「リスク=悪」ではない?ISO31000で読み解く中小企業の攻めと守り

リスクは悪ではない

SUMMARY 記事のまとめ

「リスク」と聞くと避けるべき悪のように感じられますが、ISO31000はリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。本記事では、中小企業の経営者が知っておきたいリスクの本当の意味と、攻めと守りを両立する経営戦略への活かし方を、ISO31000の視点からわかりやすく解説します。

そもそも「リスク」とは何か?多くの経営者が誤解している定義

POINT

ISO31000では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。マイナスの可能性(危険)だけでなく、プラスの可能性(機会)も含む、中立的な概念です。

中小企業の経営者の方とお話ししていると、「リスク」という言葉に対して、ほぼ全員が同じ反応を見せます。「危険なもの」「避けるべきもの」「マイナスのこと」と。確かに日本語の「リスク」には、危機・損失・脅威といったネガティブなイメージが強く結びついています。

しかし、リスクマネジメントの国際規格である「ISO31000」は、リスクをこう定義しています。

「リスクとは、目的に対する不確かさの影響である」(ISO31000より)

ここで重要なのは「不確かさ」という言葉です。事業を進める中で、結果がはっきりと予測できない要素はすべて「リスク」に含まれます。新しい商品を出して大ヒットするかもしれない。雨が降って工事が止まるかもしれない。市場が拡大するかもしれないし、縮小するかもしれない。これらすべてが、ISO31000における「リスク」なのです。

つまりリスクには、マイナスの影響(危険・脅威)もあれば、プラスの影響(機会・成長)もあります。これを理解することが、ISO31000を活用する第一歩です。

ISO31000が示す「攻めと守りのリスク」とは

POINT

リスクには事業を脅かす「守りのリスク」と、成長機会である「攻めのリスク」の2種類があり、両方を意識的に管理することが企業の持続的成長を生みます。

ISO31000の枠組みで整理すると、リスクは大きく2つに分類できます。

リスクの分類 ビジネスにおける具体例
守りのリスク
(マイナスの不確かさ)
事故・災害・賠償請求・情報漏洩・人材流出・法令違反・取引先倒産・自然災害など
攻めのリスク
(プラスの不確かさ)
新規事業参入・海外進出・新製品開発・設備投資・M&A・人材採用・新規市場開拓など

多くの中小企業では、「守りのリスク」だけに目が向きがちです。確かに事故や賠償リスクへの備えは経営の基本ですが、それだけでは企業は成長しません。一方で、「攻めのリスク」を取ることなしに、新しい挑戦も生まれません。

株式会社キールが大切にしているフィロソフィー「向かい風を、推進力へ」は、まさにこの考え方を表しています。リスク(向かい風)を恐れて立ち止まるのではなく、リスクを認識し、評価し、適切に管理することで、推進力(事業成長)へと変えていく。これがISO31000の本質です。

中小企業がISO31000を活用するメリット

POINT

ISO31000は認証取得の規格ではなく、思考の枠組みです。経営判断の質を高め、銀行・取引先・採用市場からの信頼を獲得する強固な経営インフラとなります。

「ISO」と聞くと、認証取得や監査・更新といった重い仕組みをイメージされるかもしれません。しかしISO31000は、ISO9001(品質)やISO27001(情報セキュリティ)とは異なり、認証を取得する種類の規格ではありません。あくまでも「リスクマネジメントの考え方の枠組み」を示すガイドラインです。

中小企業がISO31000の考え方を経営に取り入れることで、次のような大きなメリットが期待できます。

  • 📈経営判断の質が上がる:勘や経験だけに頼らず、不確かさを定量的に評価する習慣が社内に身につく
  • 🛡️事業の継続性が高まる:守りのリスクを体系的に整理し、事前に実効性のある対応策を準備できる
  • 🚀挑戦の幅が広がる:攻めのリスクを自社の「許容可能な範囲」内でロジカルに取れるようになる
  • 🤝外部からの信頼が増す:銀行・取引先・採用市場で「リスク管理体制が整った先進企業」と評価される
  • 📝BCP策定の土台になる:経済産業省が推進する「事業継続力強化計画(BCP)」の策定にもスムーズに応用できる

特に近年、大手取引先や金融機関は、中小企業に対しても一定のリスクマネジメント体制を強く求める傾向にあります。サプライチェーン全体での信頼性を担保するため、自社のリスクをきちんと把握・管理していること自体が、新しいビジネス機会の獲得に直結する時代です。

リスク対応の4つの選択肢:回避・低減・保有・移転

POINT

ISO31000では、リスクへの対応を「回避・低減・保有・移転」の4つに整理します。それぞれの特性を理解し、リスクごとに最適な組合せを選ぶことが重要です。

リスクを認識した次のステップは、「どう対応するか」です。ISO31000では、リスク対応の選択肢を以下の4つのマトリクスに整理しています。

リスク対応 対策の定義・内容 具体的なアクション例
回避 リスクのある活動そのものを行わない 危険性の高すぎる新規事業領域・国から撤退する
低減 トラブルの発生確率や、起きた際の影響度を下げる 社内安全教育の徹底、設備の改善、品質管理体制の強化
保有 リスクをある程度受け入れ、自社の体力で備える 緊急時用の内部留保(現預金)の積み増し、自家保険
移転 契約等により、他者にリスクを引き受けてもらう 適切な民間保険の活用、業務委託、契約書での免責条項

多くの中小企業では、「リスクへの備え=とりあえず保険に入ること(移転)」と捉えがちですが、これはプロの観点から見ると大きな誤解です。本来は、まず「回避」「低減」で自社でできる社内対策を尽くした上で、それでも現場に残ってしまう不可抗力な部分について「保有」と「移転」を美しく組み合わせるのが正しい順序です。

例えば、従業員の労災リスクであれば、まず安全教育の徹底(低減)を行い、業務プロセスを根本から改善し(低減)、それでも残る業務上の災害リスクについて、最後のセーフティネットとして民間保険(移転)を調達する。この順序を間違えると、「保険料は支払っているが、一向に現場の事故が減らない」という本末転倒な事態に陥ってしまいます。

まとめ:リスクは「向かい風」、活かせば経営の「推進力」になる

本記事では、ISO31000が示す「リスク」の本当の定義と、中小企業の経営者がこれをどう戦略的に活用すべきかを解説しました。最後に重要なポイントを振り返ります。

  • リスクは単純な「悪」ではなく、「目的に対する不確かさの影響」である
  • リスクには会社を守る「守り(マイナス)」と、成長へ導く「攻め(プラス)」の両面がある
  • ISO31000は面倒な認証規格ではなく、経営判断をクリアにする最高峰の思考の枠組みである
  • リスク対応の選択肢は「回避・低減・保有・移転」の4つに過不足なく整理できる
  • 正しい順序は、まず自社の取組(回避・低減)を最大化し、その後に外部活用(保有・移転)を組む

株式会社キールでは、フィロソフィー「向かい風を、推進力へ」のもと、ISO31000の科学的なフレームワークをベースにした専門的なリスクマネジメントを行っています。「自社の経営リスクをどう棚卸しすればよいかわからない」「毎年保険料を支払っているけれど、本当に過不足なく備えられているか不安」といったご相談を、初回無料にて承っております。

リスクは決して恐れるものでも、見て見ぬふりをするものでもありません。正しく認識し、適切に管理することで、御社の事業を次なるステージへ前進させる最高の推進力に変えていくことができます。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. ISO31000の認証を取得するには、具体的にどのような手続きが必要ですか?

ISO31000は、ISO9001(品質管理)やISO27001(情報セキュリティ)といった他のISO規格とは根本的に異なり、認証を取得する種類の規格ではありません。あくまでも「リスクマネジメントのあるべき考え方を示した国際的なガイドライン(指針)」です。そのため、第三者機関による煩雑な認証審査や、数年ごとの監査・更新といった書類仕事の手間は一切発生しません。自社の経営陣の意思決定や日々の業務プロセスにこの思考の枠組みを取り入れ、実務として活用すること自体が、ISO31000を「導入する」ということになります。

Q2. 総務部などの専門部署がない、規模の小さな中小企業でもISO31000は使えますか?

はい、全く問題なく、むしろリソースに限りのある中小企業こそ大きな効果を発揮します。大手企業のように豊富な資金がないからこそ、「限られた経営資源をどのリスク対策に集中させるか」という優先順位付けが経営の成否に直結するからです。ISO31000は企業の規模や業種を問わずに適用できるよう汎用的に設計されたフレームワークです。新たに専門部署を立ち上げたり担当者を雇ったりする必要はなく、経営者様自身の「ものごとを判断するモノサシ」として今日からでも柔軟に取り入れることが可能です。

Q3. 自社のリスクの「棚卸し」をしたいのですが、まず何から着手すれば良いでしょうか?

まずは難しく考えず、「もし明日、自社の機能が不測の事態で3日間完全に止まってしまったら、何が起きるか?」をノートに書き出すことから始めるのが非常におすすめです。現場での大事故、サイバー攻撃によるシステム障害、主要取引先の突然の倒産、キーパーソン(幹部や職人様)の突然の離脱など、具体的に想定される致命的な事態を列挙していくことで、自社が本当に守るべきリスクの輪郭が驚くほどクリアに見えてきます。次回のコラムでは、この「リスクの棚卸し」の具体的な実践ステップをさらに深掘りして解説いたします。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店にて中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キールを設立。高度なリスクコンサルティングを通じて、皆様の安心とこれからの挑戦を支える最高峰のリスクマネジメントを提供している。