自社の製品・サービスが事故を起こしたら?製造物責任(PL)とリコールリスク

自社の製品・サービスが事故を起こしたら?製造物責任と回収リスク

SUMMARY 記事のまとめ

「きちんと作っているから、うちの製品で事故なんて起きない」——その確信は大切ですが、製造物責任(PL)は、たとえ過失がなくても問われることがある厳しい仕組みです。さらに、事故が起きれば賠償だけでなく「リコール(製品回収)」という多額の費用も発生します。本記事ではISO31000の視点から、PLとリコールという2つのリスクの正体と、「低減」と「移転」による備え方を、製造業・販売業の経営者に向けてわかりやすく解説します。

「過失がなくても責任を問われる」製造物責任(PL)とは

POINT

製造物責任法(PL法)は、製品に「欠陥」があれば、メーカーに過失がなくても賠償責任を負わせる仕組みです。「ミスをしていないから大丈夫」とは限らない点が、通常の賠償との大きな違いです。

製造物責任法(PL法)は、製造・加工した製品の「欠陥」によって、人の生命・身体・財産に損害が生じた場合、製造業者などに賠償責任を負わせる法律です。ここで最も重要なのは、製造業者の「過失」を被害者が証明しなくても、責任を問えるという点です。

通常の損害賠償(民法)では、被害者側が「相手に落ち度(過失)があった」ことを証明しなければなりません。しかしPL法では、被害者は「製品に欠陥があったこと」と「その欠陥で損害を受けたこと」を示せばよく、メーカーが「どれだけ注意していたか」は免責の理由になりにくい。つまり、「うちは丁寧に作っているから大丈夫」という主張だけでは、責任を免れられないのです。

ここでいう「欠陥」は、おおむね次の3種類に整理されます。自社の製品にどの欠陥が起こりうるかを考えることが、備えの出発点になります。

⚙️ ① 製造上の欠陥

設計どおりに作られず、製造過程で品質に問題が生じたケース。異物の混入、部品の取り付け不良、材料の不具合などが該当します。

📐 ② 設計上の欠陥

設計そのものに安全性の問題があるケース。設計どおりに作っても危険が残るため、同じ型の製品すべてに影響が及びやすいのが特徴です。

⚠️ ③ 指示・警告上の欠陥

製品自体は問題なくても、危険性の説明や使用上の注意(取扱説明書・表示)が不十分なケース。「警告すべきことを警告しなかった」点が問われます。

🔁 + 輸入品・自社ブランド品にも注意

PL法で責任を負う「製造業者等」には、製造・加工した事業者だけでなく、輸入した事業者や、他社に作らせた製品に自社の名前を製造業者として表示した事業者も含まれます(第2条第3項)。「作っていないから無関係」とは限りません。なお、仕入れて売るだけの販売業者はPL法の対象外ですが、民法にもとづく責任を問われることはあります(第6条)。

なお、PL法でいう「欠陥」とは、製品の特性や通常予見される使い方、引き渡した時期などを考えて、その製品が通常備えるべき安全性を欠いていることをいいます(第2条第2項)。また、被害が製品そのものだけにとどまる場合は、PL法の対象外です(第3条ただし書き)。被害者の損害賠償の請求権は、損害と賠償義務者を知った時から3年(人の生命・身体の侵害は5年)、または製品を引き渡した時から10年で、時効により消滅します(第5条)。

事故の「次」に来る、リコール(製品回収)という重い負担

POINT

製品事故で発生するのは、被害者への賠償だけではありません。市場に出回った製品を回収・修理・交換する「リコール」には、賠償とは別に多額の費用がかかります。

製品に欠陥が見つかったとき、被害の拡大を防ぐために行うのがリコール(製品回収)です。これは社会的責任として、また被害を最小限に抑えるために重要な対応ですが、経営の面から見ると、賠償金とはまったく別に発生する、非常に重い費用負担でもあります。

リコールにかかる費用は、賠償金本体よりも大きくなることさえあります。具体的には、次のような費用が積み重なります。

リコールで発生する費用 具体的な内容
告知・通知費用 新聞広告・ウェブ告知・対象者への個別通知など、回収を周知するための費用。広く出回った製品ほど大きくなります。
回収・輸送費用 市場や顧客の手元から製品を回収し、運搬するための物流費用。対象数が多いほど膨らみます。
交換・修理・廃棄費用 回収した製品の修理、代替品との交換、または廃棄にかかる費用。代替品の再生産コストも含まれます。
人件費・対応費用 問い合わせ窓口(コールセンター)の設置、対応する従業員の人件費など、回収対応に伴う社内コスト。

さらに見落とせないのが、費用には表れない信用の低下です。回収対応が遅れたり不誠実だと受け取られたりすると、ブランドへの信頼が傷つき、その後の売上に長く影響することもあります。「素早く・誠実に回収する」こと自体が、企業を守るリスク対応であり、そのための資金的な備えが経営課題になります。

なぜPL・リコールは中小企業の経営を揺るがすのか

POINT

製品は広く・大量に出回るため、一つの欠陥が「数」となって損害を拡大させます。賠償とリコール費用が同時に発生する点が、中小企業にとって特に重い負担となります。

PL・リコールのリスクが特に重いのは、製品というものが「同じものが、大量に、広く」出回る性質を持つためです。一つの設計上の欠陥は、その型のすべての製品に共通します。つまり、一個の問題が一瞬で何百・何千という単位の問題に膨らむ。これが、製品リスクが高額化しやすい構造です。

しかも、製品事故では多くの場合、被害者への賠償と、リコール費用が同時に発生します。事故で誰かがケガをすれば賠償が生じ、同時に同じ製品が他にも出回っていれば回収しなければならない。二重の負担が一度に押し寄せるのです。

大企業であれば内部留保や保険で吸収できる規模でも、体力の限られた中小企業にとっては、この二重の負担が資金繰りを直撃しかねません。だからこそ、製造・販売に関わる企業は、PL・リコールを「起こらない前提」ではなく「起こりうる経営リスク」として、あらかじめ備えておく必要があります。

ISO31000で考える、PL・リコールへの備え方

POINT

備えの基本は、欠陥を出さない「低減」を土台に、防ぎきれない事故とリコール費用に保険で備える「移転」を組み合わせること。順序を間違えないことが肝心です。

リスクマネジメントの国際規格であるISO31000では、リスクへの対応を「回避・低減・保有・移転」の4つに整理します。PL・リコールに対しては、特に「低減」を土台とし、「移転」で残りに備えるという組み合わせが基本となります。

まず最優先で取り組むべきは「低減」、すなわち欠陥そのものを出さない・流出させない社内の取組です。

  • 🔍品質管理・検査体制の強化:設計段階のレビューと、出荷前の検査で、欠陥を市場に出す前に発見する仕組みを整える。
  • 📄取扱説明書・警告表示の点検:「指示・警告上の欠陥」を防ぐため、危険性の説明や使用上の注意が十分かを定期的に見直す。
  • 🗂️トレーサビリティの確保:製造ロットや出荷先を記録し、万一の際にどの製品を回収すべきかを素早く特定できるようにする。
  • 📞初動・回収手順の準備:事故やクレームを把握したときの連絡経路と、回収を始める判断基準・手順をあらかじめ決めておく。

しかし、どれだけ「低減」に努めても、製品事故の可能性をゼロにすることはできません。そこで必要になるのが「移転」、すなわち保険による備えです。PL・リコールに関わる備えの選択肢を整理すると、次のようになります。

備えたいリスク 備えの選択肢(移転)
製品の欠陥による対人・対物事故 生産物賠償責任保険(PL保険)/製品事故で第三者に与えた損害の賠償に備える
製品回収にかかる費用 リコール費用に備える保険・特約/回収・告知・交換などの費用に備える
賠償をめぐる争いの費用 賠償責任保険に付帯する争訟費用/弁護士費用・調査費用などに備える

重要なのは順序です。まず「低減」で欠陥の発生と流出を抑える努力を尽くし、それでも残ってしまうリスクを「移転」で備える。保険はあくまで最後のセーフティネットであり、日々の品質管理という土台があってこそ機能します。なお、PL保険やリコール関連の備えは、補償の対象範囲・支払限度額・自己負担額が商品ごとに異なります。自社の製品・取引の実態に合っているかを確認することが大切です。

まとめ:PL・リコールは「ものづくり企業」共通の経営課題

本記事では、製造物責任(PL)とリコール(製品回収)という2つのリスクの正体と、ISO31000に基づく備え方を解説しました。最後に重要なポイントを振り返ります。

  • PL法では過失がなくても、製品の「欠陥」があれば責任を問われる
  • 欠陥には製造上・設計上・指示警告上の3種類があり、輸入・販売業者も責任を問われうる
  • 製品事故では賠償とリコール費用が同時に発生し、二重の負担となる
  • リコールには告知・回収・交換・人件費など多額の費用と、信用低下のリスクがある
  • 備えは「低減」(欠陥を出さない)を土台に「移転」(保険)を組み合わせる

株式会社キールは、ISO31000基準のリスクコンサルティングを強みとする、神奈川県大和市の法人専門の保険代理店です。「自社の製品に、どんなPL・リコールリスクが潜んでいるかわからない」「現在の保険で、製品事故と回収費用の両方に備えられているか不安」といった、ものづくりに携わる経営者さまのご相談を、初回無料にて承っております。

製品事故やリコールは、誠実にものづくりに取り組む企業であっても、起こりうるリスクです。正しく認識し、適切に備えることで、御社の事業と築き上げてきた信頼を守ることができます。「向かい風」を恐れて立ち止まるのではなく、しっかりとした備えを土台に、安心してものづくりを前へ進めていきましょう。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 部品を作って納めているだけの下請けでも、製造物責任を問われますか?

部品や原材料の製造業者も、その部品の欠陥が原因で損害が生じれば、製造物責任を問われる可能性があります。一方で、PL法には、完成品メーカーの設計に関する指示に従ったことで欠陥が生じ、かつその欠陥が生じたことに過失がない場合などに、部品・原材料の製造業者の責任が免れられる規定もあります。ただし、これは個別の事情によって判断が分かれる難しい論点です。「下請けだから無関係」と考えず、自社が供給する部品にどのようなリスクがあるかを把握し、取引先との責任範囲を契約で明確にしておくこと、そして万一に備えることが現実的です。具体的な責任の有無については、弁護士など専門家への確認をおすすめします。

Q2. PL保険に入っていれば、リコール(回収)の費用も補償されますか?

一般的に、生産物賠償責任保険(PL保険)は「製品の欠陥によって第三者に与えた損害の賠償」に備えるもので、製品そのものを回収する費用は、標準では対象外となっていることが多いです。リコール費用に備えるには、リコール費用を対象とする保険や特約を別途検討する必要があります。つまり、「製品事故の賠償(PL保険)」と「製品回収の費用(リコール費用の備え)」は、別々の備えとして考えるのが基本です。自社の製品が広く流通している場合は、賠償だけでなく回収費用への備えも重要になります。どこまでが現在の保険で対象になっているか、抜けている部分はないかを確認することをおすすめします。

Q3. 製品リスクの備えとして、まず何から手をつければよいですか?

まずは「自社の製品が、どのように使われ、どんな事故につながりうるか」を書き出すことから始めるのがおすすめです。誰が・どんな場面で使い、誤った使い方も含めてどんな危険が考えられるかを洗い出します。次に、その事故が起きたときに「賠償がどれくらいになりそうか」「回収するとしたらどの範囲・どれくらいの費用か」を考え、あわせて現在の品質管理・検査体制や、取扱説明書の警告表示が十分かを点検します。この棚卸しによって、優先的に強化すべき社内対策(低減)と、保険で備えるべき部分(移転)が見えてきます。一人で進めるのが難しい場合は、リスクの専門家に相談することで、見落としを防ぎながら効率的に進められます。

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ABOUT THE AUTHOR 執筆者

真下 恭徳 (株式会社キール 代表取締役)
2017年に三井住友海上火災保険へ入社し、神奈川県央エリアのプロ代理店を担当。オリックス生命保険を経て、2021年からAIG損害保険 横浜支店でICA(法人営業の専門担当)として中小企業のリスクコンサルティングに従事。2026年に株式会社キールを設立。ISO 31000に基づくリスクコンサルティングと、法人向けの損害保険・生命保険の代理店業務を行う。健康経営アドバイザー。

【出典】製造物責任法(平成6年法律第85号)第2条〜第6条(e-Gov法令検索)
本記事は製造物責任とリコールに関する一般的な情報提供であり、特定の保険会社・保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。保険の補償内容・支払いの可否は、ご契約の約款によります。個別の責任の有無については、弁護士等の専門家にご確認ください。