残業は減ったのに、労災請求は増えている。過労死等防止対策白書2026を中小企業向けに読む
週60時間以上働く人は、雇用者の4.2%(253万人)まで減りました。一方で、脳・心臓疾患の労災請求は1,254件と、前年度より224件増えています。
白書は、増えた主な原因を50歳以上の請求の増加と分析しています。精神障害の労災請求も4,958件と大きく増え、伸びが大きいのは上司とのトラブルなどの対人関係です。
会社がまずすることは、50歳以上の健診結果を受診につなぐこと、勤務と勤務の間の休息を確保すること、相談の窓口を本当に使える形にすることです。残業時間の管理だけでは、従業員を守りきれなくなっています。
2026年10月9日、政府は「令和8年版 過労死等防止対策白書」を閣議決定しました。過労死等防止対策推進法にもとづき、毎年国会に報告される白書で、今回で11回目です。
今回の白書は、過労死等の労災請求が増えている理由を分析し、建設業・自動車運転・IT産業で働く人へのアンケート結果をまとめています。この記事では、中小企業の経営者に関わりの深い数字を選んで、会社がまずすることを整理します。
01長時間労働は、減り続けている
まず、よい知らせからです。長く働く人の割合は、長い目で見て減り続けています。
- 週60時間以上働く人:雇用者の4.2%(253万人)。前年より0.4ポイント(16万人)減った
- 週40時間以上働く人のうち、週60時間以上の人:7.7%。前年より0.3ポイント減った(国の目標は令和10年までに5%以下)
- 年次有給休暇の取得率:66.9%。10年続けて上がっている(国の目標は令和10年までに70%以上)
出典:厚生労働省「令和8年版 過労死等防止対策白書」第1章(総務省「労働力調査」、厚生労働省「就労条件総合調査」による)
02それでも、脳・心臓疾患の労災請求は増えている
働く時間は減っているのに、仕事が原因で脳や心臓の病気になったとする労災請求は、令和7年度に1,254件と、前年度より224件増えました。そのうち303件は亡くなった方の事案です。労災と認められた件数(支給決定)は217件で、前年度より24件減っています。
白書は、請求が増えた主な原因を、脳・心臓疾患にかかりやすい50歳以上の請求が増えたことだと分析しています。亡くなった方の事案を除いた請求を年齢別に見ると、「50〜59歳」が383件でいちばん多く、次いで「60歳以上」が347件です。雇用者100万人あたりで見ると、「60歳以上」が32.6件、「50〜59歳」が28.5件で、この2つの年齢層が上位です。
業種別では、「運輸業、郵便業」が175件、「建設業」が115件です。雇用者100万人あたりで見ると、運輸業・郵便業が54.5件、建設業が34.5件で、この2つの業種が上位です(いずれも亡くなった方の事案を除いた請求)。
脳・心臓疾患の労災は、残業時間だけで決まるわけではありません。令和7年度には、発症前2〜6か月の残業が月平均60〜80時間の事案でも、48件が労災と認められています。白書の注記によると、こうした事案には、休日のない連続勤務、勤務と勤務の間の休息が短い勤務、深夜・交替制の勤務、出張や移動の多い業務といった、時間以外の負担をあわせて判断したものが含まれます。
03精神障害は、「人間関係」の負担が増えている
仕事が原因で精神障害になったとする労災請求は、令和7年度に4,958件と、前年度より1,178件増えました。労災と認められた件数も1,082件と、前年度より26件増えています。
白書は、労災の決定件数を出来事の種類ごとに見ると、「対人関係」の伸びがいちばん大きく、中でも「上司とのトラブル」が大きく伸びているとしています。労働局に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」と「パワーハラスメント」の相談も増えています。
白書は、対人関係が労災請求の増加の原因かどうかには、まだ分析の余地があるとしています。ただ、上司とのトラブルなどの人間関係で、心の不調を抱えている働き手が多いことは明らかだと述べています。
04建設業と運転の仕事は、心の不調のサインが多い
今回の白書では、建設業・自動車運転・IT産業で働く人へのアンケート結果も報告されています。心の状態をはかる質問票(K6)で、「うつ・不安障害の疑い」と「重度のうつ・不安障害の疑い」にあたる人の割合は、次のとおりでした。
- 建設業:全体で31.9%。職種別では現場監督が46.3%でいちばん高く、年齢別では20〜29歳が54.7%でいちばん高い
- 自動車運転の仕事:全体で30.7%。業態別ではバスが42.5%でいちばん高い
- IT産業:全体で24.9%
出典:厚生労働省「令和8年版 過労死等防止対策白書」第1章(労働安全衛生総合研究所「令和7年度 過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究」による)
建設業のアンケートでは、勤め先のハラスメント対策について「特に取り組んでいない」と答えた人が55.9%、「わからない」が20.7%でした。会社が対策をしていても、働く人に伝わっていなければ、相談にはつながりません。
05小さな会社ほど、心の健康づくりが手薄になっている
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は63.0%です。50人以上の事業所ではいずれも9割を超えますが、10〜29人の事業所では54.6%にとどまります。
50人未満の事業場でストレスチェックを実施している割合は32.5%です。50人未満の事業場のストレスチェックは、法律の改正で2028年(令和10年)4月1日から義務になります。国は2026年2月に、小規模事業場向けの実施マニュアルを公表しています。
終業から次の始業までに一定の休息時間をとる「勤務間インターバル制度」を導入している企業は6.9%で、制度を知らない企業は15.7%でした(いずれも労働者30人以上の企業)。
06会社がまずすること
白書の数字から見えるのは、残業時間を減らすだけでは足りないということです。会社がまずすることを4つにまとめます。
脳・心臓疾患の請求を押し上げているのは50歳以上です。健康診断の結果で血圧や血糖などに所見があった人には、医療機関への受診をすすめ、受診したかどうかまで確かめます。
- 所見のあった人の一覧をつくり、受診をすすめた日と受診した日を記録する
- 産業医や地域産業保健センターに、就業上の配慮が必要か相談する
労災の判断では、休日のない連続勤務や、勤務と勤務の間の休息の短さも見られます。月の残業時間に加えて、休息がとれているかを確かめます。
- 終業から次の始業まで、何時間あいているかを確かめる(勤務間インターバル)
- 休日のない連続勤務や、深夜・早朝の勤務が続いている人がいないか確かめる
- 出張や移動の多い人は、移動時間も含めて負担を見る
50人未満の事業場も、2028年4月からストレスチェックが義務になります。国のマニュアルを参考に、今のうちから始めておくと、義務化のときに慌てずにすみます。
精神障害で伸びているのは、上司とのトラブルなどの人間関係です。相談の窓口を決めるだけでなく、「この程度で相談していいのか」と迷わないよう、窓口があることと、相談しても不利益にならないことを何度も伝えます。
そのうえで、従業員が仕事で病気になったり亡くなったりしたときに会社が負う責任に、どう備えるかも考えておきます。まず事故や病気を防ぐ取り組みが基本で、保険などの備えは、それでも残るリスクへの手段の一つです。
よくあるご質問
健診後のフォローの仕組み、勤務と休息の点検、ストレスチェックや相談窓口の整え方など、自社の働き方に合わせた備えを一緒に考えます。お気軽にご相談ください。
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【出典】厚生労働省「令和8年版 過労死等防止対策白書」(令和8年10月9日閣議決定)/過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)
本記事は2026年10月時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。個別の実務判断については、社会保険労務士・医師等の専門家にご確認ください。

