ドライブレコーダーの映像を安全教育に使う|社用車の事故を減らす振り返りの手順

ドライブレコーダーの映像を安全教育に使う|社用車の事故を減らす振り返りの手順を解説する株式会社キールのコラム
SUMMARY
  • ドライブレコーダーは、事故の記録のためだけの機械ではありません。国土交通省のマニュアルは、映像で運転を「見える化」し、運転者を事故から守ることと、適切に運転していた運転者を責任問題から守ることの二つに役立つとしています。
  • 指導の基本は、①映像の確認・収集 → ②分析 → ③個別指導 → ④フォローアップ → ⑤全体への共有の流れです。
  • うまくいく会社とそうでない会社の差は、映像を「叱る材料」にするか「一緒に振り返る教材」にするかです。一方的に指摘するのではなく、本人に考えさせる質問から入ることが勧められています。
  • 映像には社員本人が映ります。使う前に、目的・見る人・保存期間を社内規程で決めて周知しておくことが、信頼して使い続けるための土台です。

ドライブレコーダーの映像を、叱る道具ではなく「振り返りの教材」にする

社用車にドライブレコーダーを付けている会社は増えています。ところが、「付けてはいるが、事故のときに映像を確認するだけ」という声もよく聞きます。それでは、せっかくの記録が事故が起きた後にしか役立ちません。

結論から申し上げると、ドライブレコーダーの価値が最も大きいのは、事故が起きる前です。ヒヤリとした場面の映像を、運転者本人と一緒に振り返る。この習慣が、次の事故を防ぎます。本コラムでは、国土交通省が作成したマニュアルをもとに、その手順を整理します。

出典:自動車運送事業に係る交通事故対策検討会「ドライブレコーダーの映像を活用した指導・監督マニュアル」(平成29年3月、国土交通省)。貸切バス事業者向けに作られたものですが、映像の見方と指導の進め方は、社用車を使う会社にも参考になります。

本コラムは、不安を煽るためのものではありません。「向かい風を、推進力へ」——すでに車に付いている機械を、事故を減らす仕組みに変えるための情報提供です。

課題の深掘りと、見落としがちなリスクの可視化

ドライブレコーダーを付けても事故が減らない会社には、共通するつまずきがあります。三つの観点で整理します。

① 映像が「叱る材料」になっている

事故やクレームのたびに映像を見せて注意する。これを続けると、運転者にとってドライブレコーダーは「監視の目」になります。マニュアルは、管理者が先に見つけた問題点を一方的に説明しても、運転者の気づきにつながらず、改善しないことが多いと指摘しています。大事なのは、運転者が自分で問題に気づくこと。そのための教材として映像を使います。

② 事故の映像しか見ていない

大きな事故の手前には、小さな事故やヒヤリとした場面が数多くあります。マニュアルは、大事故も小事故もヒヤリ・ハットも根本の原因は同じで、小さな場面の原因を減らすことが大事故の防止につながるとしています。ところが、自分に原因があるヒヤリ・ハットは、運転者から報告が上がりにくいものです。報告しやすい仕組みがなければ、映像は事故の後にしか見られません。

③ 映像の扱いのルールがない

車内向きのカメラがあれば、映像には運転者の顔や会話が残ります。誰が、何のために、いつまで見るのか。これが決まっていないまま指導に使うと、社員の不信感を招き、仕組みそのものが続きません。使う前にルールを決めることが、実は一番の近道です。

国土交通省のマニュアルが示す、映像を使った指導の流れ
  • ①確認・収集:少なくとも「事故」「ヒヤリ・ハット」「運転に関する苦情」の場面は、映像を確認して切り出して保存する
  • ②分析:まず事故等の3分前から通して見て、コマ送りで何度も見返す。運転者・相手・車両・走行環境・運行管理の5つの視点で考える
  • ③個別指導:一方的に指摘せず、本人に考えさせる質問から入る。急ぎや焦りなど背景の原因まで踏み込む
  • ④フォローアップ:1〜2週間後に、最低でも3分程度を2か所ほど確認し、指導が反映されているかを見る
  • ⑤全体への共有:年1回以上、ヒヤリ・ハットや良い運転の映像を使って参加型で教育する

※出典:自動車運送事業に係る交通事故対策検討会「ドライブレコーダーの映像を活用した指導・監督マニュアル」(平成29年3月)。貸切バス事業者向けの資料です。

事故が起きる前に。今日から実践できる「リスク低減」の備え

キールが本質と考えるのは、事故が起きてからの対応ではなく、起こさせない備えです。ISO31000の「回避・低減・移転・保有」(避ける・減らす・移す・受け入れる)でいえば、中心は低減です。社用車を持つ会社が、今週から着手できる手順を挙げます。

1. 先に「映像の使い方のルール」を決めて、全員に知らせる

個人情報保護委員会は、従業者を対象とするビデオ等によるモニタリングについて、次のような点を留意点として示しています。ドライブレコーダーの映像を指導に使う場合も、この考え方が参考になります。

  • 目的をあらかじめ特定し、社内規程等に定めて、従業者に明示する
  • 実施の責任者と、その権限を定める
  • 実施のルールを決め、運用する人に徹底する
  • ルールどおりに運用されているかを確認する

あわせて、重要な事項を定めるときは労働組合等にあらかじめ知らせ、必要に応じて協議することが望ましいとされています。具体的には「安全教育と事故対応のためにだけ使う」「見るのは安全運転管理者と所属長だけ」「保存期間は○か月」といった内容を、就業規則や車両管理規程に書いておきます。

出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(Q5-7)

2. ヒヤリ・ハットを「報告してよかった」にする

マニュアルは、ヒヤリ・ハットの自己申告を促す工夫として、報告は危険を正しく認知できている証だと伝えること、「安全参考情報」など前向きな呼び方にすること、口頭での報告も認めて手間を減らすことなどを挙げています。苦情からヒヤリ・ハットが見つかっても、事前に自己申告があれば強く注意しない、という運用も紹介されています。「報告した人が損をしない」ことが、映像が集まる会社の条件です。

3. 映像は「3分前から」「5つの視点で」見る

事故の瞬間だけを見ると、「よそ見をしていた」で終わってしまいます。数分前から見ると、渋滞で予定が遅れていた、慣れない道だった、前の車の動きが不安定だった、といった背景が見えてきます。運転者の問題だけでなく、相手・車両・走行環境・運行管理(無理な予定になっていないか)まで見ることで、会社として直すべき点が見つかります。

4. 振り返りは「質問」から始める

個別の振り返りでは、いきなり「ちゃんと確認したのか」と聞かないことが大切です。マニュアルは、最初の質問を「はい・いいえ」で答えられるものにせず、「振り返って、何か問題があったと思いますか」「当時の状況を詳しく話してください」のように本人が考える質問にすることを勧めています。本人の認識を聞いてから映像を見て、思っていた運転と実際の運転のずれを一緒に確かめます。決めた再発防止策は、具体的に記録しておきます。

5. 1〜2週間後に、もう一度映像を見る

指導は、言って終わりでは定着しません。1〜2週間後に、同じような時間帯や道路の映像を数分ずつ確認し、決めたことが守られているかを見ます。できていれば、それを本人に伝えることも忘れずに。良い運転を認める場にもなります。

6. 全体で共有するときは、本人への配慮を

ヒヤリ・ハットの映像を朝礼や研修で共有すると、全員の学びになります。その際マニュアルは、映像に出てくる運転者に事前に説明すること、モザイクを入れるなどの配慮をすること、議論が個人への誹謗中傷にならないよう注意することを挙げています。

急ブレーキの記録だけを見ない

多くのドライブレコーダーには、強い衝撃や急ブレーキを検知して映像を残す機能があります。便利ですが、マニュアルは、よそ見・車間距離の詰めすぎ・一時停止の無視など、急な操作を伴わない危険な運転は記録に残らないこと、さらに記録を残さないよう急ブレーキを避けた結果、一時停止をせずに進んでしまう例もあることを注意しています。記録の数だけで運転を評価しないことが大切です。

また、ドライブレコーダーは、もしものときに適切に運転していた社員を守る記録にもなります。事故が起きた後の初動対応は、第19回で整理しています。

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これは保険の勧誘ですか?

いいえ。本コラムは、社用車の事故を未然に防ぐ(リスクの低減)ための情報提供です。特定の商品をおすすめしたり、加入を促したりするものではありません。

ドライブレコーダーの映像を、社員の指導に使ってもよいのですか?

映像には運転者本人が映るため、使う目的・見る人・保存期間などを社内規程で先に定め、従業員に知らせておくことが大切です。個人情報保護委員会は、従業者を対象とするビデオ等によるモニタリングについて、目的を特定して社内規程等に定め従業者に明示すること、責任者と権限を定めることなどを留意点として示しています。

映像はどのくらいの頻度で見ればよいですか?

国土交通省のマニュアルは、少なくとも事故・ヒヤリハット・苦情があったときに映像を確認することを基本とし、個別指導の1〜2週間後に、最低でも3分程度を2か所ほど確認して指導が定着しているかを見ることを勧めています。

自社のリスクを、専門家と一緒に見直しませんか

ドライブレコーダーの映像の扱いのルールづくりから、ヒヤリ・ハットを集める仕組み、振り返りの進め方まで、自社の業務実態に合わせて整えることで定着します。「うちの運用で抜けはないか」を一緒に整理したい経営者・安全運転管理者の方は、法人向けのご相談窓口からお気軽にお問い合わせください。

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真下 恭徳(ました やすのり)
株式会社キール 代表取締役

2017年に三井住友海上火災保険へ入社し、神奈川県央エリアのプロ代理店を担当。オリックス生命保険を経て、2021年からAIG損害保険 横浜支店でICA(法人営業の専門担当)として中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年に株式会社キールを設立。ISO 31000に基づくリスクコンサルティングと、法人向けの損害保険・生命保険の代理店業務を行う。健康経営アドバイザー。
フィロソフィー:向かい風を、推進力へ。