SUMMARY 記事のまとめ
外航貨物保険の補償範囲は、世界標準である協会貨物約款「ICC(A)・(B)・(C)」の3段階で決まります。外航貨物シリーズ第3回の本記事では、オールリスク型のICC(A)と、補償する危険を限定列挙するICC(B)・(C)の違いを整理し、盗難・水濡れ・破損・海賊といった具体的な事故例ごとに「どの条件なら備えられるか」を可視化します。そのうえで、貨物の性質とリスクの仕分けから3条件を選ぶ考え方を、中小企業の実務目線で解説します。
結論:補償範囲は「3段階」で決まる。広い順にA・B・C
POINT
外航貨物保険の補償の広さは、ICC(A)・(B)・(C)という3つの標準約款で段階的に定められています。ICC(A)が最も広く(オールリスク型)、(B)・(C)の順に狭まります。重要なのは「広ければよい」ではなく、自社の貨物が直面するリスクに過不足なく対応した条件を選ぶことです。
最初に結論をお伝えします。外航貨物保険で「どこまでの事故に備えられるか」は、ICC(A)・(B)・(C)という3段階の補償条件のどれを選ぶかでほぼ決まります。ICC(A)は原則すべての偶発的な損害に備えるオールリスク型、ICC(C)は主要な海難に限定した最小補償、ICC(B)はその中間です。
前回(外航貨物 Vol.02)で、取引条件(インコタームズ)によって「自社がどの区間の危険を負うか」が決まることを整理しました。本記事はその次の段階、つまり「負うと決まった危険に、どの範囲の補償で備えるか」という補償条件の話です。リスクマネジメントの観点では、リスクの移転(保険など)を実行する際に、移転する範囲を具体的に設計する工程にあたります。
ICC(協会貨物約款)とは何か:外航貨物保険の世界標準
POINT
ICCは「Institute Cargo Clauses(協会貨物約款)」の略で、ロンドンの保険市場で策定された外航貨物保険の世界標準約款です。日本を含む世界中の貿易取引で、補償範囲を示す共通言語として用いられています。
ICCとは「Institute Cargo Clauses」、日本語で協会貨物約款と呼ばれる、外航貨物海上保険の標準的な約款です。ロンドン保険市場で発展し、現在はロイズ市場協会(LMA)と国際保険引受協会(IUA)によって維持されています。現行版は2009年1月1日改定版で、世界中の外航貨物保険でこの約款をベースに補償範囲が組み立てられています。
このICCには、補償範囲の広さに応じてA・B・Cの3種類が用意されています。なお、かつて使われていた旧約款(オールリスク/WA/FPA)に概ね対応する位置づけですが、現行実務ではA・B・Cの体系が標準です。次章で、その3条件の違いを具体的に見ていきましょう。
ICC(A)・(B)・(C)の違い:補償範囲の3段階
POINT
最大の違いは「考え方」にあります。ICC(A)は『免責に挙げたもの以外はすべて備える』包括型。ICC(B)・(C)は『挙げた危険だけに備える』列挙型です。列挙型では、リストにない事故は補償の対象外になります。
3条件の根本的な違いは、補償の「立て付け」にあります。ICC(A)は、約款で除外(免責)として列挙された事項以外の、あらゆる偶発的な滅失・損傷に備える包括責任型(オールリスク型)です。一方、ICC(B)とICC(C)は、約款に列挙された特定の危険による損害だけに備える列挙責任型で、リストにない原因の事故は対象になりません。
下表は、代表的な危険ごとに3条件の対応を整理したものです(◯=備えられる、△=条件付き、×=対象外)。実際の適用は約款の正文と個別契約によりますので、考え方の全体像としてご覧ください。
| 主な危険・事故の原因 | ICC(C) 最小 |
ICC(B) 中間 |
ICC(A) 最広 |
|---|---|---|---|
| 火災・爆発/座礁・沈没・転覆/衝突 | ◯ | ◯ | ◯ |
| 投荷(jettison)・共同海損犠牲 | ◯ | ◯ | ◯ |
| 地震・噴火・落雷 | × | ◯ | ◯ |
| 波ざらい(甲板から海中へ) | × | ◯ | ◯ |
| 海水・河川水の船倉・コンテナへの浸入 | × | ◯ | ◯ |
| 雨・淡水濡れ/結露によるサビ・カビ | × | × | ◯ |
| 盗難・抜き荷・不着 | × | × | ◯ |
| 荷役中の破損・へこみ(一般的な取扱い) | × | △ | ◯ |
| 海賊行為(piracy) | × | × | ◯ |
| 戦争危険/ストライキ危険 | × | × | × |
表で特に注目していただきたいのが、下の3行です。盗難・水濡れ・破損といった、実は発生頻度の高い損害は、ICC(A)でしか備えられません。ICC(B)・(C)はあくまで大きな海難を中心とした列挙型のため、これらは対象外になります。また、海賊行為はICC(A)では備えられますが、戦争危険・ストライキ危険はA・B・Cいずれも対象外で、別途「戦争約款」「ストライキ約款」での手当てが必要になります(この点は本シリーズの後続回で詳しく扱います)。
具体的な事故例で見る「A・B・Cの分かれ目」
POINT
同じ「貨物が損傷した」事故でも、原因によって備えられる条件が変わります。中小企業の貿易で実際に起こりやすい事故を、条件ごとの分かれ目とともに見てみましょう。
高温多湿地域の通過で内部結露が発生し、精密部品がサビた——この水濡れ系の損害はICC(A)でのみ備えられます。B・Cは対象外です。
治安の悪い港でコンテナのシールが切られ中身が抜き取られた——盗難・抜き荷もICC(A)のみ。高価な人気商品ほど注意が要ります。
クレーン作業中の衝撃で製品が破損——一般的な取扱いによる破損はICC(A)で備えられ、B・Cでは原則対象外です。
しけで海水が船倉へ入り貨物が濡れた——海水の浸入はICC(B)以上で備えられます。ICC(C)では対象外です。
本船の座礁や衝突による損害——こうした主要な海難は、最小補償のICC(C)でも備えられる中核的な危険です。
紛争地域周辺での海賊被害——海賊行為はICC(A)で備えられますが、テロや戦争に起因するものは戦争約款の領域です。
このように、「貨物が壊れた・なくなった」という結果が同じでも、その原因が約款の列挙危険に当たるかどうかで、備えられるかが分かれます。自社の貨物がどの事故に遭いやすいかを見極めることが、条件選びの出発点になります。
3条件の選び方:貨物の性質とリスクの仕分けから考える
POINT
条件選びは「とにかく広いA」でも「安いC」でもなく、自社の貨物特性・輸送経路・取引条件を踏まえたリスクの仕分けで決めます。受容できる小さなリスクと、移転すべき大きなリスクを切り分けるのが本質です。
どの条件を選ぶべきかは、貨物や取引の実態によって変わります。判断の材料となる主な観点を整理します。
壊れやすい・濡れやすい・盗まれやすい貨物であれば、列挙型のB・Cでは肝心の損害に備えられず、結果として大きな自己負担が残るおそれがあります。逆に、堅牢で水濡れにも強く、主要な海難以外のリスクが小さい貨物であれば、より限定的な条件が合理的な場合もあります。「貨物の弱点」と「約款の補償範囲」を突き合わせることが、過不足のない選択につながります。
インコタームズとの関係:「相手手配の保険」に潜む落とし穴
POINT
CIF条件などで相手が保険を手配してくれる場合、その水準が最小補償のICC(C)相当にとどまっているケースがあります。「保険付きだから安心」と考える前に、補償の中身を約款レベルで確認することが不可欠です。
前回扱ったインコタームズと、本記事の補償条件は密接に関係します。例えばCIF条件で海外の売主が保険を手配して提供してくれる場合、確かに保険は付いています。しかし、その補償水準が最小限のICC(C)相当にとどまっていることが珍しくありません。これは、CIFで売主に求められる保険の最低水準が限定的に定められていることに由来します。
この場合、前章で見たとおり、盗難・水濡れ・破損といった発生頻度の高い損害は対象外です。「保険付きの取引だから安心」と考えていたところ、いざ事故が起きると補償の空白に直面する——これが、相手手配の保険に潜む典型的な落とし穴です。リスクの移転(保険など)を相手任せにせず、提供される保険証券の補償条件を自社の視点で確認し、不足があれば自社で追加の備えを検討することが、堅実なリスク管理の要点になります。
まとめ:補償範囲は「貨物の弱点」に合わせて設計する
本記事では、外航貨物シリーズ第3回として、補償範囲を決める協会貨物約款ICC(A)・(B)・(C)の違いと選び方を整理してきました。要点を振り返ります。
- 外航貨物保険の補償範囲は協会貨物約款ICC(A)・(B)・(C)の3段階で決まり、広い順にA・B・Cである
- ICC(A)は免責以外すべてに備える包括型、ICC(B)・(C)は列挙した危険だけの列挙型
- 盗難・水濡れ・破損といった発生頻度の高い損害はICC(A)でのみ備えられる
- 海賊はICC(A)で備えられるが、戦争・ストライキ危険はA・B・C共通で対象外(別途約款)
- 選び方の本質は「貨物の弱点」と「約款の補償範囲」を突き合わせ、リスクを仕分けること
株式会社キール(KEEL Co.,LTD)は、「向かい風を、推進力へ」をフィロソフィーに掲げる、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。ISO31000を軸としたリスクコンサルティングの観点から、御社の貨物特性と輸送経路に潜むリスクを洗い出し、補償範囲の過不足を点検したうえで、リスクの移転(保険など)を含む全体設計をご支援しています。「相手手配の保険で十分か」「自社の貨物にどの条件が合うのか」といったご相談を、一社ごとに丁寧にお受けしています。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. ICC(A)に加入すれば、輸送中のあらゆる損害に備えられるのですか?
「ほぼすべて」ですが、「あらゆる」ではありません。ICC(A)は包括責任型(オールリスク型)のため、約款で除外(免責)として列挙された事項以外の偶発的な損害に幅広く備えられます。しかし、いくつかの重要な免責があります。具体的には、被保険者の故意の違法行為による損害、通常の漏損や自然消耗・目減り、梱包や荷造りの不完全に起因する損害、貨物そのものが持つ固有の瑕疵や性質による損害(生鮮品が自然に傷むなど)、遅延を原因とする損害、そして戦争危険・ストライキ危険は、ICC(A)でも対象外です。特に戦争・ストライキは別途の約款(戦争約款・ストライキ約款)での手当てが前提となります。なお、海賊行為についてはICC(A)では備えられる点が、B・Cとの大きな違いの一つです。「Aだから無条件に全部安心」ではなく、自社の貨物にとって重要な損害が免責に当たらないかを確認することが大切です。
Q2. 海外の取引先がICC(C)で保険を手配してくれています。これで十分でしょうか?
貨物の性質によっては、不十分なおそれがあります。ICC(C)は最小補償の列挙責任型で、火災・爆発、座礁・沈没・衝突、投荷、共同海損犠牲といった主要な海難に備える一方、盗難・抜き荷、雨や淡水による濡れ、結露によるサビ・カビ、一般的な取扱いによる破損、さらには海水の浸入や波ざらいまで対象外です。つまり、自社の貨物が「水濡れに弱い」「壊れやすい」「盗難の標的になりやすい」といった特性を持つ場合、最も起こりやすい損害が補償の空白になっている可能性があります。CIF条件などで相手が保険を手配してくれているケースでは、その水準がICC(C)相当にとどまっていることがあるため、まずは提供される保険証券の補償条件を確認してください。不足がある場合は、自社側でより広い条件の備えを追加で検討する、あるいは取引条件そのものを見直すといった対応が考えられます。「保険が付いているか」だけでなく「どの範囲まで備えられているか」を見ることが重要です。
Q3. ICCの「A・B・C」と、昔の「オールリスク・WA・FPA」は何が違うのですか?
大まかには対応関係にありますが、現行の実務ではA・B・Cの体系が標準です。かつて広く使われた旧約款では、補償範囲の広い順に「オールリスク(A/R)」「分損担保(WA)」「単独海損不担保(FPA)」という区分が用いられていました。これらは現在のICC(A)・(B)・(C)に概ね対応する位置づけですが、約款の改定により、補償の対象範囲や免責の規定、用語の定義などが見直されています。協会貨物約款は時代に合わせて改定されており、現行版は2009年改定版です。中小企業の実務上で大切なのは、自社が手配している(または相手から提供されている)保険が、現行の約款に基づくどの条件なのかを正確に把握することです。古い区分の感覚のまま「うちはWAだから大丈夫」と考えていると、現行約款での実際の補償範囲との間に認識のズレが生じるおそれがあります。保険証券に記載された約款の種類・版を確認することをおすすめします。(出典:ロイズ市場協会(LMA)/国際保険引受協会(IUA)「Institute Cargo Clauses」)
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