36協定の2〜6か月平均80時間|繁忙期の残業が翌月に跳ね返る理由

労務・安全配慮義務

繁忙期の残業は、翌月に跳ね返ります。2〜6か月平均という縛り

公開日:2026年9月24日 / 株式会社キール

SUMMARY | この記事の結論

秋から年末にかけて繁忙期に入る業種は少なくありません。ただ、36協定の特別条項には「2〜6か月のどの期間をとっても、時間外労働と休日労働の合計が月平均80時間以内」という縛りがあります。

たとえば10月に95時間働かせたら、11月は65時間以内に収めなければなりません。繁忙期の残業は、その月だけの話では終わらないということです。

そして2021年の認定基準改正で、過労死ラインに達していなくても、他の負荷要因があれば労災認定されうることが明確化されました。時間だけを見ていれば足りる、という時代ではなくなっています。

9月の下旬から、年末に向けて忙しくなる会社があります。建設業なら年度末を見据えた工期、運送なら物流の繁忙、小売なら年末商戦。

そういう時期に、36協定の上限を意識している会社は多いと思います。ただ、「その月の上限」だけを見ていると、後から詰まることがあります。

01特別条項には、4つの縛りがあります

労働基準法では、法定労働時間を超えて働かせるには36協定の締結と届出が必要です。そのうえで、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされています。

臨時的な特別の事情があり、労使が合意する場合には、特別条項を設けてこれを超えることができます。ただし、その場合も4つの条件があります。

特別条項を設けた場合の上限
  • 時間外労働は年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働は月100時間未満
  • 時間外労働+休日労働は、2〜6か月のいずれの平均でも月80時間以内
  • 月45時間を超えられるのは年6回まで

出典:労働基準法第36条/厚生労働省「時間外労働の上限規制」関連資料

このうち、繁忙期に効いてくるのが3つ目です。

02「2〜6か月平均」が意味すること

この条件は、1月から12月までのどの2か月、3か月、4か月、5か月、6か月をとっても、平均が月80時間以内でなければならないという意味です。

具体的に考えてみます。10月が繁忙期で、時間外労働と休日労働の合計が95時間になったとします。月100時間未満という条件は満たしています。

ところが、11月と合わせた2か月平均が80時間以内でなければなりません。つまり11月は65時間以内に抑える必要がある。

POINT|繁忙期は連続しやすい

問題は、繁忙期が1か月で終わらないことです。10月が忙しければ、11月も忙しい。ところが制度上は、10月に使った分だけ11月の枠が狭くなります。先に使い切ると、後で身動きが取れなくなる構造です。

年6回という制限も効きます

月45時間を超えられるのは年6回までです。上半期に4回使っていれば、下半期は2回しか残っていません。

10月、11月、12月と3か月続けて45時間を超えると、その時点で上限を超過します。年度の前半でどれだけ使ったかを、いま把握しているかが分かれ目になります。

03建設業も、2024年から同じ基準です

建設業は長らく上限規制の適用が猶予されてきましたが、2024年4月1日から一般の企業と同じ基準が適用されています。

猶予期間の感覚が残っていると、「うちは建設だから」という前提で運用してしまう可能性があります。ただ、2026年の現在、その扱いはありません。

なお、災害復旧・復興の事業については、月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内の規定が適用されないという例外があります。ただしこれは災害復旧に限られるもので、通常の工期の逼迫は該当しません。

04過労死ラインは、時間だけで決まらなくなりました

もうひとつ、押さえておきたい変化があります。

脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月にわたって月80時間を超える時間外労働があれば、業務と発症の関連性が強いと評価されます。これがいわゆる過労死ラインです。

ここまでは従来どおりです。変わったのは、その先でした。

POINT|2021年9月の改正

認定基準の改正により、過労死ラインに達していなくても、それに近い時間外労働があり、かつ労働時間以外の負荷要因が認められる場合には、業務との関連性が強いと評価されうることが明確化されました。

労働時間以外の負荷要因として挙げられているのは、勤務間インターバルが短いこと、不規則な勤務、出張の多さ、身体的負荷、そして作業環境(温度環境、騒音)などです。

建設や運送の現場を考えると、これらは日常的に存在します。残業時間を70時間に抑えていても、それだけで安全とは言えないということになります。

認定件数は過去最多です

厚生労働省の「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、過労死等に関する労災補償の支給決定件数は1,304件で、前年から196件増加し過去最多となりました。

件数が増えている背景には、認定基準の見直しによる判断の幅の広がりもあると考えられます。

05繁忙期に入る前に、確認しておくこと

1
今年すでに何回、45時間を超えたか

年6回の枠を、上半期にどれだけ使ったか。残りの回数が分かると、10月以降の配分が決まります。記録が月単位で追えていない場合は、まずそこからです。

2
直近5か月の実績を並べる

2〜6か月平均の計算には、過去の実績が必要です。5月から9月までの各月を並べておけば、10月にどこまで許容できるかが分かります。

3
休日労働を含めて数える

月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内は、時間外労働と休日労働の合計で判断します。時間外だけを見ていると、実態を見誤ります。

4
時間以外の負荷を見る

勤務間の間隔が短くなっていないか。深夜や早朝の作業が続いていないか。屋外の作業で、気温や騒音の負荷がかかっていないか。時間が基準内でも、これらが重なれば負荷は高まります。

06体制を整えたうえで

上限を守り、負荷の偏りに目を配る。それでも、従業員が健康を損なう可能性がゼロになるわけではありません。

脳・心臓疾患や精神障害が労災と認定されれば、政府労災からの給付があります。ただし、それとは別に、会社が安全配慮義務を尽くしていたかを問われ、民事上の損害賠償を求められることがあります。

この部分については、使用者賠償責任に対応する保険という手段があります。ただ、順序として先に来るのは、労働時間の管理と、負荷の把握です。

まとめ

  • 特別条項には、年720時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、年6回までという4つの縛りがあります。
  • 繁忙期に使った分だけ、翌月の枠が狭くなります。10月に95時間なら、11月は65時間以内です。
  • 建設業も2024年4月から同じ基準です。猶予期間は終わっています。
  • 2021年の改正で、過労死ラインに達しなくても、他の負荷要因があれば労災認定されうることが明確化されました。

よくあるご質問

2〜6か月平均は、いつからいつまでを数えるのですか。
特定の期間を固定して数えるのではなく、任意の2か月、3か月、4か月、5か月、6か月のいずれの組み合わせでも平均80時間以内でなければならない、という意味です。たとえば10月と11月の2か月平均、9月から11月の3か月平均、いずれも基準内である必要があります。
休日労働も含めて数えるのですか。
月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内については、時間外労働と休日労働の合計で判断します。一方、年720時間以内は時間外労働のみで判断します。基準によって数え方が異なる点に注意が必要です。
上限を超えた場合、どうなりますか。
労働基準法違反として、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となり得ます。また、労働基準監督署による是正勧告の対象にもなります。
過労死ラインを下回っていれば、責任を問われませんか。
そうとは限りません。2021年9月の認定基準改正により、過労死ラインに近い時間外労働があり、かつ勤務間インターバルの短さや不規則な勤務などの負荷要因が認められる場合には、業務との関連性が強いと評価されうることが明確化されています。また、労災認定とは別に、民事上の安全配慮義務が問われることもあります。
災害復旧の工事には、上限が適用されないのですか。
災害の復旧・復興の事業については、月100時間未満および2〜6か月平均80時間以内の規定が適用されない扱いとなっています。ただしこれは災害復旧に関する事業に限られ、通常の工期の逼迫などは該当しません。適用の可否は個別の判断となるため、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
真下 恭徳(ました やすのり)/株式会社キール 代表取締役
AIG損害保険 横浜ICAにて法人リスクコンサルティング(ISO31000)に従事。健康経営アドバイザー。株式会社キールは、経済産業省「事業継続力強化計画」認定事業者、IPA「SECURITY ACTION」宣言事業者です。「向かい風を、推進力へ。」を掲げ、神奈川県央の中小企業を、リスクの上流から支えています。

労働時間の管理体制や、従業員の健康に関わる備えの整理について、ご相談を承っています。

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【出典】労働基準法第36条/厚生労働省「時間外労働の上限規制」関連資料/厚生労働省「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月改正)/厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
本記事は2026年9月24日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。個別の実務判断については、労働基準監督署や社会保険労務士等にご確認ください。