情報セキュリティ自社診断とは?25項目の構成と中小企業の取り組み方

情報セキュリティ自社診断とは?25項目の構成と中小企業の取り組み方
SUMMARY|この記事の結論
  • IPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」は、中小企業が自社のセキュリティ対策の現在地を25項目・無料で確認できるセルフチェックです。SECURITY ACTION二つ星宣言の要件のひとつでもあります。
  • この診断のいちばん効果的な使い方は、対策を整えた後の「答え合わせ」ではなく、会社の体制をつくる段階で先に読む「設計図」として使うこと。キール自身、創業時のシステム導入・社内体制の構築を、この診断項目を参考にしながら進めました。
  • 点数は目的ではありません。×が付いた項目を「宿題リスト」に変え、年1回の定期点検として運用に組み込むことに価値があります。満点でも安全が保証されるわけではありません。
  • 診断の先には、SECURITY ACTION(★1・★2相当)→国のSCS評価制度★3(26要求事項)という階段が続いています。診断はその一段目です。

前回の記事(SCS評価制度とは?★3・★4の要件と受注側中小企業の準備)で、国の新しいセキュリティ評価制度の★1・★2に相当するのがIPAの「SECURITY ACTION」であることをお伝えしました。そのSECURITY ACTIONの中核にあるツールが、今回取り上げる「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」です。

「セキュリティ対策を何から始めればいいか分からない」という中小企業の経営者にとって、最初の一歩として国が用意している道具がこれです。本記事では診断の中身と、キールが創業時に実際に使ってみて感じた「効果的な取り組み方」を整理します。

「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」とは

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が中小企業向けに無料で提供しているセルフチェックです。名前のとおり短時間で取り組めるよう設計されており、構成は次のとおりです。

25項目・100点満点。各項目について「実施している」「一部実施している」「実施していない・わからない」から自社の状況を選び、合計点で現在地を把握します。項目は大きく、パソコンやソフトウェアの更新・ウイルス対策・パスワード管理といった基本的対策、電子メールの扱いや重要情報の持ち出しなど従業員としての対策、ルールづくりや事故対応の備えなど組織としての対策の3つの領域で構成されています。専門用語の知識がなくても答えられる言葉で書かれており、様式はIPAのサイトから誰でも入手できます。

重要なのは、これが「テスト」ではなく「健康診断」だということです。低い点が出ても誰かに叱られるものではなく、どこに手当てが必要かが見える化されること自体が成果です。むしろ最初から満点が出る会社のほうが珍しく、×が付いた項目こそがこの診断の本当の収穫です。

取り組み方のコツ——「答え合わせ」ではなく「設計図」として使う

コツ1:体制をつくる段階で「先に」読む

多くの解説記事は、この診断を「今の対策状況をチェックするもの」として紹介します。それは正しいのですが、もうひとつ強力な使い方があります。これから体制をつくる段階で、診断項目を設計図として先に読む使い方です。

キール自身がこの使い方をしました。2026年の創業時、業務システムやクラウドサービスを導入するにあたり、自社診断の項目を参考にしながら社内体制を構築したのです。ソフトウェアの更新をどう運用するか、パスワードとアクセス権をどう管理するか、重要情報の保管とバックアップをどうするか——診断の25項目は、そのまま「創業時に決めておくべきことのリスト」として機能しました。後日あらためて全項目を点検した際、すべて「実施している」を確認できたのは、後から頑張って埋めたのではなく、最初から診断項目に沿って組んだからです。

POINT

創業期・新規事業の立ち上げ期・システム入れ替えのタイミングは、セキュリティ体制を仕込む最大のチャンスです。後から直すより、最初から診断項目に沿って組むほうが、手間もコストも小さく済みます。資金調達を経て体制整備を進めるベンチャー企業には、特にこの「設計図としての使い方」をおすすめします。

コツ2:経営者が自分の手でやる

この診断は、担当者に任せず経営者自身が手を動かすことに意味があります。理由は2つ。第一に、25項目の多くは「ルールを決めているか」「教育しているか」という経営判断そのものであり、答えられるのは経営者だからです。第二に、自分でやると「わからない」という回答の重みに気づけるからです。「うちはウイルス対策をしているか?——わからない」。この「わからない」こそが、経営者が把握すべき最大のリスク情報です。従業員のいない一人会社でも同じで、むしろ経営者の運用がすべてである分、診断がそのまま自社の実態になります。

コツ3:×と「わからない」を宿題リストに変える

診断が終わったら、×や「わからない」が付いた項目を宿題リストにします。ここで大事なのは、お金のかかる対策から始めないこと。25項目の多くは、設定の見直し・ルールの明文化・保管場所の整理といった、費用ゼロか小さな手間で改善できるものです。高額なセキュリティ製品の導入を検討するのは、無料でできる宿題を片付けた後で十分です。どうしても自社で判断がつかない項目は、IPAが公開している「中小企業向けサイバーセキュリティ対策支援者リスト」で専門家(情報処理安全確保支援士)を探すこともできます。

コツ4:年1回の定期点検として運用に組み込む

診断は一度やって終わりにせず、年1回以上の定期点検としてカレンダーに固定することをおすすめします。事業が成長すれば、使うサービスも扱う情報も変わり、去年の○が今年も○とは限りません。キールも、自社の情報セキュリティ基本方針【要確認:URL公開後に確定】の中で、この診断等を活用した年1回以上の自己点検を運用として定めています。宣言やロゴは、こうした運用が回っていて初めて意味を持ちます。

診断の先にある階段——SECURITY ACTIONとSCS評価制度

この診断は、それ自体が独立したツールであると同時に、国の制度の階段の一段目でもあります。

段階内容
SECURITY ACTION 一つ星 IPA「情報セキュリティ5か条」に取り組むことを自己宣言。費用はかかりません。
SECURITY ACTION 二つ星 自社診断(25項目)で自社の状況を把握したうえで、情報セキュリティ基本方針を定めて外部に公開することを自己宣言。キールは二つ星の宣言企業です。
SCS評価制度 ★3〜 2026年度末頃の申請受付開始を目指して構築中の国の評価制度。★3は26の要求事項について専門家確認付き自己評価を行います。SECURITY ACTIONは★1・★2に相当し、★3・★4取得の準備段階と位置づけられています。

取引先からセキュリティ対応を求められる場面は、今後この階段に沿って整理されていきます(詳細は前回の記事をご覧ください)。まだ何もしていない会社の最初の一歩は、診断の実施と一つ星の宣言。診断を終えて基本方針を公開すれば二つ星。その先に★3の26要求事項が続きます。診断の25項目と★3の26要求事項は別物ですが、方向性は連続しており、診断で身につけた「自社を点検する習慣」がそのまま★3への助走になります

ISO 31000の視点——診断は「リスクの特定」の最初の一歩

リスクマネジメントの国際規格ISO 31000では、リスクへの対応の前に「特定→分析→評価」というアセスメントの過程を置きます(ISO 31000の基礎)。自社診断はまさにこの「特定」を、中小企業が自力で始められる形にしたものです。自社にどんな情報資産があり、どこに弱点があるかを知らなければ、回避も低減も打ちようがありません。逆に言えば、診断で現在地を知ることは、リスクへの4つの対応のすべての出発点です。まず知る。それから減らす。順序はいつもここからです。

まとめ——25項目は「不安のリスト」ではなく「打ち手のリスト」

セキュリティ対策は、全体像が見えないから不安になります。自社診断の25項目は、その全体像を1枚に収めた地図です。×が付くことは失点ではなく、打ち手が見つかったということ。そして、これから会社や事業を立ち上げる方にとっては、最初から沿って組める設計図でもあります。5分で始められる一歩として、まず一度、経営者ご自身の手で取り組んでみてください。

「診断をやってみたが、×が付いた項目の直し方に迷う」
「創業・体制整備のタイミングで、リスク管理の土台を一緒に設計してほしい」
そんなときは、ISO 31000ベースのリスクコンサルティングを行うキールにご相談ください。

無料相談はこちら

よくあるご質問

診断は無料ですか?何か登録が必要ですか?

無料です。診断の様式はIPAのサイトから入手でき、実施にあたって登録や届出は不要です。診断の実施と、SECURITY ACTIONの宣言(こちらは所定の申込が必要)は別の手続きです。

何点を目指せばよいですか?

点数そのものは目的ではありません。診断の目的は、×や「わからない」が付いた項目=手当てが必要な箇所を見える化することです。また、満点であっても安全が保証されるわけではありません。この診断は最低限の25項目に絞ったセルフチェックであり、脅威は常に変化するためです。点数は「去年の自社」と比べるための物差しと考えてください。

従業員がいない一人会社でも意味がありますか?

あります。一人会社は経営者の運用がそのまま会社のセキュリティ水準になるため、診断結果が実態を直接映します。キール自身も従業員のいない体制で、創業時の体制構築に診断項目を活用し、定期的な自己点検を運用に組み込んでいます。取引先から見れば会社の規模にかかわらず預けた情報の扱いは重大事であり、規模が小さいことは省略の理由になりません。

診断とSECURITY ACTIONはどういう関係ですか?

SECURITY ACTION二つ星の宣言は、「自社診断で自社の状況を把握すること」と「情報セキュリティ基本方針を定めて外部に公開すること」を自ら宣言する制度です。つまり診断は二つ星の要件の一部です。一つ星は「情報セキュリティ5か条」への取り組みの宣言で、診断は必須ではありませんが、現在地の把握のために併せて実施することをおすすめします。

自社診断とSCS評価制度★3の違いは何ですか?

自社診断は25項目・自己完結のセルフチェックで、費用はかかりません。SCS評価制度の★3は26の要求事項について自己評価を行い、セキュリティ専門家の確認・助言を経て登録する仕組みで、2026年度末頃の申請受付開始を目指して構築が進んでいます。項目の内容も評価の重みも異なりますが、自社診断→SECURITY ACTION→★3という階段として連続しています。

AUTHOR
真下 恭徳(ました やすのり)|株式会社キール 代表取締役

立教大学法学部卒。三井住友海上火災保険、オリックス生命保険を経て、AIG損害保険 横浜支店にて法人向けリスクコンサルティング(サイバー・D&O・知的財産等)に従事。2026年、神奈川県大和市に株式会社キールを設立。ISO 31000に基づくリスクコンサルティングと法人向け保険代理店事業を行う。損害保険大学課程コンサルティングコース修了、健康経営アドバイザー。キールはIPA「SECURITY ACTION」二つ星宣言企業、経済産業省「事業継続力強化計画」認定企業。

出典(一次資料)

  • IPA「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(診断シートはIPA「SECURITY ACTION」サイトから入手できます)
  • IPA「SECURITY ACTION セキュリティ対策自己宣言」 https://www.ipa.go.jp/security/security-action/
  • IPA「中小企業向けサイバーセキュリティ対策支援者リスト」 https://www.ipa.go.jp/security/sme/shien/list.html
  • 経済産業省・内閣官房国家サイバー統括室「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針」(2026年3月)

本記事は2026年7月21日時点の公表情報に基づく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。診断・各制度の内容は変更される可能性があります。最新情報はIPA・経済産業省の公表資料をご確認ください。