労働災害は会社が小さいほど起きやすい――令和7年データが示す中小企業の現実

労働災害は会社が小さいほど起きやすい――令和7年労働災害動向調査が示す中小企業の現実 法人リスクコラム | 労務・労働災害
SUMMARY | この記事のまとめ
  • 厚生労働省の最新調査(令和7年)によれば、労働災害の発生頻度は、事業所の規模が小さくなるほど高くなる傾向がはっきりと出ています。中小企業ほど、労災のリスクは身近です。
  • 業種によっても傾向が異なり、運輸業などは発生頻度が高く、建設業は頻度こそ高くないものの、起きたときの被害が大きいという特徴があります。
  • 労災は、従業員の安全はもちろん、企業の存続にも関わるリスクです。まず安全管理の徹底(リスクの低減)、そのうえで残るリスクに備える――この順序が大切です。

「うちは大きな事故とは無縁だ」――そう感じている中小企業の経営者の方に、知っていただきたいデータがあります。厚生労働省の最新の調査が示すのは、会社の規模が小さいほど、労働災害は起きやすいという、はっきりとした傾向です。

労働災害は、会社が小さいほど起きやすい

厚生労働省の「労働災害動向調査(令和7年)」では、労働災害の発生頻度を「度数率」という指標で表します。これは、100万延べ実労働時間あたり何人が被災したかを示すもので、数字が大きいほど、災害が頻繁に起きていることを意味します。

この度数率を事業所の規模別に見ると、次のような結果になっています。

事業所規模別の労働災害 度数率(令和7年・調査産業計)
1,000人以上0.63
500〜999人1.43
300〜499人1.97
100〜299人2.69
度数率=100万延べ実労働時間あたりの死傷者数(休業1日以上等)。数字が大きいほど災害の頻度が高い。
出典:厚生労働省「令和7年 労働災害動向調査」(事業所規模100人以上)

1,000人以上の事業所では0.63なのに対し、100〜299人では2.69と、4倍以上の開きがあります。規模が小さくなるほど、きれいに数字が上がっていることが分かります。しかも、この調査の対象は従業員100人以上の事業所です。それより小さな企業では、さらに発生頻度が高い可能性も否定できません。

なぜ、小さい会社ほど起きやすいのか

調査はその理由までは示していませんが、一般に、次のような背景が指摘されています。

1安全管理に割ける人手・体制が限られる

専任の安全管理担当者を置くことが難しく、日々の業務に追われて、安全教育や設備点検が後回しになりやすい傾向があります。

2一人ひとりの作業範囲が広い

少人数で多くの業務を回すため、慣れない作業や兼務が増え、ヒューマンエラーが起きやすくなる場面があります。

3一件の事故が、経営に与える打撃が大きい

同じ一件の労災でも、人員に余裕のない中小企業では、欠員による操業への影響や、補償・対応の負担が、相対的に重くのしかかります。

業種によって、リスクの「形」が違う

労働災害は、業種によってもその現れ方が異なります。発生の「頻度」と、起きたときの「重さ」を分けて見ると、特徴がはっきりします。

発生頻度(度数率)が高いのは、運輸業・郵便業(3.65)や卸売業・小売業(2.10)です。一方、製造業は1.33、建設業(総合工事業を除く)は0.69と、頻度そのものは比較的低めです。

ところが、起きたときの被害の大きさ――死傷者1人あたりの平均労働損失日数を見ると、様相が変わります。

死傷者1人平均労働損失日数(令和7年)
総合工事業 151.8
調査産業計の45.7日、製造業の51.6日と比べても突出しています。建設の現場は、災害の発生頻度は高くなくても、ひとたび起きると重大な結果につながりやすいことを示しています。
出典:厚生労働省「令和7年 労働災害動向調査」

つまり、運輸のように「頻度に注意すべき業種」もあれば、建設のように「頻度は低くても、重大化に注意すべき業種」もある。自社の業種がどちらのタイプかを知ることが、対策の第一歩になります。

このコラムは、不安を煽るためのものではありません。労働災害は、正しく実態を知り、優先順位をつけて対策すれば、確実に減らせるものです。実際に、改善の動きも数字に表れています。
明るい兆しもあります。令和7年調査では、1年間に労働災害が一件も起きなかった「無災害事業所」の割合が55.9%(前年53.1%)に改善しました。また、総合工事業の死傷者1人平均労働損失日数も151.8日(前年296.6日)と大きく低下しています。地道な安全対策は、着実に成果を生んでいます。

中小企業が取るべき備え ― まず安全、そして残るリスクへ

① まず、労働災害そのものを減らす(リスクの低減)

最も大切で、最初に取り組むべきはここです。災害を「起こさない」ための、日々の安全管理です。

1危険の洗い出しと対策自社の作業に潜む危険を洗い出し(リスクアセスメント)、設備・手順・保護具の面から対策を講じます。
2安全教育の習慣化新人や兼務者ほどリスクが高くなりがちです。定期的な安全教育とヒヤリ・ハットの共有を、習慣にします。
3業種特性に合わせた重点対策頻度に注意すべき業種か、重大化に注意すべき業種かを見極め、限られた資源を効果的に配分します。

② それでも残るリスクに、備える

どれだけ対策を尽くしても、労働災害をゼロにすることは容易ではありません。だからこそ、万が一に備えて、従業員への補償(労災保険の上乗せ)や、使用者としての賠償責任への備え(リスクの移転=保険など)を、自社の業種・規模に合わせて整理しておくことにも意味があります。

キールは、ISO31000をベースにリスクを扱う立場から、自社の労災リスクの洗い出しから、安全管理の考え方、なお残るリスクへの備えまでを、中立的に整理するお手伝いをしています。特定の商品を勧めるのではなく、まず自社にどんなリスクがあり、何から手を打つべきかを一緒に考えます。

POINT | まとめ
  • 労働災害の発生頻度は、事業所規模が小さいほど高い。1,000人以上0.63に対し、100〜299人は2.69(令和7年)。
  • 業種で「形」が違う。運輸など頻度が高い業種、建設のように頻度は低いが重大化しやすい業種がある。
  • まず安全管理の徹底(リスクの低減)、そのうえで残るリスクに備える、の順序で。無災害事業所は増加しており、対策は着実に効いている。

本記事は、労務リスク・労働安全に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品その他の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。個別の労災認定や安全衛生上の判断については、所轄の労働基準監督署、社会保険労務士、労働安全コンサルタント等の専門家にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 「度数率」とは何ですか。

100万延べ実労働時間あたりに、労働災害で何人が死傷したか(休業1日以上等)を示す指標です。数字が大きいほど、災害の発生頻度が高いことを意味します。災害発生の「頻度」を表す代表的な指標です。

Q2. なぜ小さい会社のほうが労災が多いのですか。

調査自体は理由を示していませんが、一般に、安全管理に割ける人手や体制が限られること、一人あたりの作業範囲が広く兼務が多いことなどが背景として指摘されています。だからこそ、限られた資源で効果的に対策することが重要になります。

Q3. 建設業は労災が少ないということですか。

いいえ。発生の「頻度」は比較的低めですが、起きたときの「重さ」(死傷者1人平均労働損失日数)は総合工事業で151.8日と突出しています。頻度ではなく重大化に注意すべき業種、と理解するのが適切です。

Q4. 何から始めればよいか分かりません。

まずは自社の作業に潜む危険を洗い出すこと(リスクアセスメント)からです。そのうえで、設備・手順・教育・保護具の面から優先順位をつけて対策し、なお残るリスクへの備えを整理します。キールでは、この洗い出しから中立的にお手伝いしています。

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ABOUT THE AUTHOR | 執筆者
真下 恭徳(株式会社キール 代表取締役)

2017年三井住友海上火災保険入社、神奈川県央エリアの専属プロ代理店を担当。2021年AIG損害保険入社、横浜支店ICAとして中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年株式会社キールを設立。高度なリスクコンサルティングを通じて、皆様の安心とこれからの挑戦を支える最高峰のリスクマネジメントを提供している。

法人向けリスクマネジメント
  • データ出典:厚生労働省「令和7年 労働災害動向調査」(事業所調査 事業所規模100人以上/総合工事業調査)。度数率・死傷者1人平均労働損失日数・無災害事業所割合等は同調査の結果による。
  • 本記事の数値は同調査の概数です。最新かつ正確な情報は、厚生労働省の公表資料をご確認ください。単年の数値は重大災害の発生有無により変動するため、傾向としてご参照ください。