繁忙期の残業は、翌月に跳ね返ります。2〜6か月平均という縛り
秋から年末にかけて繁忙期に入る業種は少なくありません。ただ、36協定の特別条項には「2〜6か月のどの期間をとっても、時間外労働と休日労働の合計が月平均80時間以内」という縛りがあります。
たとえば10月に95時間働かせたら、11月は65時間以内に収めなければなりません。繁忙期の残業は、その月だけの話では終わらないということです。
そして2021年の認定基準改正で、過労死ラインに達していなくても、他の負荷要因があれば労災認定されうることが明確化されました。時間だけを見ていれば足りる、という時代ではなくなっています。
9月の下旬から、年末に向けて忙しくなる会社があります。建設業なら年度末を見据えた工期、運送なら物流の繁忙、小売なら年末商戦。
そういう時期に、36協定の上限を意識している会社は多いと思います。ただ、「その月の上限」だけを見ていると、後から詰まることがあります。
01特別条項には、4つの縛りがあります
労働基準法では、法定労働時間を超えて働かせるには36協定の締結と届出が必要です。そのうえで、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされています。
臨時的な特別の事情があり、労使が合意する場合には、特別条項を設けてこれを超えることができます。ただし、その場合も4つの条件があります。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働+休日労働は月100時間未満
- 時間外労働+休日労働は、2〜6か月のいずれの平均でも月80時間以内
- 月45時間を超えられるのは年6回まで
出典:労働基準法第36条/厚生労働省「時間外労働の上限規制」関連資料
このうち、繁忙期に効いてくるのが3つ目です。
02「2〜6か月平均」が意味すること
この条件は、1月から12月までのどの2か月、3か月、4か月、5か月、6か月をとっても、平均が月80時間以内でなければならないという意味です。
具体的に考えてみます。10月が繁忙期で、時間外労働と休日労働の合計が95時間になったとします。月100時間未満という条件は満たしています。
ところが、11月と合わせた2か月平均が80時間以内でなければなりません。つまり11月は65時間以内に抑える必要がある。
問題は、繁忙期が1か月で終わらないことです。10月が忙しければ、11月も忙しい。ところが制度上は、10月に使った分だけ11月の枠が狭くなります。先に使い切ると、後で身動きが取れなくなる構造です。
年6回という制限も効きます
月45時間を超えられるのは年6回までです。上半期に4回使っていれば、下半期は2回しか残っていません。
10月、11月、12月と3か月続けて45時間を超えると、その時点で上限を超過します。年度の前半でどれだけ使ったかを、いま把握しているかが分かれ目になります。
03建設業も、2024年から同じ基準です
建設業は長らく上限規制の適用が猶予されてきましたが、2024年4月1日から一般の企業と同じ基準が適用されています。
猶予期間の感覚が残っていると、「うちは建設だから」という前提で運用してしまう可能性があります。ただ、2026年の現在、その扱いはありません。
なお、災害復旧・復興の事業については、月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内の規定が適用されないという例外があります。ただしこれは災害復旧に限られるもので、通常の工期の逼迫は該当しません。
04過労死ラインは、時間だけで決まらなくなりました
もうひとつ、押さえておきたい変化があります。
脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月にわたって月80時間を超える時間外労働があれば、業務と発症の関連性が強いと評価されます。これがいわゆる過労死ラインです。
ここまでは従来どおりです。変わったのは、その先でした。
認定基準の改正により、過労死ラインに達していなくても、それに近い時間外労働があり、かつ労働時間以外の負荷要因が認められる場合には、業務との関連性が強いと評価されうることが明確化されました。
労働時間以外の負荷要因として挙げられているのは、勤務間インターバルが短いこと、不規則な勤務、出張の多さ、身体的負荷、そして作業環境(温度環境、騒音)などです。
建設や運送の現場を考えると、これらは日常的に存在します。残業時間を70時間に抑えていても、それだけで安全とは言えないということになります。
認定件数は過去最多です
厚生労働省の「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、過労死等に関する労災補償の支給決定件数は1,304件で、前年から196件増加し過去最多となりました。
件数が増えている背景には、認定基準の見直しによる判断の幅の広がりもあると考えられます。
05繁忙期に入る前に、確認しておくこと
年6回の枠を、上半期にどれだけ使ったか。残りの回数が分かると、10月以降の配分が決まります。記録が月単位で追えていない場合は、まずそこからです。
2〜6か月平均の計算には、過去の実績が必要です。5月から9月までの各月を並べておけば、10月にどこまで許容できるかが分かります。
月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内は、時間外労働と休日労働の合計で判断します。時間外だけを見ていると、実態を見誤ります。
勤務間の間隔が短くなっていないか。深夜や早朝の作業が続いていないか。屋外の作業で、気温や騒音の負荷がかかっていないか。時間が基準内でも、これらが重なれば負荷は高まります。
06体制を整えたうえで
上限を守り、負荷の偏りに目を配る。それでも、従業員が健康を損なう可能性がゼロになるわけではありません。
脳・心臓疾患や精神障害が労災と認定されれば、政府労災からの給付があります。ただし、それとは別に、会社が安全配慮義務を尽くしていたかを問われ、民事上の損害賠償を求められることがあります。
この部分については、使用者賠償責任に対応する保険という手段があります。ただ、順序として先に来るのは、労働時間の管理と、負荷の把握です。
まとめ
- 特別条項には、年720時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、年6回までという4つの縛りがあります。
- 繁忙期に使った分だけ、翌月の枠が狭くなります。10月に95時間なら、11月は65時間以内です。
- 建設業も2024年4月から同じ基準です。猶予期間は終わっています。
- 2021年の改正で、過労死ラインに達しなくても、他の負荷要因があれば労災認定されうることが明確化されました。
よくあるご質問
労働時間の管理体制や、従業員の健康に関わる備えの整理について、ご相談を承っています。
ご相談はこちら
【出典】労働基準法第36条/厚生労働省「時間外労働の上限規制」関連資料/厚生労働省「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月改正)/厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
本記事は2026年9月24日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。個別の実務判断については、労働基準監督署や社会保険労務士等にご確認ください。

