建設業の健康経営──入札・採用・外国人材に効く「本当の実利」

建設業の健康経営──入札・採用・外国人材に効く「本当の実利」|株式会社キール
中小企業の健康経営 / 業種別編・建設業

建設業の健康経営──入札・採用・外国人材に効く「本当の実利」

公開日:2026年8月13日 / 株式会社キール
この記事の結論
  • 制度の整理から。健康経営優良法人の認定は、経営事項審査(経審)のW点で直接加点される項目ではありません。W点で評価されるのは、えるぼし・くるみん・ユースエール等です。
  • それでも建設業の認定は5,562社で全業種最多(2026年・当社集計)。実利は経審ではなく、自治体入札の総合評価での加点・優先調達と、担い手確保にあります。
  • 背景にあるのは、死亡災害232人(全産業の31.1%で業種別最多)、熱中症死亡も業種別最多という命のリスク。2025年6月には罰則付きの熱中症対策義務化も始まりました。
  • 55歳以上が36.7%、29歳以下は11.7%。若手は「体を大事にしてくれる会社か」で選ぶ時代に、健康経営は採用の武器になります。
  • 外国人材の面でも実利があります。認定企業は在留資格審査で「カテゴリー1」となり、就労ビザ申請の提出書類が大幅に簡素化されます。

「健康経営を取ると、経審の点数はどうなりますか?」──建設業の経営者の方から、よくいただく質問です。答えは「直接は上がりません」。では、なぜ建設業の健康経営認定は全業種で最も多いのか。制度を正確に整理すると、実利は経審とは別の場所──入札、採用、そして外国人材──に見えてきます。この記事では、それをデータで確かめていきます。

1. 制度の整理──経審のW点と、健康経営の関係

経営事項審査のW点(社会性等)で加点対象になる認定は、えるぼし(女性活躍推進法)、くるみん(次世代育成支援対策推進法)、ユースエール(若者雇用促進法)などです。健康経営優良法人は、この直接加点の対象として明記されていません。この点は、加点をあてにして計画を立てる前に押さえておきたい、制度上の事実です。

ではなぜ、建設業の認定が全業種最多なのか。当社が認定企業一覧5年分を集計したところ、建設業の認定は2,594社(2022年)から5,562社(2026年)へ約2.1倍。理由は、経審とは別の場所にあります。

2. 本当の実利①:自治体入札の総合評価・優先調達

広がっているのは、自治体が独自に行う入札評価での加点や優遇です。たとえば浜松市は、建設工事の総合評価落札方式(特別簡易型)で健康経営優良法人等を加点対象とし、物品・業務委託では優先調達の対象にしています。長崎県は県の健康経営認定を該当工種の入札で加点対象としています。数点差が落札を分ける総合評価の世界で、この差は小さくありません。

ただし、この扱いは自治体ごとに異なります。神奈川県は総合評価方式のガイドラインで若手技術者の育成実績等を発注者別評価点に反映する仕組みを持ちますが、健康経営認定の加点の有無は、入札に参加する自治体の最新の要領で確認する必要があります。当社でも、県央4市(大和・座間・海老名・綾瀬)の要領の確認をお手伝いしています。

3. 本当の実利②:担い手確保──「体を大事にする会社」が選ばれる

建設業の構造データ。出典:厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況(確定値)」、国土交通省(総務省労働力調査より作成)。
指標数値補足
死亡災害(令和6年)232人全産業746人の31.1%で業種別最多。墜落・転落が77人(33.2%)
熱中症死亡(令和6年)10人業種別最多。死傷228人、5年累計では961人・死亡54人
55歳以上の就業者比率(2024年)36.7%全産業32.4%。29歳以下は11.7%(全産業16.9%)

死亡災害の3割超が建設業で起き、熱中症死亡も最多。そして就業者の3人に1人超が55歳以上──。この構造の中で若手を採るには、「うちは人の体を大事にする会社だ」と外から見える形で示すことが要ります。健康経営優良法人の認定は、その第三者証明として機能します。求人票・自社サイト・合同説明会で使えるロゴの意味は、若手ほど重く受け止めます。

時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)への対応も、この文脈にあります。民間調査(建設・仮設業界の従事者500人対象)では、規制を十分に認識していない層が半数程度にのぼるという結果も報告されています。裏を返せば、働き方と健康にきちんと向き合う会社は、それだけで業界内の少数派=差別化になるということです。

外国人材の受入れ──就労ビザ審査で「カテゴリー1」になる

担い手確保の文脈で、意外と知られていない実利があります。健康経営優良法人の認定企業は、外国人の在留資格審査において「カテゴリー1(一定の条件を満たす企業等)」として扱われます。通常、中小企業はカテゴリー3に区分されますが、認定を受けると上場企業などと同じ区分になり、技術・人文知識・国際業務等の就労ビザ申請で提出書類が大幅に簡素化されます。施工管理技士や設計などの外国人技術者を雇う会社にとって、手続き負担と審査の見通しに直接効く違いです。

特定技能で現場の担い手を受け入れる場合は、これとは別に国土交通省の建設特定技能受入計画の認定が必要で、審査では同等以上の報酬、労働環境、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録といった「人を大切にする体制」が確認されます。健康経営で整える健診・労働時間・相談体制は、この審査で示す体制づくりとそのまま重なります。国内の若手にも、海外からの担い手にも、選ばれる会社の土台は同じです。

4. 法改正の波──熱中症対策は「努力」から「義務」へ

2025年6月、改正労働安全衛生規則が施行され、熱中症対策が罰則付きの義務になりました。WBGT28℃以上または気温31℃以上の環境で連続1時間超(または1日4時間超)の作業をさせる場合、①体調悪化を早期に発見する体制、②重篤化を防ぐ手順の作成、③関係者への周知が求められます。建設現場は真正面から対象です。

さらに2028年4月にはストレスチェックが50人未満の事業場にも義務化されます。これらの義務対応と健康経営の取り組みは、実務上ほとんど重なります。どうせやるなら、認定という形に残る枠組みでやる──これが最も無駄のない進め方です。

POINTCCUS(建設キャリアアップシステム)には健康診断受診歴の登録項目があり、CCUSの活用自体は経審で加点されます(全公共工事での活用等)。健診データの管理をCCUSと接続すれば、労務管理と健康経営のPDCAを一体で回せます。

5. 中小建設業の始め方──3ステップ

第一に、加入する保険者(協会けんぽ等)の健康宣言に参加する。これが認定の入口で、費用はかかりません。第二に、すでにやっていることを数える。健診、朝礼でのKY活動、熱中症対策──建設業の現場管理は、実は認定項目と重なる部分が多い業種です。第三に、不足分を公的支援制度で埋めて申請へ。申請受付は例年8月中旬〜10月中旬です。

自社の充足状況は、8月17日公開予定の無料セルフチェックツールで診断できます。都道府県と業種を選べば、建設業の認定数の5年推移もその場で確認できます。

貴社の入札環境で、認定がどう効くかを確認します

健康経営認定の実利は、参加する入札の要領次第で変わります。キールは、貴社の営業エリアの評価制度の確認から、認定取得の進め方までを一緒に設計します。建設業のリスクに向き合う会社の相談をお待ちしています。

キールに相談する

よくある質問

健康経営優良法人を取れば、経審の点数は上がりますか?

W点への直接加点はありません。W点で評価されるのは、えるぼし・くるみん・ユースエール等の認定です。健康経営認定の実利は、自治体独自の総合評価での加点・優遇と、採用・定着への効果にあります。

自分の地域の入札で加点されるかは、どう調べればよいですか?

参加する自治体の総合評価落札方式のガイドラインや入札参加資格審査の要領(主観点・発注者別評価点の項目)を確認します。扱いは自治体ごとに異なり、年度で改定されるため、最新版の確認が必要です。

現場中心の会社でも、認定は取れますか?

取れます。健診の徹底、熱中症対策、朝礼を使った健康教育など、建設業の現場管理はもともと認定項目と重なる部分が多く、「すでにやっていることを申請の形に整える」だけで届く会社が少なくありません。

外国人材の受入れで、健康経営認定は有利になりますか?

なります。認定企業は在留資格審査で「カテゴリー1(一定の条件を満たす企業等)」として扱われ、技術・人文知識・国際業務等の就労ビザ申請で提出書類が大幅に簡素化されます。特定技能の受入れは別途、国土交通省の受入計画認定が必要ですが、審査で確認される労働環境の体制は健康経営の取り組みと重なります。詳細は出入国在留管理庁・国土交通省の最新情報をご確認ください。

2025年6月の熱中症対策義務化では、何をすればよいですか?

WBGT28℃以上または気温31℃以上で一定時間の作業がある場合、体調悪化を早期に発見する体制の整備、重篤化を防ぐ手順の作成、関係作業者への周知が義務です。違反には罰則があり得ます。詳細は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

真下 恭徳(ました やすのり)/株式会社キール 代表取締役
AIG損害保険 横浜ICAにて法人リスクコンサルティング(ISO31000)に従事。健康経営アドバイザー。「向かい風を、推進力へ。」を掲げ、神奈川県央の中小企業を、リスクの上流から支える。

出典:出入国在留管理庁(在留資格審査の所属機関カテゴリー区分)、経済産業省「ACTION!健康経営」(認定メリット)、厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」、国土交通省(総務省労働力調査より作成の年齢構成データ)、改正労働安全衛生規則(2025年6月施行)、浜松市・長崎県等の入札関連公表資料、健康経営優良法人 認定法人一覧2022〜2026(キール集計)。2024年問題の認識調査は民間企業による調査です。入札での評価の扱いは自治体・年度により異なるため、必ず最新の要領をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものです。