健康起因事故とは?社用車を持つ企業の運転者健康管理の基本

運転者の体調も事故リスク|健康起因事故と、社用車を持つ企業の健康管理を解説する株式会社キールのコラム
SUMMARY
  • 運転者の急な体調変化(心臓や脳の疾患など)が原因で運転を続けられなくなる「健康起因事故」が、近年問題になっています。国土交通省への報告件数は、令和3年以降、増加傾向にあります(出典:国土交通省)。
  • 報告制度の対象は事業用自動車(バス・タクシー・トラック)ですが、運転者の体調が事故につながるリスクは、社用車を使うすべての企業に共通します。とくに見えにくいのが、睡眠時無呼吸症候群や視野の障害など、本人も気づきにくい不調です。
  • 健康起因事故の背景には、心臓・脳・大血管の疾患や、生活習慣病、睡眠の問題が関わるとされています。日常の健康管理が、そのまま事故の予防につながります。
  • 主役は、運転者の健康を会社として支える仕組み(リスクの低減)です。健康診断の確実な受診とフォロー、業務前の体調確認を習慣に。尽くしても残るリスクには移転(保険など)も組み合わせます。

運転者の体調不良は、なぜ会社のリスクなのか?健康起因事故と、社用車を持つ企業の健康管理

安全運転というと、スピードや車間距離、わき見運転といった「運転のしかた」を思い浮かべます。けれど、もう一つ見落とせない要素があります。運転する人の「体調」です。

結論から申し上げると、運転者の急な体調変化は、本人の意思や技量とは関係なく、重大な事故につながることがあります。心臓や脳の疾患などで運転を続けられなくなる「健康起因事故」は、国土交通省への報告件数が令和3年以降、増加傾向にあるとされています。報告制度の対象は事業用自動車(バス・タクシー・トラック)ですが、社用車・営業車を使うすべての企業にとって、人ごとではないテーマです。

出典:国土交通省「事業用自動車における健康起因事故対策について」等。報告制度の対象は事業用自動車であり、自家用の社用車に同じ報告義務はありませんが、運転者の体調に起因するリスクは共通します。

本コラムは、不安を煽るためのものではありません。「向かい風を、推進力へ」——働く人の健康を支えることが、結果として安全な運転を支えるという視点での、情報提供です。

課題の深掘りと、見落としがちなリスクの可視化

なぜ「体調」が、会社のリスクになるのか。健康起因事故の特徴を整理します。

① 本人の意思や技量では、防ぎきれないことがある

健康起因事故は、運転中に心臓や脳の疾患などが突然起こり、運転を続けられなくなることで生じます。どれだけ運転がていねいでも、体に異変が起きれば、ハンドル操作も判断もできなくなります。だからこそ、「運転のしかた」とは別に、「体調そのもの」への備えが必要になります。国土交通省の分析では、健康起因事故の背景には心臓・脳・大血管の疾患が大きく関わり、亡くなった運転者では心臓疾患の割合が高いとされています。

② 気づきにくい不調が、引き金になりうる

やっかいなのは、本人も自覚しにくい不調です。睡眠時無呼吸症候群(睡眠中に呼吸が浅くなり、日中に強い眠気が出ることがある状態)や、視野が少しずつ欠けていく目の病気などは、通常の健康診断だけでは見つかりにくいことがあります。「自分は元気だ」という感覚が、必ずしも安全を意味しない——ここに難しさがあります。

③ 報告義務がなくても、リスクは同じ

健康起因事故の報告制度は、事業用自動車(バス・タクシー・トラック)が対象です。白ナンバーの社用車には、同じ報告義務はありません。ただ、義務がないことと、リスクがないことは別です。社用車・営業車で日々移動する中小企業ほど、運転者の健康を支える仕組みが、そのまま事故の予防につながります。

注意したい体調・サイン(気になるときは医療機関へ)
  • 日中の強い眠気、いびきの指摘(睡眠の問題の可能性)
  • 胸の痛み・動悸・息切れ(心臓の不調の可能性)
  • 手足のしびれ、ろれつが回らない、視野が欠ける(脳・目の不調の可能性)
  • 高血圧・糖尿病などの持病の、治療の中断

※これは医学的な診断ではありません。気になる症状があるときは、自己判断せず、産業医や医療機関にご相談ください。

これらは、健康管理を会社の仕組みにすることで、早めに気づき、備えられるものです。問題の多くは、不調のサインが見過ごされたり、言い出しにくい空気の中で我慢されたりすることから生じます。

事故が起きる前に。今日から実践できる「リスク低減」の備え

キールが本質と考えるのは、事故が起きてからの対応ではなく、起こさせない備えです。ISO31000の「回避・低減・移転・保有」(避ける・減らす・移す・受け入れる)でいえば、健康起因事故への備えの中心も、回避と低減です。会社として取り組める手順を挙げます。

1. 健康診断を「受けて終わり」にしない

年に一度の健康診断を確実に受けてもらい、その結果を、本人と会社がフォローします。気になる数値があれば、再検査や治療につなげる。受けることがゴールではなく、結果を次の行動につなげることが、健康起因事故の予防になります。

2. 業務前の「体調確認」を習慣にする

アルコールチェック(第7回参照)と同じように、業務前に体調を確認する一言を習慣にします。「昨日はよく眠れたか」「体調に不安はないか」。無理をさせない雰囲気と、不調を言い出せる空気をつくることが、いちばんの予防になります。体調が悪いときに「休む・代わってもらう」と言える職場が、事故を防ぎます。

3. 健康経営の視点で、働き方とセットで考える

運転者の健康は、睡眠・労働時間・休憩といった働き方と切り離せません。長時間労働や不規則な勤務は、体調不良のリスクを高めます。健康経営の考え方で働き方そのものを整えることが、結果的に安全運転を支えます。キールは健康経営の支援にも取り組んでおり、安全運転管理と健康管理を、ひとつながりのものとして考えています。

そして、これらを尽くしてもなお残る残存リスク——たとえば、万一の事故による高額な賠償など——には、「リスクの移転(保険など)」も会社の備えの一つとして組み合わせます。主役はあくまで、健康と体制による低減であり、移転はそれを補う一つの手段です。

出発前の確認に。「交通事故データマップ」の活用

運転者の健康管理とあわせて、走るルートそのもののリスクを知っておくことも、事故の予防になります。キールの交通事故データマップは、警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」(2019–2024)を独自に加工し、地域の事故発生地点を地図上で可視化する、無料・登録不要のツールです。

住所の入力、現在地の捕捉、地図のタップで中心地点を指定し、半径や、時間帯・曜日・重大度・事故タイプ・発生年度・天候・路面状態で絞り込めます。体調確認とあわせて、出発前のKY(危険予知)活動にご活用ください。表示は過去の統計に基づく目安であり、特定地点の将来の安全を保証するものではありません。現地の交通規制と最新の状況を最優先にお願いします。

【無料・登録不要】周辺の事故多発エリアを地図で確認できる「交通事故データマップ」はこちら 住所・現在地・地図タップで中心を指定 / 警察庁オープンデータ(2019–2024)

これは保険の勧誘ですか?

いいえ。本コラムは、運転者の健康管理を通じて事故を未然に防ぐ(リスクの低減)ための情報提供です。残存リスクへの備えとして「リスクの移転(保険など)」に触れていますが、特定の商品をおすすめしたり、加入を促したりするものではありません。

白ナンバーの会社にも、健康起因事故の対策は必要ですか?

報告制度の対象は事業用自動車(バス・タクシー・トラック)ですが、運転者の体調が事故につながるリスクは、社用車を使うすべての企業に共通します。健康診断のフォローや業務前の体調確認など、できることから始める価値があります。

何から始めればよいですか?

まずは、健康診断を確実に受けてもらい結果をフォローすること、そして業務前に体調を確認する一言を習慣にすることです。気になる症状があるときは、自己判断せず、産業医や医療機関への相談につなげる流れをつくっておくと安心です。

安全運転管理と健康管理を、ひとつながりで見直しませんか

運転者の健康管理は、安全運転管理や働き方の見直しと切り離せません。健康経営の視点も含めて「うちは何から始めればよいか」を整理したい経営者・安全運転管理者の方は、法人向けのご相談窓口からお気軽にお問い合わせください。

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ISO31000を基準としたリスクコンサルティング / ご相談は無料です

真下 恭徳(ました やすのり)
株式会社キール 代表取締役

三井住友海上火災保険、オリックス生命保険を経て、AIG損害保険にてICA(法人営業)に従事。約9年にわたり法人のリスクと向き合う。ISO31000を基準としたリスクコンサルティングを軸に、中小企業の「事故を起こさせない仕組みづくり」を支援。健康経営の視点からも、働く人の安全と安心を支える取り組みに力を入れている。
フィロソフィー:向かい風を、推進力へ。