食中毒がいちばん多いのは、真夏ではありません
食中毒は夏の問題だと思われがちですが、月別の発生件数を見ると、9月から10月にかけてが年間で最も多い時期です。気温が下がっても、細菌が減るわけではありません。
そして令和7年の食中毒は1,172件・患者24,727人。患者数は令和5年の11,803人から、2年で倍以上に増えています(厚生労働省「食中毒統計調査」)。
HACCPに沿った衛生管理は、2021年6月からすべての食品等事業者に義務化されています。記録を続けているだけでは足りず、季節に応じて手順を見直すことが本来の趣旨です。9月は、その見直しに適した時期といえます。
「食中毒は夏場に気をつければいい」。そう考えている現場は少なくありません。
実際、梅雨から真夏にかけては注意が集まります。冷蔵庫の温度を確認し、生ものの扱いに気を配る。ところが8月を過ぎ、朝晩が涼しくなってくると、その緊張がゆるみます。
統計を見ると、危ないのはむしろそこからです。
01発生件数が最も多いのは、9月から10月です
厚生労働省の食中毒統計を月別に見ると、発生件数が最も多いのは10月、次いで3月と9月が並びます。真夏の7月・8月より、秋口の方が多いという結果です。
理由はいくつか考えられます。
- 気温はまだ高い──9月の日中は真夏並みの気温が続く日があります。細菌が増殖する条件は変わっていません。
- 警戒がゆるむ──「もう秋だから」という感覚が、確認の頻度を下げます。
- 体力が落ちている──夏の疲れが残る時期で、同じ量の菌でも発症しやすくなります。
- 屋外の食事が増える──祭礼、運動会、行楽。調理場以外での提供が増えます。
細菌が増えるのに必要なのは、栄養・水分・温度の3つです。9月はこの条件が揃ったままで、しかも人の警戒だけがゆるむ。件数が増えるのは、この差によるものと考えられます。
02患者数は、2年で倍以上に増えています
もう一つ、見ておきたい数字があります。
| 令和5年 | 1,021件患者 11,803人/死者 4人 |
|---|---|
| 令和6年 | 1,037件患者 14,229人/死者 3人 |
| 令和7年 | 1,172件患者 24,727人/死者 2人 |
出典:厚生労働省「食中毒統計調査」/令和7年の発生状況は2026年4月3日公表
件数は1,021件から1,172件へ、およそ15%の増加です。ところが患者数は11,803人から24,727人へ、2年で倍以上になっています。
つまり、1件あたりの規模が大きくなっているということです。1件で数十人、数百人が発症する事案が増えれば、この数字になります。
患者が1人か、100人かで、事業者の負担はまったく違います。営業停止の期間、報道の有無、賠償の規模。件数が横ばいでも、1件あたりの影響が大きくなっているなら、備えの考え方も変わります。
03秋に注意したい原因物質
季節によって、原因となる物質の傾向が変わります。秋口に多いのは、次のようなものです。
カンピロバクター
鶏肉や豚肉、その加工品に付着します。年間を通じて発生しますが、9月に発生のピークがあるとされます。加熱が不十分な鶏肉、レバーなどの内臓が主な原因です。
ウェルシュ菌
自然界に広く存在し、酸素を嫌う性質を持ちます。大量に作り置きしたカレーや煮物で、加熱後にゆっくり冷ましたものが原因になりやすい。仕出しや給食のように、まとめて調理する現場で注意が必要です。
腸炎ビブリオ
海産物に付着します。気温と海水温が高い時期に増えるため、9月もまだ警戒が必要です。生食用の魚介類の温度管理が要点になります。
アニサキス
寄生虫で、近年は届出件数が多い状態が続いています。加熱や冷凍で対応できますが、生食では目視での確認が中心になります。
04HACCPは、記録を続けることではありません
2021年6月から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。小規模な事業者は、業界団体の手引書に沿った「考え方を取り入れた衛生管理」で対応することとされています。
導入から数年が経ち、記録は日々つけているという事業者が多いと思います。ただ、記録をつけること自体が目的ではありません。
HACCPの考え方は、危害を洗い出し、重要な工程を決め、その工程を管理し、記録を残し、そして必要に応じて見直すところまでを含みます。最後の「見直す」が抜けると、形だけが残ります。
季節の変わり目は、見直しに適したタイミングです。夏の間に取っていた対応が、9月以降も必要なのか。逆に、緩めてはいけないものは何か。ここを一度確認するだけで、形骸化を防げます。
059月に確認しておきたいこと
大きな見直しでなくても構いません。次の点を確認するところから始められます。
- 冷蔵・冷凍庫の温度記録──外気温が下がると、庫内温度も安定します。ただ、確認の頻度まで下げていないか。
- 加熱の中心温度──「もう涼しいから」と、加熱の確認が省略されていないか。
- 作り置きの冷却──ウェルシュ菌への対応です。加熱後、どのくらいの時間で冷ましているか。
- 手洗いの徹底──夏に比べて意識が下がりやすい時期です。
- 記録の空白──直近1か月の記録に、抜けている日がないか。
- 屋外提供の手順──祭礼やイベントへの出店予定があるか。あるなら、店舗と同じ手順で足りるか。
屋外での提供は、条件が変わります
秋は地域の祭礼やイベントが増える時期です。飲食店が臨時に屋外出店する機会もあります。
このとき、店舗と同じ感覚で臨むと危険です。冷蔵設備が限られ、手洗いの場所が確保しにくく、調理から提供までの時間が読めない。店舗より条件が悪いのに、扱う量は多いという状況になりがちです。
臨時営業には保健所への届出が必要な場合があります。出店の予定があるなら、早めに管轄の保健所に確認しておくと安心です。
06それでも起きたときのこと
手順を整えても、可能性がゼロになるわけではありません。
食中毒が発生した場合、営業停止による売上の減少、被害を受けた方への賠償、原因調査や消毒の費用が生じます。1件あたりの患者数が増えている現状を踏まえると、規模によっては事業の継続に関わります。
こうした損害については、生産物賠償責任保険(PL保険)や、食中毒に対応する費用の補償といった手段があります。ただ、順序として先に来るのは、日々の手順を整えることの方です。
まとめ
- 食中毒の発生件数は、9月から10月が年間で最も多い時期です。真夏より多い。
- 令和7年は1,172件・患者24,727人。患者数は2年で倍以上になり、1件あたりの規模が拡大しています。
- 秋はカンピロバクター、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオ、アニサキスに注意。
- HACCPは記録を続けることではなく、季節に応じて見直すことまで含みます。9月はその機会です。
よくあるご質問
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【出典】厚生労働省「食中毒統計調査」/厚生労働省「令和7年食中毒発生状況」(2026年4月3日公表)/農林水産省「食中毒は年間を通して発生しています」
本記事は2026年9月11日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。衛生管理の具体的な運用や届出については、管轄の保健所にご確認ください。

