SCS評価制度とは?★3・★4の要件と受注側中小企業の準備

SCS評価制度とは?★3・★4の要件と受注側中小企業の準備
SUMMARY|この記事の結論
  • 国は、企業のセキュリティ対策状況を★の段階で可視化する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の構築を進めており、★3・★4は2026年度末頃の申請受付開始を目指しています。
  • この制度が動き出すと、発注元から受注側の中小企業へ「★3(または★4)への対応」が取引の中で要請される場面が増えると見込まれます。建設・製造・警備など、下請・委託構造の中にいる会社ほど早く影響が及びます。
  • ★1・★2に相当するのは、IPAの「SECURITY ACTION」(セキュリティ対策自己宣言)。つまり今日からでも登れる一段目が既に用意されています。キール自身もSECURITY ACTIONの宣言企業として、この階段の一段目に立っています。
  • 対策に要する費用は「間接経費」として価格交渉の対象になり得ることを、経済産業省と公正取引委員会が整理済みです。受注側が黙って呑む前提の制度ではありません。

「お世話になっております。弊社サプライチェーン管理の一環として、貴社のセキュリティ対策状況について、添付のチェックシートにご回答をお願いいたします」——。

こうしたメールが元請や発注元から届き、総務や経理を兼任する担当者が数十問のチェックシートを前に固まってしまう。取引先ごとに様式も設問も違うので、毎回ゼロから調べて回答する。私(真下)はAIG損害保険の横浜支店で法人向けのリスクコンサルティングに携わっていた時期に、この光景を何度も見てきました。回答する側にとっては「本業ではないのに、断れない仕事」です。

国もこの状況を課題として認識しています。経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室は2026年3月、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の制度構築方針を公表しました。企業のセキュリティ対策状況を★3〜★5の段階で評価・可視化し、バラバラだったチェックシートを国の共通の物差しに置き換えていく仕組みです。本記事では、この新制度を「発注する大企業側」ではなく、調査票を受け取る側=受注側の中小企業の目線で読み解きます。

SCS評価制度とは——「格付け」ではなく「共通の物差し」

制度構築方針によれば、背景にあるのは次の2つの課題です。

委託元(発注側)の課題:委託先のセキュリティ対策が外から見えず、自社が配るチェックリストの内容が適正かどうかの担保も難しい。
委託先(受注側)の課題:複雑なサプライチェーンの中で、様々な委託元から様々な要求事項を求められ、特に中小企業を中心に過度な負担につながっている。

SCS評価制度は、この両方を解くために「サプライチェーンにおける立ち位置に応じて満たすべき対策」を国が段階(★)として提示し、企業の対応状況を可視化するものです。具体的には、2社間の取引契約等において、委託元が委託先に適切な★の段階を提示し、対策を促すとともに実施状況を確認するという使われ方が想定されています。制度の運営主体(スキームオーナー)は、経済産業省の監督のもと、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が担います。

ここで押さえておきたいのは、制度構築方針が明記している次の一文です。本制度は企業の対応状況を可視化するものであり、「事業者のセキュリティ対策レベルを競わせることを目的としたもの(格付け制度等)ではない」。★が少ないから劣った会社だ、という序列づけの制度ではなく、取引のリスクに応じて「この取引ならこの水準」を合意するためのコミュニケーションの道具です。受注側は、必要以上に身構える必要はありません。

もう一点、対象範囲も確認しておきます。本制度が対象とするのは、企業のIT基盤(メールサーバ・Webサーバ等の公開サーバ、認証基盤、パソコン等のエンドポイント、クラウドサービスを含む)です。製造現場の制御(OT)システムや、発注元に納める製品そのもののセキュリティは直接の対象外で、別の制度・ガイドラインで手当てする整理になっています。工場をお持ちの製造業の方は、「この制度=工場の制御系まで審査される」わけではない点を押さえておくと、過剰な負担感なく向き合えます。

★の階段——★1・★2は、実はもう始まっている

本制度で新たに具体化されたのは★3と★4です(★5は2026年度以降に検討)。では★1・★2はどこにあるのか。制度構築方針は、★1・★2についてはIPAが運営する「SECURITY ACTION」を参照すると整理しています。SECURITY ACTIONは、中小企業が「情報セキュリティ対策に取り組む」ことを自己宣言する既存の制度で、一つ星・二つ星の区分があります。つまり——

POINT

SCS評価制度の階段は★3から始まるのではなく、SECURITY ACTION(★1・★2相当)という「今日から登れる一段目」が既に存在します。制度の本格開始を待たずに、準備段階として着手できるということです。キール自身もSECURITY ACTIONの宣言企業であり、自社の点検から始めました。

★3・★4の中身を、制度構築方針の記載に沿って整理します。

★3★4
想定される脅威 広く認知された脆弱性等を悪用する一般的なサイバー攻撃 供給停止等でサプライチェーンに大きな影響をもたらす企業への攻撃、機密情報など影響の大きい資産への攻撃
対策の考え方 全てのサプライチェーン企業が最低限実装すべき、基礎的な組織的対策とシステム防御策 標準的に目指すべき水準。組織ガバナンス・取引先管理・防御・検知・インシデント対応まで包括的に
要求事項数 26件 43件
評価の方法 専門家確認付き自己評価(自己評価の結果を、登録セキスペ等のセキュリティ専門家が確認・助言) 第三者評価(評価機関による審査に加え、実地審査と技術検証=VPN装置等の脆弱性検査を含む)
有効期間 1年(年次で自己評価を更新) 3年(期間内は年次の自己評価、更新時に再度第三者評価)

★3の評価スキームは「専門家確認付き自己評価」で、経営層による自己適合宣誓を含めて事務局に提出し、問題がなければ台帳に登録・公開されます。ここで実務上大きいのは、評価結果に不適合が見つかっても、適切に是正してセキュリティ専門家の了承を得られれば★3を取得できると整理されている点です。「一発合格でなければ終わり」の試験ではなく、直しながら登れる設計です。

そして取得企業は、法人名・所在地・適用範囲・有効期限などが台帳に登録され、Web上で検索・開示される仕組みが予定されています。取得した★は自社だけの内部資料ではなく、対外的に確認可能な信用情報になるということです。

発注元はどう★を割り当てるか——建設・製造・警備に波及する理由

制度構築方針は、発注者が取引先に★3・★4のどちらを求めるかの判断フロー例も示しています。要約すると2つの問いです。

①その取引先の事業が止まったとき、自社の事業継続上、重要な業務に許容できない遅延が生じ得るか(事業継続リスク)。
②その取引先がサイバー攻撃を受けたとき、自社の機密情報の管理に重大な影響が生じ得るか(情報管理リスク)。

どちらかがYESなら★4、いずれもNOなら★3、という考え方です。専属の協力会社として発注元の工程に深く組み込まれている建設の協力会社、発注元の設計情報・図面を預かる製造の受託加工業、施設や情報資産の警備を通じて発注元の内部情報に触れる警備業——キールが主にお付き合いする業種は、まさにこのフローで「YES」が付きやすい位置にいます。

さらに見落とせないのが再委託への波及です。★4の要求事項には「事業継続リスク及び情報管理リスクの観点から自社に影響を及ぼす可能性のある取引先のセキュリティ対策状況を把握すること」(要求事項2-1-3)が含まれています。つまり、一次請けが★4を取れば、一次請けは自社の重要な協力会社——二次請け・三次請け——の対策状況を年1回以上把握する立場になります。元の発注者から直接要請されなくても、階段状に要請が降りてくる構造が制度に組み込まれているのです。

POINT

「うちは大手と直接取引がないから関係ない」とは言い切れません。★4取得企業には重要な取引先の対策状況把握が求められるため、二次請け・三次請けにも段階的に要請が届く設計になっています。届いてから慌てるより、届く前に現在地を知っておくのが得策です。

受注側の準備——今からできる3ステップ

ステップ1:SECURITY ACTIONを宣言する(★1・★2相当)

制度の申請受付開始(2026年度末頃を想定)を待つ必要はありません。IPAのSECURITY ACTIONは、中小企業がセキュリティ対策への取り組みを自己宣言する制度で、費用はかかりません。★3・★4取得の準備段階として制度上も位置づけられています。宣言は「ロゴを貼って終わり」にせず、宣言に伴う自社点検を実際にやることに意味があります(キールが宣言時に何をどう点検したかは、本シリーズの次回で自社の実例としてお話しする予定です)。

ステップ2:★3の26項目を「ものさし」に、自社のIT基盤を棚卸しする

★3の要求事項は、ガバナンスの整備(セキュリティ担当の明確化・対応方針の策定)、取引先との機密情報の取扱いの明確化、情報資産やネットワークの把握、ID・パスワード管理、ネットワーク境界の分離・保護、ソフトウェアのアップデート、マルウェア対策、インシデント対応手順の作成、復旧の備え——といった基礎項目26件で構成されます。特別な高額投資を前提とした項目群ではなく、「自社に何があり、誰が責任者で、何かあったらどう動くか」を文書と運用で示せるか、が中心です。まずは要求事項の一覧(経産省サイトで公開されています)と自社の現状を突き合わせ、できている・できていないの地図を作ることが出発点になります。

ステップ3:一人で抱えず、国の支援メニューを知っておく

中小企業向けの支援策も同時に整備が進んでいます。★3の「専門家確認」を担うセキュリティ専門家(情報処理安全確保支援士=登録セキスペ等)とのマッチングのため、IPAは「中小企業向けサイバーセキュリティ対策支援者リスト」を公開しています。また、★3・★4取得を支援する新しい類型の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の創設も予定されています。対策の実装から評価まで、自前で全部やる前提の制度ではありません。

費用は「価格交渉の対象」——泣き寝入りしない制度設計

受注側として最も気になるのは「結局、費用は下に押し付けられるのではないか」でしょう。この点、経済産業省と公正取引委員会は、SCS評価制度に基づくセキュリティ対策の要請を想定した独占禁止法・取適法(中小受託取引適正化法)上の整理を公表しています。そこでは、セキュリティの経費が物件費や人件費などの間接経費として計上されること、そして発注元は★取得に伴う価格交渉に積極的に対応する必要があることが明示されています。

もちろん、現実の交渉が常に円満とは限りません。しかし「セキュリティ対応はコストであり、価格交渉の正当な対象である」と国が文書で整理していることは、受注側にとって交渉の足場になります。要請を受けたら、対応に要するコストを把握・記録し、価格の話とセットで協議する——この姿勢を最初から持っておくことが大切です。

ISO 31000の視点——この制度は「低減」の共通言語

キールはリスクマネジメントの国際規格ISO 31000を仕事の背骨にしています。その枠組みでは、リスクへの対応は大きく「回避・低減・移転・保有」に整理されます(詳しくはリスクへの4つの対応、およびISO 31000の基礎をご覧ください)。

SCS評価制度の★3・★4は、この整理でいえば「低減」のベースラインを国が共通言語として示したものです。まず★3の26項目で攻撃を受けにくく・被害を広げにくくする。事業が止まった場合の備え——復旧手順や事業継続の取り組み——は★4で厚くなり、これはBCP(事業継続計画)の議論と地続きです。そのうえで、どれだけ低減しても残るリスク(残余リスク)に対しては、移転——たとえばサイバー関連の保険——という手段も選択肢に入ります。ただし順序を間違えてはいけません。先に来るのは常に「避ける・減らす」であり、保険は残ったリスクに対する最後の手当てです。★3の26項目に向き合うことは、それ自体が保険よりも先にやるべきリスク対応そのものです。

まとめ——調査票は「脅威」ではなく「現在地を知る機会」

取引先からセキュリティ調査票が届くこと、あるいは今後★の対応を求められることは、面倒な宿題に見えて、実は自社のリスク管理の現在地を知る機会でもあります。国の共通の物差しができることで、取引先ごとにバラバラだった要求はいずれ収れんし、一度きちんと取り組めば、その成果は複数の取引先への説明に使い回せる資産になります。向かい風に見える要請を、自社の信用力という推進力に変える——キールはその伴走をします。

「調査票が届いたが、どこから手を付ければいいか分からない」
「★3の要求事項と自社の現状のギャップを一緒に整理してほしい」
そんなときは、ISO 31000ベースのリスクコンサルティングを行うキールにご相談ください。

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よくあるご質問

従業員10名の下請け企業ですが、この制度の対象になりますか?

制度が想定する対策の実施主体は「サプライチェーン企業(2社間契約における受注者側)」であり、企業規模による除外はありません。個人事業主も申請主体になり得る設計です。ただし★の取得が法律上の義務になるわけではなく、取引の中で発注元から要請される(または自主的に取得する)形が想定されています。自社が発注元の事業継続や機密情報に深く関わる取引をしているほど、要請を受ける可能性は高くなります。

★3と★4、どちらを目指せばよいですか?

基本は発注元からの要請水準に合わせることになりますが、制度上の判断フローは「取引先の事業中断が自社(発注元)の事業継続に許容できない影響を与えるか」「機密情報の管理に重大な影響が生じ得るか」の2点です。いずれにも当たらない一般的な取引であれば★3が目安です。なお★3を取得していなくても★4に直接挑戦できる設計です。まずは★3の26項目で現在地を測ることをおすすめします。

取得にかかる費用は誰が負担するのですか?

評価や取得に係る具体的な費用水準は、今後公表される評価用ガイドや評価機関の情報を待つ必要があります。一方で、経済産業省・公正取引委員会は、セキュリティ対策の経費が間接経費として計上されること、発注元が★取得に伴う価格交渉に積極的に対応する必要があることを整理・公表しています。要請を受けた側は、対応コストを把握・記録し、価格協議とセットで話し合うことが想定されています。また、中小企業が安価に取得できるよう「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の新類型も創設予定です。

SECURITY ACTIONを宣言していれば十分ですか?

SECURITY ACTIONは制度上★1・★2に相当し、★3・★4取得の準備段階と位置づけられています。将来★3以上を要請される可能性がある取引をお持ちなら、宣言だけで止まらず、★3の26項目と自社の現状の突き合わせまで進めておくことをおすすめします。逆に、まだ何もしていない場合の最初の一歩としては、SECURITY ACTIONの宣言と自社点検が最適です。

制度はいつから始まりますか?

★3・★4は2026年度末頃の制度開始(申請受付の開始)を目指すと公表されています(2026年3月時点)。それに先立ち、評価の具体的な実装例をまとめた評価ガイド等が2026年秋頃を目途に公表される予定です。★5は2026年度以降に要求事項や評価の仕組みの検討が進められます。スケジュールは今後変わる可能性があるため、経済産業省・IPAの公表情報をご確認ください。

AUTHOR
真下 恭徳(ました やすのり)|株式会社キール 代表取締役

立教大学法学部卒。三井住友海上火災保険、オリックス生命保険を経て、AIG損害保険 横浜支店にて法人向けリスクコンサルティング(サイバー・D&O・知的財産等)に従事。2026年、神奈川県大和市に株式会社キールを設立。ISO 31000に基づくリスクコンサルティングと法人向け保険代理店事業を行う。損害保険大学課程コンサルティングコース修了、健康経営アドバイザー。キールはIPA「SECURITY ACTION」宣言企業、経済産業省「事業継続力強化計画」認定企業。

出典(一次資料)

  • 経済産業省・内閣官房国家サイバー統括室「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針」(2026年3月)
  • 経済産業省「『サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針』(SCS評価制度の構築方針)を公表しました」(2026年3月27日)
    https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260327001/20260327001.html
  • IPA「SECURITY ACTION セキュリティ対策自己宣言」 https://www.ipa.go.jp/security/security-action/
  • IPA「中小企業向けサイバーセキュリティ対策支援者リスト」 https://www.ipa.go.jp/security/sme/shien/list.html

本記事は2026年7月17日時点の公表情報に基づく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。SCS評価制度の詳細(要求事項・評価基準・費用・スケジュール等)は今後変更される可能性があります。最新情報は経済産業省・IPAの公表資料をご確認ください。

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