労災でいちばん多いのは、墜落でも挟まれでもなく「転倒」です
厚生労働省の令和7年の労働災害統計で、休業4日以上の死傷災害のうち最も多い事故の型は「転倒」で37,195人。全体の27.5%を占めています。死亡者数が過去最少になった一方で、転倒は前年より817人増えました。
背景には、働く人の高齢化があります。そして2026年4月1日から、高年齢労働者の労災防止措置が全事業者の努力義務になりました。すでに施行されている制度です。
努力義務違反そのものに罰則はありません。ただ、事故が起きたときに「何もしていなかった」ことが、民事上の責任を問われる場面で不利に働く可能性があります。
労働災害と聞いて思い浮かぶのは、高所からの墜落や、機械への挟まれかもしれません。実際、死亡災害では墜落・転落が最多です。
ただ、休業を伴う災害全体で見ると、様子が変わります。
01死傷災害の27.5%が「転倒」です
厚生労働省が2026年5月27日に公表した「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」によると、休業4日以上の死傷者数のうち、事故の型別で最も多いのは転倒でした(出典:厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」2026年5月27日)。
| 転倒 | 37,195人前年比 +817人(2.2%増) |
|---|---|
| 動作の反動・無理な動作(腰痛等) | 22,166人前年比 −52人(0.2%減) |
| 墜落・転落 | 20,864人前年比 +165人(0.8%増) |
全死傷災害に占める割合は、転倒が27.5%、腰痛等が16.4%。
転倒は、墜落・転落の約1.8倍です。そして、死亡者数が700人(前年比46人減)と過去最少になったなかで、転倒だけが増えています。
転倒は「軽い事故」と見なされがちですが、統計の対象は休業4日以上の災害です。骨折を伴えば、数か月の休業になることも珍しくありません。人手の限られた会社ほど、影響は大きくなります。
02増えている理由は、働く人の高齢化です
転倒が増え続けている背景には、労働力の高齢化があります。休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合は、令和6年に30.0%に達しました。過去20年でおよそ倍増しています。
加齢によって、筋力、視力、平衡感覚は少しずつ変化します。本人が自覚しているより早く進むこともあり、「ベテランだから大丈夫」という前提が通用しなくなる場面があります。
そして高年齢の被災者に多いのは、機械に挟まれるような事故よりも、つまずく、踏み外す、荷物を持ち上げるといった日常の動作によるものです。特別な作業ではなく、毎日繰り返している動きのなかで起きています。
032026年4月から、努力義務になっています
こうした状況を受けて、労働安全衛生法が改正されました。2026年4月1日から、高年齢労働者の心身の状況に応じた労働災害防止措置を講じることが、すべての事業者の努力義務となっています。
従来、厚生労働省は「エイジフレンドリーガイドライン」で自主的な取り組みを促してきましたが、それが法律上の努力義務として明記された形です。
この改正は2026年4月1日に施行済みです。これから始まる制度ではありません。業種や規模による例外はなく、全事業者が対象です。なお、法律上「高年齢労働者」の年齢基準は定められていません。
努力義務に罰則はありませんが
努力義務に違反したこと自体で、ただちに行政処分や罰則の対象になるわけではありません。
ただ、実際に事故が起きた場合を考えると、話が変わります。従業員やその家族から会社の責任を問われたとき、「法律で努力義務とされていたのに、何もしていなかった」という事実は、安全配慮義務を尽くしたかどうかの判断に影響しうると考えられます。
罰則がないことと、責任を問われないことは、別の話です。
04何から手をつけるか
大がかりな設備投資が必要なわけではありません。転倒災害の多くは、日常の環境に原因があります。
- 段差と傾斜──通路のわずかな段差、スロープの傾き。マーキングや解消で対応できます。
- 床の状態──水濡れ、油、粉じん。滑りやすい箇所を特定し、清掃の頻度や靴を見直します。
- 明るさ──足元の照度。加齢により、若い頃と同じ明るさでは見えにくくなります。
- 通路の整理──置かれたままの資材、延びたコード。つまずきの原因を減らします。
- 作業のペース──急がせる場面が転倒を招きます。時間の余裕そのものが対策になります。
いずれも、まず現場を歩いて確認するところから始まります。ヒヤリハットが起きている場所は、たいてい従業員が知っています。
業種によって、見るところが変わります
警備の現場であれば、夜間の巡回路の照度、雨天時の路面、長時間の立哨後の移動。
建設の現場であれば、資材の仮置き、仮設通路、雨上がりの足場。
製造や倉庫であれば、フォークリフトの通路と歩行者の動線、パレットの縁、床の油。
飲食であれば、厨房の水濡れ、床の油、狭い通路での擦れ違い。
同じ「転倒対策」でも、確認する場所は業種ごとに違います。一般的なチェックリストをそのまま使うより、自社の現場を歩いた方が、実際の原因に近づけます。
05それでも残るもの
環境を整えても、災害の可能性がゼロになるわけではありません。
従業員が長期の休業に入れば、休業補償だけでなく、人員の穴埋め、代替要員の確保という負担も生じます。労災保険の給付では足りない部分について、上乗せの備えを検討する会社もあります。
ただ、順序として先に来るのは環境の整備です。まず知り、避けられることを避け、減らせることを減らす。そのうえで、残る部分をどうするかを考えます。
まとめ
- 令和7年の死傷災害で最多の事故の型は転倒(37,195人、全体の27.5%)。前年より817人増えています。
- 背景は労働力の高齢化。60歳以上が死傷者の3割を占め、被災の多くは日常動作によるものです。
- 2026年4月1日から、高年齢労働者の労災防止措置は全事業者の努力義務です。すでに施行されています。
- 対策は、段差・床・明るさ・通路・作業ペースの確認から。まず現場を歩くことが出発点です。
よくあるご質問
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【出典】厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」(2026年5月27日公表)/厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」/改正労働安全衛生法(2026年4月1日施行)/厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」
本記事は2026年9月10日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。個別の実務判断については、労働基準監督署や社会保険労務士等にご確認ください。

