- 人手不足と定年延長を背景に、65歳以上の従業員が業務で運転する場面は、多くの中小企業で当たり前になりつつあります。経験豊富なベテランは、会社の大切な戦力です。
- 一方で、加齢にともなう視野・視力・反応時間の変化は、本人の経験や自覚とは別に、少しずつ進むとされています。「長年無事故だから大丈夫」という経験への信頼だけでは、備えとして足りないことがあります。
- 大切なのは、年齢を理由に一律に運転から外すことではなく、健康状態・運転の実態に応じて、業務の内容や時間帯を調整できる仕組みをつくることです。
- 主役は、体調確認・運転の見直しの機会・業務の割り当ての工夫という体制の備え(リスクの低減)です。交通事故データマップでは、65歳以上が関わる事故の傾向を絞り込んで確認できます。尽くしても残るリスクには移転(保険など)も組み合わせます。
ベテランの経験と、加齢の変化は別もの。65歳以上の従業員が運転する時代の、企業の安全管理
建設、警備、製造、配送——多くの現場で、65歳以上の従業員が第一線で活躍しています。人手不足と定年延長が進むなか、ベテランが業務で車を運転する場面は、これからも増えていきます。
結論から申し上げると、これは「高齢者の運転は危ない」という話ではありません。経験豊富なベテランは、会社にとってかけがえのない戦力です。一方で、加齢にともなう視野・視力・反応時間の変化は、本人の経験や自覚とは別に、少しずつ進むとされています。会社として考えるべきは、年齢で一律に線を引くことではなく、一人ひとりの状態に応じて、安全に力を発揮し続けてもらう仕組みをつくることです。
参考:警察庁・内閣府「交通安全白書」等。高齢運転者に関する制度(免許更新時の高齢者講習など)の詳細は、警察庁の公的資料をご確認ください。
本コラムは、不安を煽るためのものでも、ベテランの運転を否定するためのものでもありません。「向かい風を、推進力へ」——変化を正面から見て、経験という財産を安全に活かし続けるための情報提供です。
課題の深掘りと、見落としがちなリスクの可視化
なぜ、経験豊富なベテランにも、あらためて備えが必要なのか。三つの観点で整理します。
視野が少しずつ狭くなる、暗い場所で見えにくくなる、とっさの反応にわずかに時間がかかる——こうした変化は、ある日突然ではなく、ゆっくり進むため、本人が気づきにくいのが特徴です。第11回で触れた健康起因のリスク(目の病気や持病の影響)とも重なります。「自分はまだ大丈夫」という感覚と、実際の変化の間に、ズレが生まれうることを、本人と会社の双方が前提にしておく必要があります。
ベテランほど、運転を任される機会が多く、周囲も本人も運転ぶりを疑いません。それ自体は信頼の証ですが、結果として、運転の様子を見直す機会がないまま年月が過ぎる、という状態になりがちです。無事故の実績は過去の記録であり、これからの安全を保証するものではない——第2回の交通データでも触れた考え方が、ここでも当てはまります。
目や体の変化を感じても、「運転を外されるかもしれない」と思うと、本人は言い出しにくいものです。周囲も、ベテランに運転の話を切り出すのは気を使います。この沈黙こそが、最大のリスクです。変化を口にしても不利にならない、業務の調整で活躍し続けられる——そう思える職場の空気と仕組みが、安全の土台になります。
- 年齢ではなく状態で考える——健康診断・視力等の確認を、運転業務と結びつけて見る
- 夜間や長距離など負担の大きい運転の割り当てを、本人と相談して調整できる余地をつくる
- 運転について話しやすい雰囲気——変化を伝えても不利にならないことを明確にする
- 運転以外でも活躍できる業務の選択肢を用意しておく
※免許更新時の高齢者講習など、制度の詳細は警察庁の公的資料をご確認ください。医学的な判断は、産業医や医療機関にご相談ください。
これらは、ベテランを排除するためではなく、長く安全に活躍してもらうための備えです。問題の多くは、変化に気づく仕組みがないまま、「いままで通り」が続いてしまうことから生じます。
事故が起きる前に。今日から実践できる「リスク低減」の備え
キールが本質と考えるのは、事故が起きてからの対応ではなく、起こさせない備えです。ISO31000の「回避・低減・移転・保有」(避ける・減らす・移す・受け入れる)でいえば、中心は低減です。会社として取り組める手順を挙げます。
1. 健康・視力の確認を、運転業務とつなげて見る
健康診断の結果や視力の状態を、「受けて終わり」ではなく、運転業務の割り当てと結びつけて確認します(第11回参照)。気になる点があれば、産業医や医療機関への相談につなげる。年齢を問わず全員に同じ仕組みで行うことが、特定の人を狙い撃ちにしない、フェアな運用のコツです。
2. 運転の「見直しの機会」を、定期的につくる
同乗しての確認や、運転について話す面談の機会を、年齢を問わず定期的に設けます。ベテランだけを対象にすると角が立ちますが、全員の仕組みにすれば自然です。ドライブレコーダーの映像をヒヤリハットの共有に使うのも、属人的な評価にならない方法の一つです。
3. 業務の割り当てに「調整の余地」をつくる
夕方・夜間の運転(第13回参照)や長距離・長時間の運転は、疲労や視認性の面で負担が大きくなります。負担の大きい運転を特定の人に集中させない、本人の状態に応じて時間帯やルートを調整できる——そうした割り当ての柔軟さが、無理のない安全につながります。
そして、これらを尽くしてもなお残る残存リスク——たとえば万一の事故による高額な賠償など——には、「リスクの移転(保険など)」も会社の備えの一つとして組み合わせます。主役はあくまで体制による低減であり、移転はそれを補う一つの手段です。
出発前の確認に。「交通事故データマップ」の活用
キールの交通事故データマップは、65歳以上の方が関わる事故での絞り込みに対応しています。自社の営業・配送エリアで、そうした事故が多い傾向の場所や時間帯を確認でき、ベテランドライバーとのKY(危険予知)の話題づくりにも使えます。警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」(2019–2024)を独自に加工した、無料・登録不要のツールです。
住所の入力、現在地の捕捉、地図のタップで中心地点を指定し、半径や、時間帯・曜日・重大度・事故タイプ・発生年度・天候・路面状態・65歳以上の関与で絞り込めます。表示は過去の統計に基づく目安であり、特定地点の将来の安全を保証するものではありません。現地の交通規制と最新の状況を最優先にお願いします。
【無料・登録不要】65歳以上の関与でも絞り込める「交通事故データマップ」はこちら 住所・現在地・地図タップで中心を指定 / 警察庁オープンデータ(2019–2024)これは保険の勧誘ですか?
いいえ。本コラムは、高齢の従業員が安全に活躍し続けるための体制づくり(リスクの低減)を目的とした情報提供です。残存リスクへの備えとして「リスクの移転(保険など)」に触れていますが、特定の商品をおすすめしたり、加入を促したりするものではありません。
65歳以上の従業員に、運転をやめてもらうべきですか?
年齢だけで一律に判断することは、おすすめしません。加齢の変化には個人差が大きく、経験豊富なベテランは会社の大切な戦力です。健康状態や運転の実態に応じて、業務の内容や時間帯を調整できる仕組みをつくることが、現実的で公平な備えになります。
本人に運転の話を切り出しにくいのですが、どうすればよいですか?
特定の人を対象にせず、年齢を問わない全員の仕組み(定期的な面談・健康確認・同乗確認など)にすることをおすすめします。全員に同じルールなら角が立たず、変化を伝えても不利にならない空気づくりにもつながります。
ベテラン従業員の運転業務の割り当てや安全管理体制は、自社の人員構成や業務実態に合わせて整えることで、より確実になります。「うちは何から始めればよいか」を一緒に整理したい経営者・安全運転管理者の方は、法人向けのご相談窓口からお気軽にお問い合わせください。
法人のお客様 お問い合わせ・ご相談はこちらISO31000を基準としたリスクコンサルティング / ご相談は無料です

