海外出張規程はあるか?整備のポイント

海外出張規程はあるか?整備のポイント

SUMMARY 記事のまとめ

従業員を海外へ送り出す企業にとって、「海外出張規程」は経費の取り扱いを定めるだけのものではありません。前回お伝えした「安全配慮義務」を、現場で実行するための仕組みでもあります。本記事では、海外出張規程に盛り込むべき項目を「経費・手続き」と「安全管理」の両面から整理し、中小企業が無理なく整備を進めるためのポイントを解説します。

なぜ「海外出張規程」が必要なのか

POINT

海外出張規程は「経費の公平な運用」と「税務上の説明」に加えて、前回解説した安全配慮義務を実行する土台になります。ルールがあいまいなままでは、いざという時に動けません。

前回の記事では、企業が従業員の海外出張に対して負う「安全配慮義務」についてお話ししました。では、その義務を実際の現場でどう果たすのか——その答えのひとつが、海外出張規程の整備です。

海外出張規程には、大きく3つの役割があります。

  • ⚖️公平な運用:誰が出張しても同じ基準で旅費・日当が支給され、社内の不公平感をなくす
  • 📊税務上の説明:日当などの支給に明確な根拠を持たせ、税務調査でも説明できる状態にする
  • 🛡️安全管理の土台:出張前の手続きや緊急時の対応をルール化し、安全配慮義務を実行できる仕組みにする

特に3つ目は見落とされがちです。経費の規程は整っていても、「誰が・どこへ・いつ行くか」を会社が把握する仕組みや、現地でトラブルが起きた時の対応ルールが無ければ、安全配慮義務を果たしているとは言えません。経費と安全、その両輪で考えることが大切です。

規程に盛り込むべき項目:経費・手続き編

POINT

海外は国内より費用がかさみ、渡航先で物価も大きく異なります。役職別・地域別の設定や、航空機クラスの規定など、国内規程より詳細に定めるのが基本です。

まずは、規程の土台となる経費・手続きの項目です。海外出張は国内より多くの費用が発生し、渡航先によって物価も大きく変わるため、国内の規程より詳細な設定が求められます。

項目 定めておくべき内容の例
総則・定義 適用範囲(対象となる従業員)、「海外出張」の定義、労働時間の取り扱い
旅費・交通 航空機のクラス(役職別にエコノミー/ビジネス等)、現地交通費の扱い
日当・宿泊費 役職別・渡航先の地域別の日当額、宿泊費の上限または定額
申請・精算 出張申請の期限、仮払いの方法、帰社後の精算フロー、領収書紛失時の扱い

日当の金額には「これが正解」という決まった額はありませんが、世間相場と大きくかけ離れた高額な設定は、税務調査で否認されるリスクが高まります。財務省や民間の調査による相場データを参考に、自社の規模や実態に合った水準を定めるのが安全です。

規程に盛り込むべき項目:安全管理編

POINT

ここがキールの考える、海外出張規程の核心です。安全配慮義務を「予見・回避・対応」の流れでルール化することで、規程が”従業員を守る仕組み”になります。

経費の規程に加えて、ぜひ盛り込んでいただきたいのが「安全管理」の項目です。これは、前回お伝えした安全配慮義務を、規程という形で実行可能にするものです。出張の時間軸に沿って、3つの段階で考えると整理しやすくなります。

1
出張前:危険を「予見」する手続き

渡航先のリスク情報(治安・医療・感染症)を確認する手順や、外務省の海外安全情報のレベルに応じた渡航可否の判断基準を定めます。「誰が・どこへ・いつ行くか」を会社が把握する申請ルールも、ここに含めます。

2
出張中:緊急時の「対応」ルール

事故・病気・災害が起きた際の連絡体制(誰に・どう連絡するか)、時差を考慮した連絡可能時間、安否確認の方法を明文化します。出張者が迷わず動けるよう、緊急連絡先を一覧化しておくことも有効です。

3
備え:リスクの「移転」に関する定め

会社として海外出張時の保険等にどう備えるか、その方針を規程に位置づけます。高額な医療費や緊急移送など、自社だけでは負いきれないリスクへの備えを「会社の責任範囲」として明確にしておくと、いざという時の対応がスムーズです。

この「予見 → 対応 → 移転」という流れは、国際的なリスクマネジメント規格ISO 31000の考え方に沿ったものです。規程に安全管理を組み込むことで、出張のたびに場当たり的に判断するのではなく、会社として一貫した備えができるようになります。

中小企業が無理なく整備を進めるには

POINT

完璧な規程を一度に作ろうとせず、まずは「現状把握」と「最低限の安全ルール」から。少しずつ育てていくのが、無理なく続けるコツです。

「これだけの項目を一度に整えるのは大変」と感じるかもしれません。中小企業では、まず次の順序で進めるのが現実的です。

1️⃣ 現状を把握する

誰が・どの国へ・どのくらいの頻度で出張しているかを整理。自社の海外出張の実態を知ることが出発点です。

2️⃣ 最低限を先に定める

日当の基準と、緊急時の連絡体制。この2つだけでも先に明文化すれば、公平性と安全管理の土台ができます。

3️⃣ 運用しながら育てる

実際の出張で見えた課題を反映し、規程を少しずつ更新。完璧を目指すより、運用して育てる発想が大切です。

テンプレートを使えば、経費・手続きの部分は比較的かんたんに形にできます。一方で、自社の事業や渡航先に合った「安全管理」の部分は、リスクの専門家と一緒に設計すると、より実効性のあるものになります。

まとめ:規程は「経費のルール」であり「守る仕組み」

海外出張規程の整備について、要点を振り返ります。

  • 海外出張規程は公平な運用・税務上の説明・安全管理の3つの役割を持つ
  • 経費・手続きは、役職別・地域別など国内より詳細に定めるのが基本
  • 日当は世間相場とかけ離れると税務上のリスクがある
  • 安全管理を「予見 → 対応 → 移転」で組み込むと、安全配慮義務を実行できる
  • 中小企業は現状把握 → 最低限 → 運用しながら育てる順で進めるのが現実的

海外出張規程は、経費を管理するルールであると同時に、従業員を守るための仕組みでもあります。株式会社キールは「向かい風を、推進力へ」をフィロソフィーに掲げ、ISO 31000の考え方に基づくリスクコンサルティングで、企業の規程づくりと安全管理を支えています。

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よくあるご質問(FAQ)

Q1. 国内の出張旅費規程があれば、海外用は別に作らなくてもよいですか?

海外出張の機会がある場合は、国内とは別に海外出張規程を設けるのがお勧めです。作成の考え方は国内規程と同じですが、海外はより多くの費用が発生し、航空機のクラスや渡航先の地域別の日当など、国内にはない要素が加わります。また、安全管理の面でも、海外は国内と比べてリスクの種類や大きさが異なります。国内規程に海外の章を追加する形でも構いませんが、海外特有の項目をきちんと盛り込むことが大切です。

Q2. 日当はいくらに設定すればよいですか?相場はありますか?

日当に「これが正解」という決まった額はなく、企業の規模や実態によって異なります。財務省や民間の調査機関が、上場企業などを対象にした出張旅費の相場データを公表しているので、それらを参考に水準を決めるのが一般的です。注意したいのは、世間相場と大きくかけ離れた高額な日当を設定すると、税務調査で否認されるリスクが高まる点です。物価上昇や円安、渡航先の物価差なども考慮しつつ、説明できる根拠を持った金額に設定することをお勧めします。

Q3. 規程に「安全管理」を入れる場合、何から書けばよいですか?

まずは「出張前のリスク確認」と「緊急時の連絡体制」の2つから始めるのがお勧めです。出張前については、外務省の海外安全ホームページで渡航先の情報を確認する手順や、危険度の高い地域への渡航可否の判断基準を定めます。緊急時については、事故や病気の際に誰に・どう連絡するかを明文化します。この2つだけでも、安全配慮義務を実行する土台になります。自社の事業や渡航先に合わせた詳細な設計は、リスクの専門家と一緒に進めると実効性が高まります。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キールを設立。高度なリスクコンサルティングを通じて、皆様の安心とこれからの挑戦を支える最高峰のリスクマネジメントを提供している。