転」の組み合わせで備えます。
| 残るリスク | どんな事態か | 備えの選択肢(移転) |
|---|---|---|
| サイバー | サイバー攻撃による情報漏えい・システム停止・事業中断 | サイバー保険/復旧費用・賠償・事業中断に備える |
| 製品事故 | 製品の不具合が出荷先で事故を起こし賠償を問われる | 生産物賠償責任保険(PL)/製品事故の賠償に備える |
| ロボット事故 | 協働ロボット等が人に接触し、ケガや第三者事故を起こす | 施設・業務遂行賠償責任保険/事故の賠償に備える |
「低減」としては、セキュリティ体制の整備が基本です。IPA(情報処理推進機構)が推進する「SECURITY ACTION」の自己宣言は、中小企業がセキュリティ対策の第一歩を示す取組として有効です。こうした自社対策を進めた上で、それでも防ぎきれないサイバー被害にはサイバー保険、製品事故には生産物賠償責任保険(PL)、ロボットによる事故には施設賠償で備える、という多層的な構えが求められます。
DXは「推進」だけでは片手落ちです。アクセルとブレーキの両方があってこそ車が安全に走るように、DXの推進と、新リスクへの防御はセットで考える必要があります。
まとめ:DXは「推進」と「防御」をセットで
本記事では、ものづくり白書2026を起点に、AI・DX導入で生まれる新リスクとその備えについて整理しました。最後に重要なポイントを振り返ります。
- 白書は製造AX拠点・AIロボティクス戦略を将来の成長基盤と位置づけている
- 中小製造業のDXは人材不足を背景に大企業ほど進んでいない
- DX・AI導入はサイバー攻撃・製品事故・ロボット事故という新リスクを生む
- 中小製造業がサプライチェーンの踏み台として狙われるケースが増加
- セキュリティ体制(低減)と、サイバー・PL・施設賠償(移転)を組み合わせる
株式会社キールは、ISO31000基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。製造業の経営者さまに、DX・AI導入に伴う新リスクの可視化から、サイバー・PL・施設賠償を含む最適な備えのご提案まで、初回無料にて承っております。
「DXを進めたいが、サイバーリスクが不安」「AIやロボットを導入する際、どんな備えが必要かわからない」といったご相談をお気軽にお寄せください。攻めのDXを、しっかりとした守りで支える備えを一緒に設計いたします。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. うちは小さな町工場です。サイバー攻撃なんて大企業の話ではないのですか?
残念ながら、中小製造業こそ狙われやすいのが現実です。理由は2つあります。第一に、大企業に比べてセキュリティ対策が手薄なため、攻撃者にとって侵入しやすい標的になります。第二に、近年は取引先の大企業を直接狙うのではなく、セキュリティの弱い取引先の中小企業を「踏み台」として侵入する手口(サプライチェーン攻撃)が増えています。つまり、自社が直接の標的でなくても、取引網の一部として狙われるのです。一度ランサムウェアに感染すれば生産システムが止まり、復旧に多額の費用と時間がかかります。規模に関わらず、基本的なセキュリティ対策と、万一に備えるサイバー保険の検討をおすすめします。
Q2. 生産物賠償責任保険(PL保険)は、製造業なら必ず必要ですか?
製造業にとってPL保険は特に重要性の高い保険のひとつです。自社が製造・加工した製品が原因で、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりして、法律上の賠償責任を負った場合に備えるものです。たとえば、製造した部品の不具合で取引先の最終製品が事故を起こした、納入した機械が原因で火災が発生した、といったケースが考えられます。製品事故は損害が高額になりやすく、中小企業では一度の賠償が経営を揺るがすこともあります。特にAIや自動化技術を組み込んだ製品は、従来にない不具合のリスクもあるため、補償内容が自社の製品・取引実態に合っているかを確認しておくことが大切です。
Q3. 協働ロボットを導入予定です。事故に備えるにはどんな保険が必要ですか?
人と同じ空間で作業する協働ロボットは、生産性を高める一方で、作業員や見学者などに接触する事故のリスクがあります。備えとしては大きく2つの観点があります。第一に、自社の従業員がロボットによってケガをした場合は、政府労災に加えて上乗せ労災や使用者賠償責任保険で備えます。第二に、見学者や取引先の担当者など第三者がケガをした場合は、施設・業務遂行賠償責任保険が対応します。また、ロボット自体の故障による生産停止には機械保険や休業補償の観点も関わります。導入する設備と作業環境に応じて、これらを組み合わせて設計することをおすすめします。安全柵やセンサーなどの物理的な安全対策(低減)と保険(移転)の両面で備えましょう。
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