警備業の安全とリスクマネジメント | 交通誘導と過失割合
- 交通誘導中の事故では、運転者にも信号順守・安全確認の義務があり、その過失が問われることがほとんどです。
- 過去の裁判例には、警備員側の過失が2〜3割程度にとどまった例があります(東京地裁 平成15年・平成20年ほか)。
- 過失割合は事案ごとに異なり、結論を保証するものではありません。責任は会社(使用者)に及び、賠償の備え(保険など)で対応されるのが一般的です。
交通誘導中に事故が起きたとき、警備会社の経営者がまず気にかけるのは、「この事故で、会社はどこまでの責任を負うことになるのか」という点だと思います。隊員と会社の双方を守るために、過去の裁判例では過失割合がどう判断されてきたのかを、客観的に整理します。
前提 ── 交通誘導に「強制力」はない
まず押さえておきたいのは、交通誘導員が行う「交通誘導」は、警察官の行う「交通整理」とは性質が異なるという点です。警備業法第15条は、警備員が法律上特別な権限を与えられたものではないと定めています。つまり、誘導はあくまでドライバーの任意の協力にもとづくものです。
このことは、ドライバー側の義務にも関わります。ドライバーには、警備員の合図があってもなお、信号を守り、自ら安全を確認する義務があります(道路交通法)。そのため、交通誘導が絡む事故であっても、ドライバー側の過失が問われることがほとんどです。
過去の裁判例に見る、過失割合の例
実際の裁判例では、警備員側の過失が比較的小さく認定された例もあります。いくつか紹介します。いずれも個別の事情にもとづく判断であり、同じ状況なら同じ割合になるというものではありません。
交差点の対面信号が「直進・左折可」の青矢印を表示しているなか、警備員が右折してよい旨の合図を出し、これに従って右折した車両が、対向車線の直進車両と衝突した事故。裁判所は、警備員の誘導と事故の因果関係を認めつつ、信号に従う運転者の基本的な義務に違反した過失は重大であるとして、過失割合を運転者70・警備員側30としました。
駐車場で、警備員の誘導に従って駐車しようとした車が、ポールに接触した単独事故。裁判所は、車と駐車位置の関係を把握すべきは一次的には運転者であるとしながら、警備員にも接触しないよう配慮を促す注意義務があったと認定し、過失割合を運転者70・警備員側30としました。
給油所で、従業員の誘導により後退した大型車が計量器に接触・破損させた事故について、誘導指示に過失があったとして、誘導側に2割の過失相殺を認めた例です。
これらはいずれも、誘導側(警備員側)の過失が2〜3割程度にとどまった例です。一方で、信号に明確に反する誘導など、状況によっては警備員側の過失がより重く判断された裁判例もあります。過失割合は、誘導の内容、信号や道路の状況、ドライバーの行動などを総合して、事案ごとに判断されます。
ここから言えること
- 交通誘導が絡む事故でも、運転者には信号順守・安全確認の義務があり、その過失が問われることがほとんどである。
- 警備員の誘導に過失があり、それが事故と結びついた場合には、警備員側にも一定の過失が認められる。
- その割合は、誘導の内容や状況によって幅があり、一律には決まらない。
重要なのは、これらが「過去の一例」であって、目の前の事故の結論を保証するものではない、という点です。実際の過失割合は、事故ごとの具体的な事情によって判断されます。
会社としての備え
交通誘導中の事故で警備員側に過失が認められた場合、その賠償は、警備員個人ではなく、所属する警備会社が負うのが一般的です(使用者責任)。そして実務上は、警備会社が加入する賠償の備え(保険など)によって対応されることが多くなっています。
そのうえで、最も大切なのは事故を起こさないことです。立ち位置や合図の徹底、保安資機材による視認性の確保、そして誘導の状況を記録しておくこと。こうした日々の積み重ねが、事故そのものを減らし、万一のときに事実を確認できる備えにもなります。減らしきれないリスクへの備え方(保険など)については、自社の状況に応じて、中立の立場で整理します。
おわりに
交通誘導の事故と過失割合は、経営者にとって気がかりなテーマです。過去の裁判例を知っておくことは、いざというときに落ち着いて対応するための一助になります。ただし、個別の事案は状況によって判断が分かれます。自社の現場でどんな備えができるか、実際の事故対応で困ったときにどう動けばよいか——そうしたご相談は、保険や法律の専門家とも連携しながら、お受けします。
よくあるご質問(FAQ)
運転者には信号順守・安全確認の義務があり、その過失が問われることがほとんどです。過去の裁判例には、警備員側の過失が2〜3割程度にとどまった例もあります。ただし割合は事案ごとに異なります。
一般的には、警備員個人ではなく、所属する警備会社が責任を負います(使用者責任)。実務上は、会社が加入する賠償の備え(保険など)で対応されることが多くなっています。
警備業法第15条により、警備員に特別な権限は与えられていません。誘導はドライバーの任意の協力にもとづくものです。ただし、誘導に過失があり事故と結びついた場合には、責任を負うことがあります。
個別の事案は状況によって判断が分かれます。過去の裁判例はあくまで参考であり、実際の対応は保険会社や専門家にご確認ください。
- 参考:警備業法、道路交通法、民法(使用者責任)/東京地裁平成15年9月8日判決、東京地裁平成20年7月22日判決、東京地裁昭和52年8月30日判決ほか。個別の事案の判断は、保険会社・専門家にご確認ください。

