労災と安全配慮義務 ── データと制度で見る、会社が果たす役割

警備業の労災と安全配慮義務を示す図版 警備業の安全とリスクマネジメント | 労災と安全配慮義務
SUMMARY | 記事のまとめ
  • 令和7年、警備業の労働災害は2,360人で前年比13.0%増。主要な業種で最大の増加で、高齢化も進んでいます。
  • 会社には、働く人が安全に働けるよう配慮する義務(労働契約法第5条=安全配慮義務)があります。現場の危険の把握・対策・記録が基本です。
  • 政府労災は休業中の収入を全額補うものではありません。差を補う「上乗せ」(リスクの移転)という考え方もあります。

労働災害は、被災した隊員とその家族に最も大きな影響を及ぼします。同時に、会社にとっても向き合うべき課題です。隊員を守り、会社が事業を続けられるように、警備業の労災の全体像と、会社に求められる役割を、データと制度の両面から整理します。

このコラムの根拠データ 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月)にもとづきます。数値は、警備業の休業4日以上の死傷・死亡災害です。

データで見る ── 警備業の労災は増えている

令和7年、警備業で休業4日以上の労働災害にあった人は2,360人。前年から13.0%増え、主要な業種のなかでもっとも大きな増加でした。全産業の死傷がほぼ横ばいであることを踏まえると、警備業の増加は際立っています。

+13.0%
死傷の
前年比
54.2%
死亡のうち
交通事故(道路)
57.0%
死傷のうち
60歳以上

内訳は、転倒が43.2%でもっとも多く、交通事故(道路)、動作の反動(腰痛など)、墜落・転落、熱中症が続きます。死亡災害は24人で、うち54.2%が道路上の交通事故。被災者の57.0%が60歳以上という年齢構成も特徴です。災害が増え、かつ高年齢化が進むなかで、会社としてどう向き合うかが問われています。

安全配慮義務とは

会社には、働く人がその生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする義務があります。これは労働契約法第5条に定められており、「安全配慮義務」と呼ばれます。

具体的に何をどこまで行うべきかは、業務の内容や現場の状況によって異なり、一律には決まりません。一般論として、現場の危険を把握し、それに応じた対策を講じ、その取り組みを記録しておくことが、義務に向き合う基本的な姿勢とされています。労働災害が生じた際には、会社がこうした配慮を尽くしていたかが問われる場合があります。

なお、本記事は一般的な制度の説明であり、個別の事案についての法的判断を示すものではありません。具体的な対応は、必要に応じて専門家にご確認ください。

リスクアセスメントと記録

安全配慮義務に向き合う実践的な手段が、リスクアセスメント(危険性・有害性の調査)です。労働安全衛生法でも、事業者の努力義務として位置づけられています。

基本の手順
  • 洗い出す:現場の危険を具体的に挙げる。
  • 見積もる:起こりやすさと重さから優先順位をつける。
  • 減らす:優先度の高いものから対策する。
  • 記録・見直す:結果を記録し、定期的に見直す。

危険予知(KY)の実施と記録を日々の運用に組み込むことは、隊員を守ると同時に、会社にとっての備えにもなります。

政府労災と「上乗せ」という考え方

業務中の労働災害は、政府の労災保険で補償されます。ただし、政府労災の給付は、休業中の収入を全額そのまま補填するものではありません。療養が長引いた場合、本人や家族の生活に差額が残ることがあります。

この差額を補い、会社としても備える方法のひとつに、政府労災への「上乗せ」という考え方があります。減らしきれないリスクを保険などへ移す「リスクの移転」にあたります。どのような形が適切かは会社ごとに異なり、本記事で特定の商品を推奨するものではありません。自社の状況に応じた整理は、中立の立場で行う必要があります。

まとめ
  • 令和7年、警備業の労災は前年比13.0%増。高齢化も進む。
  • 会社には安全配慮義務(労働契約法5条)。危険の把握・対策・記録が基本。
  • リスクアセスメントとKY・記録が、義務に向き合う実践的な手段。
  • 政府労災は収入を全額は補わない。差への備えとして上乗せ(リスクの移転)という考え方もある。

おわりに

労災への向き合い方は、突き詰めれば「隊員を守ること」と「会社を守ること」が重なる領域です。予防で災害そのものを減らし、安全配慮義務に日頃から向き合い、減らしきれない部分に備える。この順序を、リスクの専門家として一緒に整理します。何から考えればよいか分からない段階でも、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 安全配慮義務とは何ですか。

会社が、働く人の生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮する義務です(労働契約法第5条)。何をどこまで行うべきかは業務や現場の状況によって異なります。

Q2. 義務に向き合うには何をすればよいですか。

現場の危険を把握し、対策を講じ、その取り組みを記録しておくことが基本です。リスクアセスメントと危険予知(KY)の実施・記録が実践的な手段になります。

Q3. 政府労災だけで足りますか。

政府労災の給付は休業中の収入を全額そのまま補うものではなく、差額が残ることがあります。その差を補い会社としても備える方法に、上乗せ(リスクの移転)という考え方があります。

Q4. キールは特定の保険を勧めるのですか。

いいえ。中立の立場で、予防から備えまでを一緒に整理します。特定の商品をおすすめしたり比較して勧めたりはしません。

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ABOUT THE AUTHOR | 執筆者
真下 恭徳(株式会社キール 代表取締役)

2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キールを設立。高度なリスクコンサルティングを通じて、皆様の安心とこれからの挑戦を支える最高峰のリスクマネジメントを提供している。

法人向けリスクマネジメント
  • 出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月、労働者死傷病報告。新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害を除く)
  • 参考:労働契約法、労働安全衛生法/厚生労働省