- 社員が業務中に営業車で交通事故を起こすと、運転者本人だけでなく、会社も「使用者責任」(民法715条)や、車両を業務に使う立場としての「運行供用者責任」(自動車損害賠償保障法3条)を問われる場合があります。
- とくに人身被害をともなう事故では、賠償が高額化する傾向があります。事故対応の負担は財務・人員・信用の各面に及びます。
- 最も確実な備えは、事故そのものを起こさせない仕組みづくり(リスクの低減・回避)です。事故が多く記録されているエリアを事前に把握し、危険予知(KY)に活かすことが出発点になります。
- 低減策を尽くしてもなお残る残存リスクに対しては、「リスクの移転(保険など)」も選択肢の一つとして組み合わせて考えます。
社員が営業車で事故を起こしたら会社はどうなる?経営者が知るべき「使用者責任」の基礎知識
外回りの営業、現場への移動、配送——日々の業務で社用車や営業車を走らせている企業は少なくありません。多くの経営者の方が、ふとした瞬間にこう考えます。「もし社員が勤務中に事故を起こしたら、その責任は誰が負うのだろうか」と。
結論から申し上げると、勤務中の事故では、運転していた社員本人だけでなく、会社にも法的な責任が及ぶ場合があります。これは特別なケースではなく、業務で車を使うすべての企業に共通する構造的なリスクです。警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」を見ても、交通事故は平日の通勤・業務の時間帯に多く記録される傾向があり、車を業務に使う以上、この問題と無縁ではいられません。
出典:警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」(2019–2024)。発生時間帯の傾向は同データに基づく一般的傾向であり、地域・年により異なります。
本コラムは、不安を煽るためのものではありません。仕組みを正しく知り、事故を未然に防ぐ行動へつなげていただくための情報提供です。「向かい風を、推進力へ」——リスクを正面から理解することが、前へ進む備えになります。
課題の深掘りと、見落としがちなリスクの可視化
勤務中の交通事故で会社が責任を問われる根拠は、主に次の二つの法的枠組みにあります。混同されやすいため、整理しておきます。
従業員が「事業の執行について」第三者に損害を与えた場合、その使用者である会社も賠償責任を負うとする考え方です。営業活動や配送など、業務の一環として運転していた最中の事故は、この「事業の執行」にあたると判断されることがあります。利益を得る立場の者が、それにともなう損失も負うべきだという考え方(報償責任)が背景にあります。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」は、人身事故について賠償責任を負うとされています。会社が車両を保有し業務に使っていれば、会社が運行供用者と判断される場合があります。この責任は、運行供用者側が「注意を怠らなかったこと」などを立証しない限り免れにくい構造で、立証の負担が事実上、会社側に置かれている点に注意が必要です。
つまり、運転者本人の責任(民法709条の不法行為)だけで完結せず、会社が並行して責任主体となりうるということです。さらに、人身被害をともなう重大な事故では、治療費・休業損害・逸失利益・慰謝料などが積み上がり、賠償が高額化する傾向があります。これに加えて、車両の修理や代替手配にともなう物的・運行上の負担、事故対応に割かれる人員と時間、取引先からの信用への影響など、目に見えにくいコストも生じます。
重要なのは、これらのリスクは「行動と仕組み」によって低減・回避できる余地が大きいという点です。どこで事故が起きやすいかを事前に知り、走り方や運行管理を変える。この一手間が、責任問題そのものの発生確率を下げます。
事故が起きる前に。今日から実践できる「リスク低減」の備え
事故が起きてからの対応も大切ですが、キールが本質と考えるのは、事故を起こさせない仕組みづくりです。ISO31000の考え方でも、リスクへの対応は「回避・低減・移転・保有」の四つに整理されます。このうち、まず取り組むべきは回避と低減です。今日から着手できる実務的な備えを挙げます。
1. 走る前に「危険を予知する」
営業ルートや配送ルートのうち、過去に事故が多く記録されているエリアを事前に把握しておきます。出発前の数分で危険箇所を共有するだけでも、運転者の注意は変わります。これがKY(危険予知)活動の出発点です。
2. 運行のルールと記録を整える
誰が・いつ・どの車で・どこを走るかを把握し、運行前の点検や運転日報を仕組みとして運用します。属人的な「気をつける」を、組織の「仕組み」に変えることが、再現性のある低減につながります。
3. 教育と振り返りを継続する
ヒヤリハットの共有や、事故傾向の定期的な振り返りを通じて、現場の感度を保ちます。新たに運転する社員への導入教育も、未然防止の要です。
そして、こうした低減策を尽くしてもなお残る部分があります。これを残存リスクと呼びます。万一の人身賠償など、自助努力だけでは備えきれない残存リスクに対しては、「リスクの移転(保険など)」も選択肢の一つとして組み合わせておく、という考え方が成り立ちます。あくまで主役は低減であり、移転はそれを補う一つの手段という位置づけです。
出発前の確認に。「交通事故データマップ」の活用
「事故が多く記録されているエリアを事前に知る」を、誰でも手軽に実践できるよう、キールは交通事故データマップを無料・登録不要で公開しています。警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」(2019–2024)を独自加工し、地域の事故発生地点を地図上で可視化するツールです。
調べたい住所を入力する、現在地を捕捉する、あるいは地図を直接タップする——いずれかの方法で中心地点を指定し、半径や、時間帯・曜日・重大度・事故タイプ・発生年度・天候・路面状態といった条件で自由に絞り込めます。たとえば「平日の朝、通学路の歩行者事故」「雨天時の車両相互事故」といった視点で、ルート上の傾向を確認できます。
営業ルートの事前チェックや、配送前のKY活動のインフラとしてご活用ください。表示されるのは過去の統計に基づく目安であり、特定地点の将来の安全を保証するものではありません。現地の交通規制と最新の状況を最優先にお願いします。
【無料・登録不要】周辺の事故多発エリアを地図で確認できる「交通事故データマップ」はこちら 住所・現在地・地図タップで中心を指定 / 警察庁オープンデータ(2019–2024)これは保険の勧誘ですか?
いいえ。本コラムは、事故の未然防止(リスクの低減)を主目的とした情報提供です。残存リスクへの備えとして「リスクの移転(保険など)」に触れていますが、特定の商品をおすすめしたり、加入を促したりするものではありません。まずは仕組みを知っていただくこと自体に価値があると考えています。
社員のマイカーを業務に使わせている場合も、会社は責任を負いますか?
状況によっては、会社が運行供用者責任などを問われる場合があります。社有車かマイカーかという形式だけで判断されるとは限らず、業務との関わりが重視されます。この点は別の回で詳しく取り上げます。
交通事故データマップの利用は無料ですか。個人情報は保存されますか?
無料・登録不要でご利用いただけます。マップの記載によれば、入力された住所や位置情報は地図の表示処理にのみ使われ、サーバーに保存・記録されることはないとされています。安心してルート確認にお使いいただけます。
本コラムで触れた使用者責任・運行供用者責任への備えは、自社の運行管理や社内体制の実態に合わせて整えることで、より確実になります。「うちの場合はどうか」を整理したい経営者・安全運転管理者の方は、法人向けのご相談窓口からお気軽にお問い合わせください。
法人のお客様 お問い合わせ・ご相談はこちらISO31000を基準としたリスクコンサルティング / ご相談は無料です

