【ものづくり白書2026】人手不足・技能継承リスクと事業承継対策

【ものづくり白書2026】人手不足・技能継承リスクと事業承継対策

SUMMARY 記事のまとめ

ものづくり白書2026では、製造業の82.9%もの事業所が人材育成に課題ありと回答しています。本記事は解説シリーズ第3回として、人手不足と技能継承の断絶という構造的リスクを整理し、人を「確保・定着・継承」する3段階の備えを、退職金制度・経営者保険・就業不能への備えといった選択肢とあわせて解説します。

白書が映す製造業の「人材危機」

POINT

製造業の82.9%の事業所が能力開発・人材育成に課題ありと回答し、全産業より高い水準です。最大の問題点は「指導する人材が不足している」ことで、技能継承の土台が揺らいでいます。

ものづくり白書2026は、製造業の人材をめぐる厳しい現実を数字で示しています。能力開発や人材育成に「問題がある」とした製造業の事業所は82.9%にのぼり、これは全産業の平均よりも高い水準です。

82.9%
人材育成に課題ありと
回答した製造業事業所
62.8%
問題点の最多
「指導する人材が不足」
83.7%
自己啓発支援を
行っている事業所

問題点の内訳をみると、最も多いのが「指導する人材が不足している」で62.8%。次いで「人材を育成しても辞めてしまう」「人材育成を行う時間がない」と続きます。特に小規模な事業所ほど「鍛えがいのある人材が集まらない」「育成の金銭的余裕がない」という回答が多く、中小製造業ほど人材の課題が深刻であることがうかがえます。

「技能継承」が途絶えるリスクの本質

POINT

熟練工の高齢化・引退と若手不足が同時に進むことで、長年培われた技能やノウハウが継承されないまま失われるリスクが高まっています。これは「人」に依存する製造業特有の経営リスクです。

製造業の競争力は、長年の経験で培われた熟練工の技能やノウハウに支えられています。しかし、その熟練工の高齢化と引退が進む一方で、技能を受け継ぐ若手の確保が追いつかない。この需給のミスマッチこそが、技能継承リスクの核心です。

技能の継承が途絶えると、製品の品質維持が困難になり、競争力そのものが失われます。さらに深刻なのは、特定のキーパーソンに技能や顧客対応が集中している「属人化」の状態です。そのキーパーソンが突然欠けたとき、事業の継続すら危うくなります。経営者自身が現場の要となっている中小企業では、経営者の万一が事業承継問題に直結します。

人を「確保・定着・継承」する3段階の備え

POINT

人材リスクへの備えは「確保」「定着」「継承」の3段階で考えます。助成金の活用や福利厚生による定着率向上といった社内施策(低減)と、退職金準備・経営者保険による備え(移転)を組み合わせることが鍵です。

人材リスクへの対応は、人を「確保し、定着させ、継承する」という3つの段階で整理できます。それぞれに、ISO31000でいう「低減」(社内施策)と「移転」(保険・制度)の打ち手があります。

段階課題備えの方向性
確保人材が集まらない・採用できない人材開発支援助成金等の制度活用、採用力の強化(低減)
定着育成しても辞めてしまう退職金制度・福利厚生の整備による定着率向上(低減+移転)
継承技能・経営の引き継ぎが進まない事業承継計画、経営者保険・退職金準備(移転)

白書によれば、自己啓発支援を行う製造業の事業所は83.7%にのぼり、その多くが受講料などの金銭的援助を行っています。こうした人材育成への投資は「確保」「定着」の基本です。さらに、退職金制度を整えることは従業員の定着につながると同時に、計画的な資金準備という側面も持ちます。

「継承」の段階では、経営者や役員に万一のことがあった場合に備える経営者保険や、従業員が長期にわたって働けなくなった場合に備える就業不能への所得補償といった選択肢があります。これらは、人に依存する事業のリスクを「移転」する手段として有効です。

まとめ:人材リスクは「制度設計」と「備え」の両輪で

本記事では、ものづくり白書2026を起点に、製造業の人手不足・技能継承リスクと、その備えについて整理しました。最後に重要なポイントを振り返ります。

  • 製造業の82.9%が人材育成に課題あり、最大要因は指導者不足(62.8%)
  • 熟練工の高齢化と若手不足で技能継承が途絶えるリスクが高まっている
  • キーパーソンへの属人化は、事業継続そのものを揺るがす
  • 備えは確保・定着・継承の3段階で考える
  • 助成金・福利厚生(低減)と、退職金・経営者保険・就業不能への備え(移転)を組み合わせる

株式会社キールは、ISO31000基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。製造業の経営者さまに、人材リスクの可視化から、退職金・経営者保険・就業不能への備えを含む最適な備えのご提案まで、初回無料にて承っております。

「人材の定着や技能継承に不安がある」「経営者に万一のことがあった場合の備えを考えたい」といったご相談をお気軽にお寄せください。人という最も重要な経営資源を守る備えを、一緒に設計いたします。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 退職金制度を整えると、人材の定着に本当につながるのですか?

退職金制度は、従業員に長期的に働くインセンティブを与える代表的な施策です。白書でも、自己啓発支援や金銭的援助を行う事業所が多いことが示されており、従業員への投資が定着につながると認識されています。退職金制度には、中小企業退職金共済(中退共)などの外部制度を活用する方法や、保険を活用して計画的に準備する方法があります。自社の規模や財務状況に応じて、無理なく続けられる仕組みを選ぶことが大切です。定着率の向上は採用コストの削減にもつながるため、長期的に見れば経営の安定に寄与します。

Q2. 経営者である自分に万一のことがあった場合、会社はどうなりますか?何を備えておくべきでしょうか?

中小製造業では、経営者が営業・技術・資金繰りの要となっているケースが多く、経営者の万一は事業の存続に直結します。備えとしては、当面の運転資金や借入金の返済原資を確保する経営者保険、後継者への円滑な事業承継を可能にする計画づくり、そして経営者個人の保障などが挙げられます。特に金融機関からの借入に経営者保証が付いている場合、万一の際にご遺族に負担が及ぶ可能性があるため、その備えは重要です。まずは「自分がいなくなったら会社で何が起きるか」を書き出すことから始めるとよいでしょう。

Q3. 従業員が長期間働けなくなった場合の備えはありますか?

従業員がケガや病気で長期間働けなくなった場合に、その間の所得の一部を補償する仕組みがあります。公的な傷病手当金は支給期間に限りがあるため、長期の就業不能に対しては所得が大きく減少するリスクがあります。製造現場では、ケガや体調不良で長期離脱する可能性が他業種より高い面もあり、従業員の生活を守る福利厚生として導入する企業が増えています。従業員にとっては安心して働ける環境となり、企業にとっては人材定着と採用力強化につながります。会社が保険料を負担する形のほか、従業員が任意で加入する形もあり、自社に合った設計が可能です。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キール(KEEL Co.,LTD)を設立。専門的なリスクコンサルティングを通じて、中小企業の経営の推進力となるリスク管理を提供している。