【ものづくり白書2026】海外展開・経済安全保障リスクへの対応

【ものづくり白書2026】海外展開・経済安全保障リスクへの対応

SUMMARY 記事のまとめ

海外に拠点を持つ、海外へ製品を売る、海外から代金を回収する――。海外と関わる製造業には、国内にはない固有のリスクがついてきます。本記事は解説シリーズ最終回(第8回)。海外拠点の操業、海外で売った製品の賠償、代金の回収、そして近年相談が増える「技術の流出・模倣品」まで、現場の言葉でやさしく整理します。「攻め」の海外展開を、確かな「守り」で支えましょう。

この記事の要点(3行)

① 海外展開には、海外拠点・海外での製品賠償・代金回収という、国内にない固有のリスクがある。
② 近年増えているのが「技術の流出・模倣品」。これは保険より先に、知財の守りを固めることが要。
③ まず自社でリスクを分析・低減し、残る損害は海外PL・海外資産・貿易保険で備える。

海外と関わると、新しいリスクがついてくる

POINT

白書は「経済安全保障」を製造業の経営リスクとして重視しています。海外展開は「攻め」の戦略である一方、国内取引にはない固有のリスクを伴います。

海外に出る、海外と取引する。それは成長の大きなチャンスですが、国内では考えなくてよかったリスクがついてきます。ものづくり白書2026も、不確実性を増す対外環境の中で経済安全保障を重要なテーマに挙げ、製造業がこれを経営リスクとして捉え、戦略的に向き合うことを求めています。

ここで、本シリーズ第2回「仕入れが止まるリスク(サプライチェーン)」との違いを整理しておきます。第2回が国内も含めた物流・調達・代金回収といった足元の実務リスクを扱ったのに対し、本記事(第8回)は海外に出ること・海外と関わることに固有の、戦略的なリスクに焦点を当てます。

海外展開ならではの、4つのリスク

POINT

海外拠点の操業停止、海外で売った製品の賠償(海外PL)、輸出代金の回収不能、そして為替・関税・地政学。海外展開には、国内にない4つの固有リスクがあります。

中小製造業が海外に展開するとき、国内取引にはなかった固有のリスクに直面します。代表的なのが次の4つです。

🏭海外拠点が止まる

現地の災害、政情不安、ストライキ、インフラ障害などで、海外の工場・拠点が止まったり、資産が損害を受けたりする。

⚠️海外で売った製品の賠償

海外で売った製品が現地で事故を起こし、賠償を求められる。特に米国は賠償額が高額になりやすい傾向があります。

💴代金が回収できない

海外取引先の倒産や、相手国の事情による送金停止などで、輸出した代金が回収できなくなる。

🌍為替・関税・地政学

為替の変動で採算が悪化する。関税で競争力が落ちる。紛争や経済制裁で取引が止まる。

これらは、自社の努力だけではどうにもならない外部の要因が多いリスクです。だからこそ、出る前のリスク分析と備えが効いてきます。

見落としがちな「技術の流出・模倣品」

POINT

海外展開では、自社の技術・ノウハウの流出や、模倣品・知的財産の侵害というリスクが高まります。白書も技術の海外流出を防ぐ取り組みに触れており、製造業からの相談も増えています。

海外展開のリスクのうち、近年とくに相談が増えているのが技術の流出・模倣品です。白書も経済安全保障の観点から、日本が強みを持つ技術について、海外流出を防ぐべき範囲を関係者で情報交換する取り組みに触れています。技術の流出は、国レベルでも重要課題と認識されているということです。

中小製造業にとって、技術流出・模倣品のリスクは、具体的にこんな形で現れます。

  • 🔧技術・ノウハウが漏れる:海外の生産委託先や合弁先に渡した技術・図面が、無断で使われる。辞めた技術者を通じて秘密が漏れる。
  • 📋模倣品・コピー品が出回る:自社製品が海外でマネされ、安いコピー品が市場に出回る。ブランドや売上が傷つく。
  • ⚖️知財をめぐる争いになる:自社の特許・デザインが現地で侵害される。逆に、自社製品が他社の権利を侵害したと現地で訴えられる。

この備えは、まず「守りを固める(減らす)」が中心です。海外に出る前に、自社の大事な技術・ノウハウを「営業秘密」としてきちんと管理し、現地で必要な特許・商標・デザイン(意匠)の権利を取っておく。契約書で「技術をどこまで使ってよいか」「秘密を守る義務」を明確にする。こうした事前の知財の備えが、流出やマネを防ぐいちばんの壁になります。ここは保険でカバーしきれない部分が大きいので、弁理士・弁護士などの専門家と組んだ体制づくりが欠かせません。そのうえで、知財をめぐる争いにかかる費用や賠償の一部は、関連する保険で軽くできる場合もあります。自社の技術と海外展開の実態に合わせて、知財の守りと保険を組み合わせて考えることが大切です。

進め方と、残るリスクへの備え

POINT

リスク管理は「情報を集める → 分析する → 対策する → 見直す」のくり返し。そのうえで、防ぎきれない損害は海外PL・海外資産・貿易保険(取引信用)で備えます。

白書によれば、経済安全保障のリスク分析を行う製造業の約7割が、自社の仕入れ・取引網(サプライチェーン)の観点から分析しており、見通す期間は2〜5年先が最も多くなっています。そして白書は、こうしたリスク管理を「情報を集める → 分析する → 対策を打つ → 結果を見て見直す」のくり返しで進めることを示しています。

こうした自社の取り組み(減らす)を進めたうえで、それでも残るリスクには保険で「移す」備えをします。代表的な3つを整理しました。

残るリスクどんなこと?備えの選択肢(保険で移す)
海外拠点
の損害
海外の工場・拠点が、災害や操業停止で資産・利益を失う海外資産・海外企業財産包括保険/海外拠点の損害に備える
海外での
製品賠償
海外で売った製品の事故で、賠償を求められる海外PL保険(生産物賠償)/海外での製品賠償に備える
代金の
回収不能
海外取引先の倒産・送金停止で、代金が回収できない貿易保険・取引信用保険/回収できない輸出代金に備える

海外展開は、きちんとリスクを分析して備えれば、過度に恐れる必要はありません。「攻め」の海外戦略を、しっかりした「守り」で支える。それが、持続的な成長への道です。

まとめ:海外に出るリスク、出ないリスク

ものづくり白書2026を入り口に、海外展開・経済安全保障のリスクと備えを整理しました。本シリーズの最終回として、要点を振り返ります。

  • 白書は経済安全保障を製造業の重要な経営リスクと位置づけている
  • 海外展開には海外拠点・海外での製品賠償・代金回収・為替関税の固有リスクがある
  • 近年相談が増える技術の流出・模倣品は、知財の守り(減らす)が備えの中心
  • リスク管理は情報を集める→分析→対策→見直すのくり返しで進める
  • 残るリスクは海外資産・海外PL・貿易保険(保険で移す)で備える

株式会社キールは、ISO 31000 基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。横浜港・川崎港を擁する神奈川エリアの製造業の皆さまに、海外展開に伴うリスクの見える化から、海外PL・海外資産・貿易保険を含む最適なご提案まで、初回無料で承っています。

「海外展開を考えているが、リスクが整理できていない」「技術の流出や模倣品が心配」「海外で売った製品の賠償が不安」。そんなご相談を、お気軽にお寄せください。本シリーズはこれで最終回となりますが、御社の挑戦を「向かい風」から守る伴走者として、いつでもご相談をお待ちしています。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 海外に製品を輸出していますが、国内向けのPL保険だけで備えは足りていますか?

国内向けのPL保険(生産物賠償責任保険)では、海外で起きた製品事故の賠償は対象外になっているのが一般的です。海外で売られ・使われる製品には、別に海外PL保険(輸出製品に対応した生産物賠償責任保険)が必要です。特に米国は、製造物責任の賠償額が高額になりやすく、訴訟のリスクも高い傾向があります。直接輸出していなくても、自社製品が取引先を通じて海外に渡っている場合は対象になり得ます。自社製品がどの国に、どんな形で流通しているかを確認し、その実態に合った補償を設計することが大切です。輸出先の国や製品の種類によって必要な補償が変わるため、専門家への相談をおすすめします。

Q2. 海外の生産委託先に技術が流出しないか不安です。保険で備えられますか?

技術流出のリスクは、保険で対応できる範囲が限られていて、まずは事前の「守りを固める」ことが決定的に重要です。具体的には、海外に出る前に、自社の大事な技術・ノウハウを「営業秘密」として社内できちんと管理すること、現地で必要な特許・商標・デザイン(意匠)などの権利を取っておくこと、そして委託先との契約書で「技術をどこまで使ってよいか」「秘密を守る義務」「違反したときの対応」を明確に決めることです。こうした知財の備えは、弁理士や弁護士といった専門家と組んで進めるのが効果的です。そのうえで、知財をめぐる争いにかかる一部の費用などは、関連する保険で軽くできる場合もあります。技術流出は、起きた後に取り戻すのが難しいため、「出す前に守りを固める」ことが何より大切です。当社では、こうした知財リスクも含めた総合的なリスクの棚卸しをお手伝いしています。

Q3. 海外取引先からの代金回収が不安です。どんな備えがありますか?

海外取引の代金回収リスクには、大きく2つのアプローチがあります。まず「減らす」として、取引先の信用調査(与信管理)を行い、取引条件(前払い・信用状の活用など)を工夫することが基本です。そのうえで、自社ではどうにもならないリスク――取引先の倒産や、相手国の戦争・為替制限・送金停止といった非常事態による回収不能――には、貿易保険や取引信用保険という「移す」選択肢があります。貿易保険は、特に相手国の政治的・経済的な事情による回収不能(非常危険)にも対応できる点が特徴です。輸出の規模や相手国、取引先の信用状況に応じて、与信管理と保険を組み合わせることで、安心して海外取引を広げられます。自社の取引実態に合った設計をご提案します。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キール(KEEL Co.,LTD)を設立。専門的なリスクコンサルティングを通じて、中小企業の経営の推進力となるリスク管理を提供している。