健康経営に使える公的支援制度まとめ|低コストで始める中小企業へ

健康経営に活用できる公的支援制度──ハードルを上げずに始めるために|株式会社キール
シリーズ「中小企業の健康経営」 Vol.3 / 全5回

健康経営に活用できる公的支援制度──ハードルを上げずに始めるために

公開日:2026年8月4日 / 株式会社キール
この記事の結論
  • 健康経営は「お金をかけて立派な制度を作る」ものではありません。公的な支援制度が想像以上に揃っており、低コストで始められます
  • 柱は4つ。産業保健の公的機関(地域産業保健センター等)、厚生労働省の無料ツール、保険者(協会けんぽ等)のサービス、無料の労務相談です。
  • ただし公的制度にも回数制限や条件があり、「これを使えばすべて解決」ではありません。大切なのは、完璧を目指して止まらないことです。
  • まず1つ、使ってみる。ハードルを上げないことが、健康経営を続ける最大のコツです。

「健康経営、やった方がいいのは分かるけれど、うちにはそんな予算も人手もない」──。連載第3回は、この最も多い心配ごとに答えます。

結論から言えば、健康経営の入口に大きな予算は要りません。国・自治体・保険者が用意している支援制度が、実は驚くほど揃っているからです。ただ、これらは各機関のサイトに散らばっていて、全体像をつかみにくい。そこで本記事では、中小企業が実際に使える公的支援を「誰が・何を・どこまで」の形で整理します。

1. 最初に、考え方から──「完璧」がいちばんの敵

制度の紹介に入る前に、一つだけお伝えしたいことがあります。健康経営が続かない会社の多くは、費用ではなく「最初に理想を高く設定しすぎること」でつまずきます。産業医の選任、立派な健康管理システム、全社的な運動プログラム──。そこまで揃えなくても、始められます。

健診をきちんと受ける。相談できる窓口を決める。困ったら公的機関に聞く。この水準から始めて、少しずつ積み上げる。前回(Vol.2)で見たとおり、制度の骨格は毎年大きくは変わりません。小さく始めて長く続ける会社が、結局いちばん遠くまで行きます。以下の制度は、そのための「使える道具箱」です。

2. 柱①:産業保健の公的機関──専門家を「自前で抱えない」という選択肢

地域産業保健センター(従業員50人未満の事業場向け)

産業医のいない小規模事業場のために、国が設置している窓口です。健康相談、健診結果についての医師の意見聴取、高ストレス者への面接指導などを原則無料で利用できます。「うちには産業医がいないから」という悩みの、公式の答えがここにあります。ただし利用には事前申込みが必要で、回数には目安(原則年2回程度)があります。無制限ではない点は知っておいてください。

産業保健総合支援センター(さんぽセンター・各都道府県)

治療と仕事の両立支援、メンタルヘルス対策の促進員による無料の訪問支援、事業者向け研修などを提供しています。両立支援が努力義務化された今、体制づくりの相談先として最初に頼れる機関です。

3. 柱②:厚生労働省の無料ツール──「作る」より「使う」

ストレスチェックは、厚労省が「ストレスチェック実施プログラム」を無料配布しており、集団分析までこれで実施できます。小規模事業場向けの実施マニュアルも公表されました。令和10年からは50人未満の事業場にも義務化されるため、早めに慣れておく価値は大きいはずです。

従業員教育には、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の無料eラーニング(ラインケア研修等)が使えます。管理職教育の実績づくりに、費用ゼロで着手できます。

注意点厚労省版ストレスチェックプログラムは無料ですが、実施者(医師・保健師等)は別途必要です。ここは地域産業保健センターへの相談や外部委託で補う設計になります。「無料ツールがある=すべて無料で完結」ではない点は、あらかじめ押さえておきましょう。

4. 柱③:保険者(協会けんぽ等)のサービス──すでに払っている保険料の「回収」

意外と見落とされがちなのが、加入している保険者のサービスです。協会けんぽの場合、健康宣言事業への参加は無料で、これは認定申請の入口そのものです。生活習慣病予防健診は費用の多くが補助され、自己負担は数千円程度まで下がります。メタボ該当者への特定保健指導は無料です。

これらは新たな出費ではなく、毎月納めている保険料に含まれるサービスの活用です。使わない方がもったいない、という性質のものです。

5. 柱④:働き方・労務の無料相談

長時間労働対策や就業規則の整備は、各都道府県の働き方改革推進支援センターが無料で相談に応じています。健康経営の「働き方」まわりの項目は、ここを使いながら整備できます。また経済産業省の「ACTION!健康経営」ポータルには、取り組みの進め方をまとめた無料のガイド資料が揃っています。

6. それでも残る費用──正直な全体像

残る費用も示しておきます。

公的支援を活用した場合に残る主な費用の目安。
項目目安補足
定期健診の費用補助後、自己負担 数千円程度/人・年法定義務。協会けんぽの補助活用時
認定申請料16,500円(税込)/件健康経営優良法人の申請時のみ
ストレスチェックの実施者役体制による公的機関への相談や外部委託で設計

逆に言えば、これ以外の多くの取り組み──宣言、担当者設置、教育、相談窓口、両立支援の体制──は、費用よりも「決めること」と「使うこと」で進みます。

POINTこれらの制度は「使えばすべて解決」の魔法ではありません。回数や条件の制約はあります。それでも、ハードルを上げずに始めるための道具としては十分すぎるほど揃っています。まず1つ──たとえば健康宣言への参加か、こころの耳のeラーニング1本から──使ってみてください。

7. まとめ──道具はある。あとは始めるだけ

健康経営の入口を塞いでいるのは、多くの場合、費用そのものではなく「大ごとだと思い込むこと」です。公的な支援制度という道具箱を知れば、最初の一歩は今日にでも踏み出せます。

次回Vol.4は、視点を変えてデータの話。過去5年の認定企業一覧を当社が独自集計した結果──神奈川県で2.2倍、建設業が全国最多──から、健康経営の「今」を読み解きます。

連載「中小企業の健康経営」(全5回)
  1. Vol.1 なぜ今、中小企業にこそ健康経営なのか
  2. Vol.2 健康経営優良法人2027はどう変わるのか
  3. Vol.3 健康経営に活用できる公的支援制度(本記事)
  4. Vol.4 データで見る5年間──神奈川2.2倍、建設業が全国最多(8/6公開予定)
  5. Vol.5 2027認定への逆算スケジュール(8/7公開予定)
どの制度から使うか、貴社の状況で整理します

公的支援は揃っていますが、自社にどれが合うか、どの順番で使うかは会社ごとに違います。キールは、ISO31000に基づくリスクの専門家として、貴社の現状に合わせた進め方をご提案します。

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よくある質問

公的支援だけで認定まで到達できますか?

多くの項目は公的支援と社内の「決めごと」で満たせますが、健診費用や申請料などの実費、ストレスチェックの実施者体制など、自社で設計すべき部分は残ります。「無料で完結」ではなく「低コストで始められる」が正確な表現です。

地域産業保健センターは何度でも使えますか?

原則として利用回数に目安(年2回程度)があり、事前申込みが必要です。恒常的な体制が必要になった段階では、産業医の選任や外部サービスの活用を検討することになります。

何から使い始めるのがおすすめですか?

加入保険者(協会けんぽ等)の健康宣言への参加が最初の一歩です。無料で、認定申請の入口にもなります。並行して、こころの耳のeラーニングなど費用ゼロで実績になるものから着手するのが現実的です。

支援制度の内容は変わることがありますか?

あります。各制度の対象・回数・補助額は年度によって見直されるため、利用前に必ず各機関の公式情報をご確認ください。

真下 恭徳(ました やすのり)/株式会社キール 代表取締役
AIG損害保険 横浜ICAにて法人リスクコンサルティング(ISO31000)に従事。健康経営アドバイザー。「向かい風を、推進力へ。」を掲げ、神奈川県央の中小企業を、リスクの上流から支える。

出典:労働者健康安全機構(地域産業保健センター・産業保健総合支援センター)、厚生労働省(ストレスチェック実施プログラム・こころの耳)、全国健康保険協会(健康宣言・生活習慣病予防健診・特定保健指導)、経済産業省(ACTION!健康経営)の各公表情報。各制度の対象・回数・費用は変更される場合があります。ご利用前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的とするものです。