カスハラ対策は、施行後が本番。現場で回る仕組みに変える5つの点検
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になりました。ただ、規程を作っただけでは従業員は守れません。施行後に大切なのは、決めたことが現場で本当に使われているかです。
厚生労働省の指針が「講じなければならない」としている措置は、5つのまとまりに整理できます。このうち「特に悪質なケースへの対処方針」と「相談者のプライバシー保護」は、見落とされやすい部分です。
指針は、運用状況を把握して見直すことも重要だとしています。施行から3か月を目安に、従業員の声を聞いて点検することをおすすめします。
9月には、10月1日に変わる3つの制度と、どこからがカスハラかの線引きをお伝えしました。施行から2週間が過ぎた今回は、その先の話です。
方針を書き、相談窓口を決めた。それでも、現場の従業員が「この程度で相談していいのか」と迷っていれば、仕組みは動いていません。施行後の数か月は、作った仕組みを点検し、現場で回る形に直していく期間です。
01指針が求める5つの措置を、もう一度確認する
厚生労働省の指針は、事業主が雇用管理上「講じなければならない」措置を、次の5つのまとまりで示しています。
- 方針の明確化と周知・啓発:カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を示す。あわせて、カスハラが起きたときの対処の内容を定めて周知する
- 相談に応じる体制の整備:相談窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする
- 事後の迅速かつ適切な対応:事実関係の確認、被害を受けた労働者への配慮、再発防止
- 抑止のための措置:過度な要求を繰り返すなど特に悪質なものへの対処方針をあらかじめ定めて周知し、その対処ができる体制を整える
- あわせて講じる措置:相談者等のプライバシーの保護と、相談したことなどを理由とする不利益な取扱いをしない旨の周知
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
4つ目の「抑止のための措置」は、パワーハラスメント防止措置にはない、カスハラ対策ならではの項目です。悪質なケースにどう対処するかを、起きる前に決めておくことが求められています。
02施行後に点検したい5つのこと
5つの措置それぞれについて、「書いてあるか」ではなく「現場で使われているか」を確かめます。
指針は、対処の内容の例として、次のようなものを挙げています。自社の業務に合わせて、現場の言葉で決めておくことが大切です。
- すぐに管理監督者等に報告し、その場の対応の指示を仰ぐ
- できる限り一人で対応させない。必要に応じて管理監督者等が代わって対応する
- やり取りを録音・録画する(個人情報の保護に関する法律等を守る)
- 十分に説明しても要求が繰り返される場合は、一定の時間で退店を求めたり、電話を切ったりする
- 暴行・傷害・脅迫など犯罪にあたりうる言動は、警察に通報する
指針は、その場で報告を受けた上司がすぐに対応しなければならない場合もあることを踏まえて、対処の内容を決めるよう求めています。上司が不在の時間帯に誰が判断するかまで決まっているかを確認しましょう。
指針は、カスハラが実際に起きている場合だけでなく、起きるおそれがある場合や、カスハラにあたるか微妙な場合も、広く相談に対応するよう求めています。被害を受けた人が萎縮して相談をためらうこともある、とも指摘しています。施行後、相談がゼロなら「問題がない」とは限りません。「迷ったら相談してよい」と、改めて伝えましょう。窓口の担当者には、対応の留意点をまとめたマニュアルや研修を用意しておくと安心です。
事実関係の確認(本人の話、周囲の従業員の話、録音・録画など)→ 被害を受けた従業員への配慮(担当の交代、複数人での対応、メンタルヘルスの相談)→ 再発防止、という流れです。指針は、カスハラの事実が確認できなかった場合でも、再発防止の措置を講じることとしています。また、発生の原因や背景に、自社の商品・サービス・接客の問題や、顧客とのコミュニケーションの不足があった場合は、その改善を図ることも求めています。
見落としやすいのがここです。指針は、対処の例として、警察への通報、警告文の発出、法令の範囲内で商品の販売やサービスの提供をしないこと、店舗や施設への出入りの禁止、仮処分命令の申立てを挙げています。業種や業法によって取れる対応は違うため、自社でどこまでできるかを決め、関係部門や顧問の専門家と連携できる体制にしておきます。
相談した人の情報を守ること、相談したことや事実確認に協力したことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをしないこと。この2つを決めて、従業員に周知することも義務です。「相談しても大丈夫」と思えなければ、窓口は使われません。
033か月後に、運用を見直す
指針は、措置を講じる際に、必要に応じて労働者や労働組合等の参画を得ながら、アンケート調査や意見交換などで運用状況を的確に把握し、必要な見直しを検討することが重要だとしています。その方法として、衛生委員会の活用も挙げられています。
たとえば年明けを目安に、次のような点を従業員に聞いてみることをおすすめします。
- 相談窓口がどこか、知っているか
- 困った場面で、決めた対処(報告・交代・打ち切り)を使えたか
- 相談をためらったことはあるか。その理由は何か
- 自社の商品・サービス・案内のしかたに、トラブルのもとになっている点はないか
04自社が「する側」にならないために
カスハラは、受ける側だけの問題ではありません。取引先に対して、自社の従業員がカスハラにあたる言動をしてしまうこともあります。指針は、方針を示す際に、他社の労働者に対してカスハラを行ってはならない旨もあわせて示すことが望ましいとしています。
また、自社の従業員の言動について、他社から事実関係の確認などの協力を求められた場合は、応じるよう努めなければならないとされています。元請けとして協力会社に、発注者として取引先に接する場面が多い会社ほど、社内に伝えておきたい点です。
まとめ
- 措置の義務は2026年10月1日から。大切なのは、決めたことが現場で使われているか
- 指針の措置は5つのまとまり。悪質なケースへの対処方針とプライバシーの保護は見落としやすい
- 相談ゼロは「問題なし」とは限らない。微妙な相談も受けると改めて伝える
- 3か月を目安に、従業員の声を聞いて運用を見直す
- 自社の従業員が取引先に対してする側にならない方針も示す
よくあるご質問
対処の内容の決め方、相談窓口の運用、悪質なケースへの方針づくりなど、自社の現場に合わせた整え方を一緒に考えます。お気軽にご相談ください。
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【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)/改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)
本記事は2026年10月時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。個別の実務判断については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。

