大和市リスクジャーナル / 自然災害
ハザードマップが「内水に注意」と言うエリアを、
歩いて確かめてきました
── 泉の森のすぐ近く、上草柳9丁目・子安児童館のあたりの谷底で
大和市には、境川と引地川という二つの川が流れています。どちらもかつては大雨のたびに水と格闘してきましたが、昭和50年代からの河川改修や、しらかしの池(調節池)の整備といった先人の積み重ねで、川があふれる被害はずいぶん抑えられてきました。
ただ、水のリスクには、もう一つの顔があります。川の氾濫(外水)とは別の理屈で起きる「内水」です。大和市のハザードマップが「内水に注意」と示しているエリアを、実際に歩いてみると、少しだけ見方が変わります。場所は、上草柳9丁目・子安児童館のあたり。引地川の源流・泉の森のすぐ近くにある、まわりより一段低い谷底です。
先にお断りしておくと、これは「ここで昔こんな大きな水害があった」というお話ではありません。そうではなくて、地形そのものが水を集めやすい形をしていること。そして大和市のハザードマップが、この一帯を「内水のリスクが高い」と示していること。歩いて、標高を測って、地図と照らし合わせて、確かめてきました。
歩いたのは、泉の森のすぐ近く ── 上草柳の谷底
今回歩いたのは、上草柳9丁目、子安児童館のまわりです。すぐ南には、引地川の源流として知られる泉の森があります。市の地域防災計画でも、引地川は「上草柳の北部を源にし」て南へ流れる、とされています(出典:大和市地域防災計画)。このあたり一帯は、相模野台地という台地を、湧き水や雨水が長い時間をかけて削ってできた、谷あいの地形です。
泉の森から流れ出した引地川は、ここから南へ向かって下っていきます。でも今回注目したのは、川そのものではありません。子安児童館のあたりに、南北へ細長く伸びる、まわりより一段低い谷底のほうです。大和市のハザードマップが「内水に注意」と示しているのが、まさにこの帯でした。
泉の森にある「引地川水源地」の碑。源流は、この柵の向こうです。
「谷」は、水を集めます
上草柳の谷底に立ってみます。子安児童館のあたりです。道路が一帯でいちばん低くて、左右の家はどれも一段高いところに建っています。スマホで標高を測ってみると、谷底はぴったり60メートル(60.07m)。そこから谷の縁を登って、いちばん上の台地で測り直すと66メートル。その差、ちょうど6メートルほど。周りより一段低い細い帯が、南北に続いているのが分かります(出典:現地実測/国土地理院 標高・地形分類)。
国土地理院の地形分類では、この谷底は「氾濫平野(谷底平野)」── 水で運ばれた砂や泥が積もってできた土地 ── とされています。じつは大和市の地域防災計画にも、境川・引地川沿いには小規模な「谷底平野」が分布している、と書かれています(出典:大和市地域防災計画/国土地理院 地形分類)。国も市も、ここが「谷の底」であることを、公式に認めているわけですね。つまりここは、もともと水の通り道だった場所なんです。
国土地理院の断面図でも、同じ谷がはっきり見えます。両脇の台地はおよそ66〜68メートル、真ん中の谷底は60メートル。歩いて測った数字と、ぴたりと重なりました(出典:国土地理院 地理院地図Vector)。
雨が降ると、両脇の台地に落ちた水は、低いほうへ ── つまりこの谷底へ集まってきます。お椀の底に水が溜まるのと、同じですね。台地の縁は、崖になって谷へ落ちていきます。その落差が、水を一方向へそっと導いています。
谷底に立つと、左右の家が一段高い。ここが一帯でいちばん低い場所です。
台地が、崖になって谷へ落ちていきます。
だから、雨水はこの帯に集まりやすい
1960年代の航空写真を見ると、いまの子安児童館のあたりでは、田畑と雑木林の谷あいに、宅地がひろがりはじめていました(出典:国土地理院 空中写真)。児童館は、まだ建っていません。その後、谷の斜面まで宅地はひろがり、地面の多くがアスファルトやコンクリートで覆われていきます。
地面が覆われると、雨水は土に染み込みにくくなります。行き場をなくした水は、短い時間で低いところ ── つまりこの谷底へ、一気に流れ下ります。これが「内水」と呼ばれる水のリスクです。大きな川があふれるのではなく、足元に降った雨が、排けきれずに溢れてくる。川の有無とは、別の理屈で起きるんですね。
じつはこの流れ、市も公式に記録しています。昭和40年代なかばからの急激な市街化で、流域の水をためる力が下がり、雨水の流出が増えて、災害が相次ぐようになった ── 引地川の改修が始まった背景として、市がそう説明しているのです(出典:大和市「引地川について」)。
1960年代の上草柳。田畑と雑木林の谷あいに、宅地がひろがりはじめた頃です。旗の位置に、いまは子安児童館が建っています(国土地理院 空中写真)。
そして、いまの同じ場所。赤いピンのあたりが、子安児童館付近の谷底です。谷あいの田畑と林は、すっかり住宅地に変わりました(出典:国土地理院 地理院地図)。
雨水が集まってくる、谷底の排水。
大和市のハザードマップも、同じ帯を指しています
面白いのは、ここからです。私が標高を測って「低い」と感じた帯。国土地理院が「氾濫平野」と分類した帯。この二つに、大和市の内水ハザードマップが示す「浸水のおそれがある区域」が、ほぼ重なります。子安児童館のあたりを軸に、南北へ細長く伸びる帯として、浸水の想定が描かれています。想定の深さは段階で示されていて、いちばん深い区分では3〜5メートル──大人の背丈をはるかに超え、2階に届く高さです(出典:大和市 浸水想定区域マップ・内水はん濫マップ/深さ区分・想定降雨条件は凡例による)。
別々につくられた資料が、同じ一本の帯を指している。現地でスマホのハザードマップと照らし合わせてみると、私が標高を測って立っていた谷底は、たしかに想定区域の内側にありました。これは「昔ここで水害があった」という記録の話ではありません。地形と、公式のハザードマップが、そろって「ここは雨水が集まりやすいですよ」と教えてくれている ── そういう話です。記録ではなく、これから備えるための「想定」だと考えると、分かりやすいかもしれません。
大和市の内水ハザードマップは、市の公式ページで公開されています。住所で確認できるので、一度見てみてください。
大和市 洪水・内水ハザードマップのページ(市公式)
内水ハザードマップ(PDF・市公式)
川の氾濫とは、別の話です
念のため、補っておきます。境川も引地川も、かつては大雨のたびに水があふれる川でした。市の記録では、昭和51年9月の台風17号のとき、市全体で床上235棟・床下760棟が浸水しています(出典:大和市地域防災計画 資料編「大和市の災害記録」)。引地川の改修が始まったのは、まさにこの昭和51年度。最上流部には調節池(いまの「しらかしの池」)も整備されました(出典:大和市「引地川について」)。こうした先人の積み重ねで、川があふれる「外水」の被害は、ずいぶん抑えられてきたのです。いまも県と市は、両河川を特定都市河川に位置づけて、流域全体で浸水対策を続けています(出典:大和市)。
では、いまの引地川で外水の警戒がいちばん必要なのはどこでしょうか。市の計画で水防上もっとも重要(A級)とされている区域は、下流の福田の堤防、左右あわせて約2.7キロメートル。洪水の浸水想定区域として名前が挙がる学校や保育園も、すべて福田地区です(出典:大和市地域防災計画 本編・資料編)。つまり引地川の外水の主戦場は下流側で、源流に近いこの上草柳の谷底には、洪水(外水)の浸水想定はかかっていません。示されているのは、内水の想定だけです。
ここで、ひとつ面白いことに気づきます。引地川は、泉の森から南へ流れていきます。ところが、内水で心配なこの低い帯は、子安児童館のあたりから北へ伸びている。川の流れる向きとは、逆なんです。
じつは標高もそれを裏づけます。今回、川沿いを歩きながら水面近くの高さを測ってみると、中村橋で46.9メートル、上草柳4号橋で47.8メートル、しらかしの池のあたりで49.0メートル。引地川の水は、47〜49メートルの低い帯を流れていました。一方、内水の想定がかかる子安児童館の谷底は60メートル。川の水面より、10メートル以上も高いのです。だから、川があふれてここまで這い上がってくる、という話ではない。この谷底のリスクは、あくまで足元に降った雨が集まる内水。同じ「水」でも、起きる場所も、理由も、高さも違う(出典:現地実測)。川の被害は先人が抑えてくれた。だからこそ次は、足元の内水に目を向ける番なのかもしれません。
じゃあ、どう備えればいいか
やることは、そんなに難しくありません。まずは、自分の土地が「谷の底(低い帯)」なのか「台地の上」なのかを知ること。国土地理院の地形分類や標高、大和市の内水・洪水の想定区域を見比べれば、だいたい見えてきます。
もし低い場所なら、止水板を用意しておく、電気の設備や大事な書類を高い位置に置いておく、といった備えが現実的です。ただし、想定の深い区分では話が変わります。3〜5メートルという深さは、止水板や「2階へ上がる」だけでは足りない可能性のある高さです。そこで効くのが、この谷の地形そのものです。帯は細長く、両脇の台地はすぐ横にあります。実際に谷底から台地の上まで歩いて数えてみたら、たった45歩でした。ほんの30メートルほど横へ移動するだけで、水の集まらない高さに出られる。大雨の予報が出たら、深い区分では早めに「帯の外=すぐ横の台地」へ。自分の土地の形を知っておくことが、この谷ではいちばんの備えになります。そのうえで、それでも避けきれない損害には、リスクの移転(保険など)という選択肢もあります。
順番としては、まず足元の立地を確かめることから。大和市内の住所を入れれば、その土地の自然災害リスクの目安を、地形をもとに確認できます。
おわりに ── ハザードマップを持って、歩いてみませんか
「ハザードマップ」と聞くと、少し身構えてしまう方も多いと思います。私もそうでした。でも実際に引地川の源流から谷底まで歩いてみると、印象はずいぶん変わりました。泉の森の湧き水、川沿いの緑、谷を上り下りする地形。この街の自然は、思っていたよりずっと豊かです。そして地形を意識しながら歩くと、「ここで下る」「あの神社は一段高い」と、小さな発見がいくつもありました。
リスクを知ることは、怖がることではありません。自分の街の成り立ちを知って、いざというときに落ち着いて動けるようにしておくこと。ぜひ一度、ご家族でハザードマップを片手に、生活圏を歩いてみてください。事業所の皆さんなら、従業員同士で歩いてみるのもおすすめです。半日の散歩が、いちばん確かな防災訓練になります。
よくある質問
- 川の氾濫は減ったのに、なぜ水害が心配なのですか?
- 河川改修や調節池の整備で、川があふれる「外水」の被害は抑えられてきました。ですがそれとは別に、足元に降った雨が排けきれずに低い土地へ溜まる「内水」があります。谷底のように周囲より低い土地では、川の有無や改修に関わらず、雨水が集まりやすくなります。
- 内水氾濫とは何ですか?
- 市街地に降った雨が、下水道や水路で排けきれずに地表へあふれる現象です。短時間の集中豪雨で起きやすく、低いところに水が集まります。
- 自分の土地が低いかどうか、どう調べればいいですか?
- 土地の標高と地形分類、市の内水・洪水の想定区域を見比べます。谷底の低い帯かどうかが、ひとつの目安です。住所から地形をもとに確認できるツールも用意しています。
参考・出典
- 大和市地域防災計画(本編・資料編)
- 国土地理院 地理院地図(地形分類・標高)/空中写真(1960年代)
- 大和市 洪水・内水ハザードマップ(市公式ページ/内水ハザードマップPDF)
- 大和市「引地川について」(河川改修・調節池しらかしの池の整備経緯)
- 大和市「特定都市河川浸水被害対策法について」(境川・引地川の指定)

