交通誘導中の事故 ── データで見る、警備業で最も重いリスクと現場の予防

交通誘導中の事故のリスクと予防を示す図版 警備業の安全とリスクマネジメント | 交通誘導
SUMMARY | 記事のまとめ
  • 令和7年、警備業の死亡災害24人のうち13人(54.2%)が道路上の交通事故によるもの。交通誘導は、警備業でもっとも死亡に直結しやすい業務です。
  • 国のガイドラインでも、交通誘導の作業中に起きた災害は警備業の労働災害の約2割。ただしその交通誘導中の災害に限ると、半数以上が死亡につながっているとされます。薄暮・夜間や後退車両など、特定の場面に集中します。
  • この記事は「起きた後」ではなく「起きる前」に振り切ります。データで危険を特定したうえで、現場でできる予防を整理します。

交通誘導は、走行する車のすぐそばで行う仕事です。だからこそ、警備業のなかでも事故が重くなりやすい業務です。まずは「どこに危険が集中しているのか」を客観的なデータで押さえ、そのうえで、現場で今日からできる予防に落とし込んでいきます。

このコラムの根拠データ 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月)/「警備業における労働災害防止のためのガイドライン」(安全衛生情報センター)にもとづきます。数値は警備業の休業4日以上の死傷・死亡災害です。

データで見る ― 交通誘導は「死亡に直結する」業務

警備業の死亡災害は令和7年で24人と、件数自体は多くありません。けれど、その内訳を見ると傾向ははっきりしています。

54.2%
死亡24人のうち
交通事故(道路)が13人
296
死傷のうち
交通事故(道路)
約20%
交通誘導の災害
(うち半数以上が死亡)

死亡24人のうち13人、54.2%が道路上の交通事故によるものでした。休業4日以上の死傷でも、交通事故(道路)は296人にのぼります。国のガイドラインによれば、警備業の労働災害のうち、交通誘導の作業中に起きたものは全体の約2割を占めます。ただし、その交通誘導中の災害に限ると、半数以上が死亡につながっているとされます。被災した方の約6割が50歳以上、という傾向もあります。

つまり交通誘導は、転倒のように件数が突出して多いわけではないものの、一件あたりの重さが段違いの業務です。だからこそ、起きてから考えるのでは間に合いません。

なぜ起きるのか

交通誘導の事故は、いくつかの要因が重なって起きやすいと考えられます。断定はできませんが、データと現場の状況からは、次のような場面が浮かび上がります。

事故が起きやすい場面
  • 逃げ場の少なさ:走行・後退する車両のすぐ近くで作業するため、とっさに退避しにくい。
  • 視認性の低下:薄暮・夜間・雨天などで、ドライバーから警備員が見えにくくなる。
  • 死角:後退する車両や右左折車の死角に入りやすい。
  • 制御できない相手:ドライバー側の不注意や速度は、警備員が直接コントロールできない。
  • 年齢の影響:被災者に高年齢層が多く、とっさの回避が難しくなる場面もある。

これらは「気をつけていなかったから」起きるとは限りません。むしろ、個人の注意だけでは防ぎきれない構造がある、と捉えるほうが実態に近いといえます。だからこそ、現場の仕組みで備えることが大切になります。

現場でできる予防

交通誘導の事故は、現場の工夫で「起こりにくく」できます。一人の注意に頼るのではなく、立ち位置・見え方・合図・配置を、現場の仕組みとして整えることが要点です。

立ち位置と退避
  • 走行車両に背を向けず、車の動きを視野に入れられる位置に立つ。
  • 万一のときに退避できるスペースを、あらかじめ確保しておく。
  • 後退車両の通り道や死角に長くとどまらない。
見え方(視認性)
  • 反射材・自発光ベスト、夜間の照明で「見られる」状態をつくる。
  • カラーコーン・矢印板・点滅灯などの保安資機材で、ドライバーに早く・正しく伝える。
  • 薄暮の時間帯は特に視認性が落ちることを前提に配置する。
合図と配置
  • 明確で一貫した合図を心がけ、無理な誘導をしない。
  • 見通しの悪い現場では、単独に頼らず複数で配置し、役割を分ける。
  • 現場に入る前に、その周辺で過去にどんな事故が起きているかを把握しておく。

最後の「事前に知る」は、意外と見落とされがちですが効果的です。下に挙げた無料ツールで、現場周辺の事故の傾向を地図で確認できます。出発前のひと手間が、当日の判断を変えます。

まとめ
  • 令和7年、警備業の死亡の54.2%(13人)が道路上の交通事故。交通誘導は最も死亡に直結しやすい業務。
  • 逃げ場の少なさ・視認性・死角・相手の不注意・年齢の影響が重なって起きやすい。
  • 個人の注意ではなく、立ち位置・視認性・合図・配置という現場の仕組みで予防する。
  • 現場に入る前に、周辺の事故傾向を知っておくことが第一歩になる。

なお、予防を尽くしてもなお避けきれないリスクについては、リスクの移転(保険など)で備えるという考え方もあります。本記事は予防を主題としており、特定の商品を勧めるものではありません。

おわりに

交通誘導は、社会の通行を支える欠かせない仕事です。その現場で、隊員が無事に一日を終えられること。それを支えるのが、データにもとづく予防の積み重ねです。自社の現場のリスクをどう整理すればよいか迷うときは、何から考えればよいか分からない段階でも、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 交通誘導は、なぜそんなに危険なのですか。

走行する車のすぐそばで作業し、逃げ場が少ないためです。令和7年の警備業では、死亡災害の54.2%が道路上の交通事故によるものでした。件数より「一件の重さ」が大きい業務だといえます。

Q2. 現場では何に気をつければよいですか。

立ち位置(車に背を向けない・退避スペースの確保)、視認性(反射材・照明・保安資機材)、合図(明確で一貫させる)、配置(見通しの悪い場所は複数で)です。とくに薄暮・夜間は視認性が落ちる前提で備えます。

Q3. 高年齢の警備員が多いと聞きます。何かできることは。

交通誘導の被災者には50歳以上が多く、とっさの回避が難しくなる場面があります。休憩や薄暮時間帯の注意、無理のないシフトや配置など、年齢を踏まえた現場の仕組みで支えることが有効です。

Q4. 現場に入る前にできる準備はありますか。

その現場の周辺で、過去にどんな事故が起きているかを知っておくことです。無料の交通事故データマップや警備業KYツールで、地域の事故の傾向を事前に確認できます。出発前のひと手間が当日の判断を助けます。

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ABOUT THE AUTHOR | 執筆者
真下 恭徳(株式会社キール 代表取締役)

2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キールを設立。高度なリスクコンサルティングを通じて、皆様の安心とこれからの挑戦を支える最高峰のリスクマネジメントを提供している。

法人向けリスクマネジメント
  • 出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月、労働者死傷病報告・死亡災害報告。新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害を除く)
  • 参考:警備業における労働災害防止のためのガイドライン(安全衛生情報センター)