大和市で地震の話をするとき、多くの人が思い浮かべるのは「首都直下地震」だと思います。
けれど市が公表している資料を開くと、想定されている地震は6つあって、そのうち大和市がいちばん大きく揺れるとされているのは、首都直下ではありませんでした。
そしてその地震は、100年前にこの街で実際に起きています。
この記事でわかること
- 大和市が想定している6つの地震と、それぞれの予想震度
- 市内で最も大きく揺れる想定は、どの地震か
- 100年前の関東大震災で、同じ市域のなかに10倍近い差がついていたこと
- その差を、地形からどう読むか
- 自分の家や事業所が、台地の上か谷の底かを調べる方法
01大和市が想定する、6つの地震
大和市は、神奈川県の地震被害想定調査に基づいて、地域防災計画で6つの地震を想定しています。市のホームページに、それぞれの規模と、市内の予想震度が示されています。
| 想定される地震 | 規模 | 大和市の予想震度 | 震源域 |
|---|---|---|---|
| 大正型関東地震 | Mw8.2 | 6強〜7 | 相模トラフ |
| 都心南部直下地震 | Mw7.3 | 6弱 | 都心南部の直下 |
| 三浦半島断層群の地震 | Mw7.0 | 5強〜6弱 | 三浦半島断層帯 |
| 東海地震 | Mw8.0 | 5弱〜5強 | 駿河トラフ |
| 南海トラフ巨大地震 | Mw9.0 | 5弱〜5強 | 南海トラフ |
| 神奈川県西部地震 | Mw6.7 | 5弱 | 神奈川県西部 |
出典:大和市「地震災害」(神奈川県地震被害想定調査に基づく、大和市地域防災計画の想定)。予想震度の大きい順に並べ替えています。
表を見ると、いくつかのことがわかります。
まず、大和市の予想震度が最も大きいのは、大正型関東地震の6強〜7です。よく話題にのぼる都心南部直下地震は6弱で、それより一段大きい想定になっています。
次に、マグニチュードの大きさと、市内の揺れの大きさは一致しません。南海トラフ巨大地震はMw9.0で、6つのなかで最大の規模ですが、大和市の予想震度は5弱〜5強です。震源が遠いためです。地震の大きさではなく、どこで起きるかが効いてきます。
そして、発生の確率が示されているのは都心南部直下地震で、30年間で70%とされています。
30年で70%という数字がついているのは都心南部直下地震ですが、いちばん大きく揺れる想定は大正型関東地震です。起きやすさで備えるのか、起きたときの大きさで備えるのか。防災の備えは、後者に合わせておくのが基本になります。
02いちばん大きい想定は、100年前に起きたこと
大正型関東地震は、1923年(大正12年)の関東大震災を再現した想定です。国が長期的な防災・減災対策の対象としている地震で、相模トラフを震源域とするMw8.2。この規模の地震が、実際にこの地域を襲っています。
想定ではなく、記録がある。
地震の話としては、珍しいことです。
当時、いまの大和市の市域には2つの村がありました。北側が大和村で、下鶴間・深見・上草柳・下草柳。南側が渋谷村で、福田・上和田・下和田。この2つが昭和31年に合併し、昭和34年に大和市になっています。
関東大震災のとき、この2つの村で、被害の大きさがはっきり分かれました。
03同じ市域のなかで、10倍近い差
大和市地域防災計画には、関東大震災における村ごとの家屋の倒壊状況が記録されています。
(福田・上和田・下和田ほか)
(下鶴間・深見・上草柳・下草柳)
倒壊した家屋の割合の差
出典:大和市地域防災計画。隣り合う2つの村の記録です。
同じ地震で、隣り合う村の被害がここまで違いました。距離にすれば、数キロの話です。
1923年当時の渋谷村には、現在は藤沢市になっている長後・高倉が含まれていました。したがって17.75%という数字は、現在の大和市南部だけを指すものではありません。一方、大和村の区域(下鶴間・深見・上草柳・下草柳)は、すべて現在の大和市です。村の境界と現在の市域は一致しない、という前提で読む必要があります。
04この差を、地形から読む
なぜ差がついたのか。当時の建物の種類や建て方、人口の密度など、複数の要因が考えられます。ただ、地震の揺れに関して一般に知られているのは、同じ地震でも、地盤が軟らかい場所ほど揺れが大きくなるということです。
大和市は、自らの地形について次のように説明しています。
市のホームページでは、県の地図システムで微地形分類を確認できることを紹介したうえで、大和市は川沿い以外は比較的固いローム台地であると書かれています。
この一文は、市の地形をかなり正確に言い表しています。大和市は相模野台地の上にあり、その台地を引地川と境川という2本の川が刻んでいます。台地の上は固いローム層、川沿いは川が運んだ土砂が積もった軟らかい低地。同じ市内に、性質の違う2つの地面があります。
この連載で歩いてきた場所は、すべてこの話につながっていました。
これまでに歩いた場所と、地形
| 上草柳・引地川源流の谷(第1回) | 谷底 |
|---|---|
| 下鶴間・名前のない交差点の周辺(第2回) | 台地と谷の境 |
※地形の区分は、国土地理院の地形分類および市の説明に基づく大まかな整理です。
第1回で、雨は低いほうへ集まると書きました。水が集まる場所は、川が土砂を運んで積もらせた場所でもあります。水が集まりやすい地形と、揺れが大きくなりやすい地形は、しばしば重なります。
ハザードマップを水害と地震で別々に見ていると、この重なりは見えません。けれど地形という一枚の地図で見ると、同じ場所の話をしていることがわかります。
05大和市が「災害の少ない街」であることも、事実です
ここまで揺れの話を書いてきましたが、大和市の災害リスク全体を見れば、条件に恵まれた街です。これも同じだけ正確に書いておきます。
市によれば、大和市は海岸から10キロメートル以上離れており、海抜は低い地域でも28メートル以上あります。県が公表している津波の浸水予測では、過去の大地震や南海トラフ地震を想定したいずれのケースでも、大和市への被害は見られません。
市域を流れる引地川と境川についても、近年の大雨で氾濫などの被害は発生していないとされています。2019年には、25メートルプール約39杯分にあたる14,100立方メートルの雨水を貯められる地下貯留施設が完成しました。
地震への備えも進めています。大規模地震のときの同時多発火災に備えて、消火栓から直接放水できるスタンドパイプ消火資機材を県内で初めて整備し、災害時に被災状況を確認するためのドローンを消防本部と市内5か所の消防署に計13機配置しています。
出典:大和市「YAMATO発見ライブラリー」ほか市公表資料
津波が来ず、土砂災害の範囲も限られ、川の氾濫も近年は起きていない。そのうえで残るのが、揺れです。大和市にとって、地震は数少ない「まともに向き合う必要がある災害」だと言えます。
06自分の土地が、台地か谷か
ここまでの話は、自分の住所に当てはめて初めて意味を持ちます。調べる方法は公開されています。
県のe-かなマップ
神奈川県の地図システムで、微地形分類と明治期の地図を見ることができます。市もこのシステムを案内しています。明治期の地図が見られるのは、この記事の文脈ではかなり重要です。いま宅地になっている場所が、100年前に何だったのかがわかります。
国土地理院の地形分類
台地・段丘、谷底平野、氾濫平野といった区分で、その土地の成り立ちが確認できます。第1回で上草柳の谷底を歩いたときに使ったのも、この地形分類と標高のデータです。
地震ごとの被害想定
県のe-かなマップでは、6つの想定地震それぞれの被害想定を地図の上で確認できます。市のページから案内されています。
大和市「地震災害」
想定される6つの地震、地震が起きたときの行動、家庭での対策、非常持出品の目安がまとまっています。この記事で紹介した想定震度の出典でもあります。
大和市のページを見る提供:大和市。当社とは関係のない外部サイトです。
07揺れは、地形では変えられない
地形は選べますが、住んでからは変えられません。だから対策は、揺れそのものではなく、揺れたときに何が起きるかに向けることになります。
優先順位をつけるなら
- 家具の固定。震度6強の揺れで倒れない家具は、固定されている家具だけです
- 寝室に、倒れてくるものを置かない。夜に起きれば、逃げる前に挟まれます
- ブロック塀のひび割れや傾き。道路に面していれば、通行人の被害にもつながります
- 建物そのもの。1981年以前の建築なら、耐震診断の対象になります
- 最初の大きな揺れは約1分とされています。その1分を、どこで、どうやり過ごすか
事業者の方であれば、見る対象が増えます。事務所や工場の立地は台地の上か、川沿いか。倒れたら業務が止まる設備、書類棚、サーバー。従業員が帰宅できないときの備蓄。取引先が被災したときに、供給がどこで止まるか。
順番としては、まず建物と人の安全を確保すること、次に業務を続ける、あるいは早く再開できるようにすること、そのうえで残る損害についてリスクの移転(保険など)を考える、という流れになります。地震はこの順番が特にはっきり出る災害です。揺れは防げないので、被害を減らす工夫と、その後をどうするかの準備が、そのまま結果を分けます。
08よくある質問
- 大和市で想定されている最大の震度はいくつですか。
- 大正型関東地震で6強〜7とされています。市が地域防災計画で想定する6つの地震のうち、最も大きい予想震度です。都心南部直下地震は6弱と想定されています。
- 首都直下地震より、関東地震のほうが大和市では揺れるのですか。
- 市が公表している予想震度で比べると、そうなります。大正型関東地震が6強〜7、都心南部直下地震が6弱です。ただし発生の確率が示されているのは都心南部直下地震のほうで、30年間で70%とされています。
- 南海トラフ巨大地震のほうがマグニチュードは大きいのに、なぜ震度は小さいのですか。
- 震源からの距離があるためです。南海トラフ巨大地震はMw9.0と想定されていますが、大和市の予想震度は5弱〜5強です。地震の規模だけでなく、どこで起きるかによって、その場所の揺れは変わります。
- 大和市は災害に強い街だと聞きましたが、地震も大丈夫ですか。
- 津波や土砂災害については条件に恵まれており、市も海岸から10キロメートル以上離れていること、海抜が低い地域でも28メートル以上あることを説明しています。一方で地震の揺れは別で、大正型関東地震では震度6強〜7が想定されています。災害の種類ごとに分けて考える必要があります。
- 自分の家が揺れやすい場所かどうか、どう調べればよいですか。
- 神奈川県のe-かなマップで微地形分類を、国土地理院の地形分類で土地の成り立ちを確認できます。大まかには、台地の上か、川沿いの低地かが目安になります。市は「川沿い以外は比較的固いローム台地」と説明しています。
【出典】大和市「地震災害」(神奈川県地震被害想定調査/大和市地域防災計画)/大和市地域防災計画/大和市公表資料/国土地理院 地形分類/神奈川県 e-かなマップ。村の沿革は大和市の公表資料によります。
【この記事について】今回は現地取材を行わず、公表されている資料の数値のみで構成しています。数値はいずれも出典元の公表時点のものです。
