SUMMARY 記事のまとめ
「リスク」と聞くと避けるべき悪のように感じられますが、ISO 31000 はリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。本記事では、中小企業の経営者が知っておきたいリスクの本当の意味と、攻めと守りを両立する経営戦略への活かし方を、ISO 31000 の視点からわかりやすく解説します。
この記事の要点(3行)
① ISO 31000 はリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義し、危険だけでなく機会も含む。
② リスクには会社を守る「守り」と、成長へ導く「攻め」の両面がある。
③ 対応は「回避・低減・保有・移転」の4つ。まず自社の対策を尽くし、その後に保険などを組む。
そもそも「リスク」とは何か? 多くの経営者が誤解している定義
POINT
ISO 31000 では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。マイナスの可能性(危険)だけでなく、プラスの可能性(機会)も含む、中立的な考え方です。
中小企業の経営者の方とお話ししていると、「リスク」という言葉に対して、ほぼ全員が同じ反応を見せます。「危険なもの」「避けるべきもの」「マイナスのこと」と。確かに日本語の「リスク」には、危機・損失・脅威といったネガティブなイメージが強く結びついています。
しかし、リスクマネジメントの国際規格である「ISO 31000」は、リスクをこう定義しています。
「リスクとは、目的に対する不確かさの影響である」(ISO 31000 より)
ここで大切なのは「不確かさ」という言葉です。事業を進める中で、結果がはっきりと予測できない要素はすべて「リスク」に含まれます。新しい商品を出して大ヒットするかもしれない。雨が降って工事が止まるかもしれない。市場が広がるかもしれないし、縮むかもしれない。これらすべてが、ISO 31000 における「リスク」なのです。
つまりリスクには、マイナスの影響(危険・脅威)もあれば、プラスの影響(機会・成長)もあります。これを理解することが、ISO 31000 を活用する第一歩です。
ISO 31000 が示す「攻めと守りのリスク」とは
POINT
リスクには事業を脅かす「守りのリスク」と、成長機会である「攻めのリスク」の2種類があり、両方を意識して管理することが、企業の持続的な成長を生みます。
ISO 31000 の枠組みで整理すると、リスクは大きく2つに分けられます。
| リスクの分類 | ビジネスにおける具体例 |
|---|---|
| 守りのリスク (マイナスの不確かさ) |
事故・災害・賠償請求・情報漏洩・人材流出・法令違反・取引先倒産・自然災害など |
| 攻めのリスク (プラスの不確かさ) |
新規事業参入・海外進出・新製品開発・設備投資・M&A・人材採用・新規市場開拓など |
多くの中小企業では、「守りのリスク」だけに目が向きがちです。確かに事故や賠償リスクへの備えは経営の基本ですが、それだけでは企業は成長しません。一方で、「攻めのリスク」を取ることなしに、新しい挑戦も生まれません。
株式会社キールが大切にしているフィロソフィー「向かい風を、推進力へ」は、まさにこの考え方を表しています。リスク(向かい風)を恐れて立ち止まるのではなく、リスクを認識し、評価し、適切に管理することで、推進力(事業成長)へと変えていく。これが ISO 31000 の本質です。
中小企業が ISO 31000 を活用するメリット
POINT
ISO 31000 は認証取得の規格ではなく、思考の枠組みです。経営判断の質を高め、銀行・取引先・採用市場からの信頼を得る、経営の土台となります。
「ISO」と聞くと、認証取得や監査・更新といった重い仕組みをイメージされるかもしれません。しかし ISO 31000 は、ISO 9001(品質)やISO 27001(情報セキュリティ)とは異なり、認証を取得する種類の規格ではありません。あくまでも「リスクマネジメントの考え方の枠組み」を示すガイドラインです。
中小企業が ISO 31000 の考え方を経営に取り入れることで、次のようなメリットが期待できます。
特に近年、大手取引先や金融機関は、中小企業に対しても一定のリスクマネジメント体制を求める傾向にあります。サプライチェーン全体での信頼性を確保するため、自社のリスクをきちんと把握・管理していること自体が、新しいビジネス機会の獲得につながる時代です。
リスク対応の4つの選択肢:回避・低減・保有・移転
POINT
ISO 31000 では、リスクへの対応を「回避・低減・保有・移転」の4つに整理します。それぞれの特性を理解し、リスクごとに最適な組み合わせを選ぶことが大切です。
リスクを認識した次のステップは、「どう対応するか」です。ISO 31000 では、リスク対応の選択肢を次の4つに整理しています。
| リスク対応 | 対策の定義・内容 | 具体的なアクション例 |
|---|---|---|
| 回避 | リスクのある活動そのものを行わない | 危険性の高すぎる新規事業領域・国から撤退する |
| 低減 | トラブルの発生確率や、起きた際の影響度を下げる | 社内安全教育の徹底、設備の改善、品質管理体制の強化 |
| 保有 | リスクをある程度受け入れ、自社の体力で備える | 緊急時用の内部留保(現預金)の積み増し、自家保険 |
| 移転 | 契約等により、他者にリスクを引き受けてもらう | 適切な民間保険の活用、業務委託、契約書での免責条項 |
多くの中小企業では、「リスクへの備え=とりあえず保険に入ること(移転)」と捉えがちですが、これは実務の観点から見ると大きな誤解です。本来は、まず「回避」「低減」で自社にできる社内対策を尽くしたうえで、それでも現場に残ってしまう不可抗力な部分について「保有」と「移転」を組み合わせるのが正しい順序です。
例えば、従業員の労災リスクであれば、まず安全教育の徹底(低減)を行い、業務プロセスを根本から改善し(低減)、それでも残る業務上の災害リスクについて、最後のセーフティネットとして民間保険(移転)を用意する。この順序を間違えると、「保険料は支払っているが、一向に現場の事故が減らない」という本末転倒な事態に陥ってしまいます。
まとめ:リスクは「向かい風」、活かせば経営の「推進力」になる
本記事では、ISO 31000 が示す「リスク」の本当の定義と、中小企業の経営者がこれをどう戦略的に活用すべきかを解説しました。最後に要点を振り返ります。
- リスクは単純な「悪」ではなく、「目的に対する不確かさの影響」である
- リスクには会社を守る「守り(マイナス)」と、成長へ導く「攻め(プラス)」の両面がある
- ISO 31000 は面倒な認証規格ではなく、経営判断をクリアにする思考の枠組みである
- リスク対応の選択肢は「回避・低減・保有・移転」の4つに過不足なく整理できる
- 正しい順序は、まず自社の取組(回避・低減)を最大化し、その後に外部活用(保有・移転)を組む
株式会社キールでは、フィロソフィー「向かい風を、推進力へ」のもと、ISO 31000 のフレームワークをベースにした専門的なリスクマネジメントを行っています。「自社の経営リスクをどう棚卸しすればよいかわからない」「毎年保険料を支払っているけれど、本当に過不足なく備えられているか不安」といったご相談を、初回無料で承っています。
リスクは決して恐れるものでも、見て見ぬふりをするものでもありません。正しく認識し、適切に管理することで、御社の事業を次のステージへ前進させる推進力に変えていくことができます。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. ISO 31000 の認証を取得するには、具体的にどのような手続きが必要ですか?
ISO 31000 は、ISO 9001(品質管理)やISO 27001(情報セキュリティ)といった他のISO規格とは根本的に異なり、認証を取得する種類の規格ではありません。あくまでも「リスクマネジメントのあるべき考え方を示した国際的なガイドライン(指針)」です。そのため、第三者機関による認証審査や、数年ごとの監査・更新といった書類仕事の手間は一切発生しません。自社の経営陣の意思決定や日々の業務プロセスにこの思考の枠組みを取り入れ、実務として活用すること自体が、ISO 31000 を「導入する」ということになります。
Q2. 総務部などの専門部署がない、規模の小さな中小企業でも ISO 31000 は使えますか?
はい、まったく問題なく、むしろリソースに限りのある中小企業こそ大きな効果を発揮します。大手企業のように豊富な資金がないからこそ、「限られた経営資源をどのリスク対策に集中させるか」という優先順位付けが、経営の成否に直結するからです。ISO 31000 は企業の規模や業種を問わずに適用できるよう、汎用的に設計されたフレームワークです。新たに専門部署を立ち上げたり担当者を雇ったりする必要はなく、経営者さま自身の「ものごとを判断するモノサシ」として、今日からでも柔軟に取り入れることが可能です。
Q3. 自社のリスクの「棚卸し」をしたいのですが、まず何から着手すればよいでしょうか?
まずは難しく考えず、「もし明日、自社の機能が不測の事態で3日間完全に止まってしまったら、何が起きるか?」をノートに書き出すことから始めるのがおすすめです。現場での大事故、サイバー攻撃によるシステム障害、主要取引先の突然の倒産、キーパーソン(幹部や職人さん)の突然の離脱など、具体的に想定される深刻な事態を挙げていくことで、自社が本当に守るべきリスクの輪郭が、驚くほどはっきり見えてきます。次回のコラムでは、この「リスクの棚卸し」の具体的な実践ステップを、さらに深掘りして解説します。
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